【永田町炎上】官僚が描いた「政治劇」を演じる安倍首相と与野党議員

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深夜に攻防が繰り広げられている。Photo by DS80s
深夜に攻防が繰り広げられている。Photo by DS80s

【朝倉秀雄の永田町炎上】

■総理が読む原稿に巧妙に仕掛けられたワナ

 1月4日に第190国通常国会が召集され、夏の参院選を見据えた論戦が始まった。

 ところでNHKの国会中継を観たことがある読者諸氏なら総理大臣が本会議の「所信表明演説」や「施政方針演説」で演壇の上の原稿をしきりにめくっていることにお気づきであろう。

 総理の演説に対し各党が「代表質問」を行なう。与党の質問は総理を持ち上げるだけでぜんぜん面白くないが、野党にとって党の存在や政府との政策の違いを有権者にアピールする絶好のチャンスだから、質問者にはたいてい代表や幹事長、政務調査会長などといった、いわゆる“論客“を立てる。日本の国会質疑は本会議では「一括質問・一括答弁方式」で、委員会では「一問一答方式」行でわれる。当然、本会議での総理の演説は総花的な美辞麗句を並べた原稿を読み上げるだけであり、答弁も同じである。だからすっかり形骸化し、「セレモ二ー」と化していることは否めない。

 その点では「一問一答式」の委員会質疑のほうがまだ活気がある。むろん総理の演説・答弁ともに原稿は総理が自分で考えたものでも書いたものでもない。これらはすぺて「官僚」によって作られる。具体的には各省庁から上がってきた演説や答弁原稿の草案は「縦割り行政」の弊害ゆえに、さながら「短冊状」になっていることから、官僚たちは俗に「短冊」と呼んでいる。

 各省庁からあがってきた短冊を官僚スタッフである「内閣総務官室」と財務・外務・経済産業・警察の4省庁から出向している「事務担当・総理大臣秘書官」が組み合わせて原稿ができあがる。「事務秘書官」は、いずれも4省庁の課長以上の入省年次で、将来の事務次官候補たるエース級が選ばれる。彼らは出身官庁の利益代弁者であり、官邸に潜入している“高級スパイ“のごとき存在だから、職務上、知り得た機密情報をすかさず出身官庁に「ご注進」に及び、国益よりも省益を図る弊害も少なくない。

 しかも、彼らは言葉を操ることにかけては「職人芸」の持ち主であるから、総理の演説原稿の中にさりげなく自分たちに都合の良い文言を潜り込ませる。例を挙げよう。2007年の第一次安部政権時代、通常国会冒頭での総理の施政方針演説の原稿に、官僚の天下りについてこんな言葉があった。「予算や権限を背景として押しつけ的な斡旋による再就職を根絶する」──。だが、そもそも「押しつけ的な斡旋」などというもの初めから存在しないという言い分も成り立つ、だから「これまで通り天下りは許される」という解釈になってしまう。官僚たちによる「レトリック」である。

 これは見方によっては、官僚が総理の口を借りて自分たちがやりたい政策を国会に向かって発信しているとも言えよう。「小役人」どもが国家の最高権力者である総理を巧みに操縦しているわけだ。安部内閣の下で「政治主導=官邸主導」が着々と進んでいるが、国会質疑における「官僚依存体質」だけはなかなか払拭できないでいる。

■深夜の攻防──官僚たちの「質問取り」の実態

 同じことは委員会質疑にも言える。日本の国会は米国に倣い「委員会中心主義」を採っているから、法律案にせよ予算案にせよ実質審査は委員会で行われる。反面、総理や閣僚は野党の執拗な質問攻勢に曝されることになるから、前もって官僚たちから念入りな「ご進講=レクチャー」を受け、かつ答弁原稿や付属資料に目を通して内容を咀嚼し、頭に叩き込んでおかないと、たちまち答弁に詰まり、とんだ大恥をかくことにもなりかねない。

 閣僚たちが議場に答弁資料を持ち込み、熱心にラインマーカーを引いているのもそのためだ。2014年の9月の内閣改造で法相に抜擢されながら「うちわ問題」で失脚した松島みどりの後任の上川陽子などは初歩的な法律知識さえ持たない人物だから、答弁もしどろもどろになり、しばしば後ろに控えている法務官僚が耳打ちしたり、メモを差し入れたりして助け舟を出していたことなどは「官僚依存体質」の典型例であろう。

 本会議にせよ委員会にせよ、国会質疑にはルールがある。質問者は前もって質問内容を「事前通告」しなければならない。だから質問者が決まると、さっそくその議員の事務所に押しかけ、あの手この手で、できるだけ質問内容を詳しく知ろうと偵察に入る。これを業界用語で「質問取り」と称している。まさに官僚と議員との深夜の攻防である。質問者の原稿も議員本人が作るとは限らない。芸能人やスポーツ選手あがりのように、目立ちたがりたいくせに、いったい何を質問したらいいのかわからないような者も少なくない。

 では質問者の原稿は誰が作るのであろうか。これには──(1)自分の政策秘書が作る、(2)党の政務調査会のスタッフに頼む、(3)委員会に対応して衆参両院に置かれている調査局(参議院では「調査室」)の調査員に依頼する、(4)答弁する側の官僚が作る──などのケースが考えられる。(4)は与党議員に多いが、狡猾な官僚は前もって質問に立つ議員の資質などを十分に下調べしておき、その議員が自分では質問原稿を作る能力がないと見抜くや、「もしセンセイのほうにご異存がなければ、わたくしどものほうで質問原稿をご用意させていただいてもよろしいのですが?」などとすかさず好餌を投げてくる。

 自分たちがやりたい政策をアピールする絶好の機会だし、答弁も楽である。質問する議員側も答弁する閣僚側も官僚の書いたシナリオによって「政治ドラマ」を演じる下手な「役者」だと言えよう。テレビに映る委員会質疑や総理の演説の裏側で、官僚が蠢いているのだ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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