吉田豪インタビュー企画:紀里谷和明「『CASSHERN』ファンもいるのに隠れキリシタンみたいに…」(1) (5/5ページ)

デイリーニュースオンライン

評論家と対立するつもりはないけれど……

──あのとき、本来だったら『イレイザーヘッド』とか、自分と同じような映画を好きな人たちから叩かれるのって心境としては複雑だったんじゃないですか? 

紀里谷 そうそう! だからね……うん、複雑ですよね。そこらへんの話をさせたら延々できるんですけど。かといって『イレイザーヘッド』みたいなの作りゃいいのかって話もあって。……ただ、この次の映画は、ホントにこれまでと全然違いますからね!

──そうなんですか!

紀里谷 それは興味深いと思うんですけど……なんだったんでしょうね? でもやっぱり、この年っていうのはすごい勉強したつもりなんですよ。右も左もわからないまま映画に入ってきちゃって、ハリウッドにも行ってものすごい勉強してきたつもりで今回『ラスト・ナイツ』を作ったんですけど、この10年間、3本の映画を通して自分が壮大な映画学校に行ったみたいな。こういうこと言うと出てる人たちに非常に失礼になるんですけど(笑)。

──全部つながってるわけですね。

紀里谷 すごいつながってる。1枚の写真からずっとつながってるし、もっと言えば、できなかった音楽からもつながってますからね。その当時コンピュータで音楽を作ってたから、すんなりとフォトショップにも入れたと思うし。

──評論家的なものに対する複雑な感情っていうのはだいぶクリアされてきてるんですか?

紀里谷 こればっかりは僕、ホントに対立の図式にするつもりはこれっぽっちもないんですよ。評論家って必要だと思うし。自分だって当時、そういう評論家の人たちがいたから、すんげえマニアックなバンドとか発見できたわけじゃないですか。とっても重要なことだと思うんですよ。ただ、まったく違う論点とか観点のときは「それ、そうじゃないんですよ」って反論したくなる。結局あれって欠席裁判みたいなことじゃないですか。たとえば『CASSHERN』でも、「なんでヘルメット被らないんだ」とか「なんで犬が出てこないんだよ」みたいな論調で言われちゃうと、「そこ言われちゃっても、そもそもそういうところで作ってないでしょ、俺」っていう。

──フレンダーが活躍しないとキャシャーンじゃない!とか言われても、と。

紀里谷 そうそうそう。だからそこをもっと建設的にいければ、『CASSHERN』という題材の本質的なところを読み解いていくと、オリジナルはそもそもめっちゃ暗い話だし。「原作を冒涜しやがって」って言うような人ほど、じつは原作を観ていないっていう感じがすごいしますよね。そういうのも含めて評論家と呼ばれる人たちが自己のエゴのはけ口として評論というツールを使ってるように見えるときがあるんですよ。

──この映画評論家は好きっていうのはあるんですか?

紀里谷 俺そこまで知識ないです、評論家に対して。そこまで深い評論をされた気がしないんですよね。でも、『CASSHERN』のときは、本田さんって人が唯一誉めてくれたんだよね。あともうひとり、すごい有名な人……誰だっけ? 映画評論家ですごい有名な人いるじゃん。

──ザックリしすぎですよ! もうちょっとヒントを。

紀里谷 ハハハハハ! なんだっけ? 男の人でさ。社会学者の人!

──宮台真司さんとか?

紀里谷 あ、宮台さん。

──当たった!

紀里谷 宮台さんがキリストの原罪のところまで掘り下げてて、わかってる人いるじゃんっていうのは思った。結局、元ネタがシェイクスピアだったり、キリストとかそこらへんまで遡って俺がやっちゃってるもんだから、浅く観られちゃうと違う方向になっちゃうわけですよ。まあ、そもそもそれを『CASSHERN』でやるなって話なんだけど。

──ダハハハハ! その自覚はあるんですね(笑)。

紀里谷 そうじゃなければ違う見え方してたんじゃないかなっていうのは思いますけどね。まあ、11年前の話なんで。

──なんとか再評価されるように持っていきたいですね。

紀里谷 いや俺、再評価されると思うもん。たとえば何十年後かに振り返ったときに、「21世紀の1本」みたいなのに入ると思うよ。

<続きはこちら>

『ラスト・ナイツ』

 忠臣蔵をベースに“最後の騎士”たちの戦いを描いた>紀里谷和明のハリウッドデビュー作。

 監督:紀里谷和明 出演:クライヴ・オーウェン、モーガン・フリーマン、伊原剛志、他 

 提供:DMM.com 配給:KIRIYA PICTURES/ギャガ (C) 2015 Luka Productions

プロフィール

映画監督

紀里谷和明

紀里谷和明(きりやかずあき):1968年、熊本県出身。15歳で単身渡米し、アートスクールでデザイン、音楽、絵画、写真などを学び、パーソンズ美術大学で建築を学ぶ。卒業後は写真家、映像クリエイターとして活動。2004年にSFアクション『CASSHERN』で映画監督デビューし、2008年にはアドベンチャー時代劇『GOEMON』を発表。このたび、監督作第3弾となる『ラスト・ナイツ』でハリウッド・デビューした。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

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