【永田町炎上】議員定数削減が有権者に不利益なワケとは?

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安倍首相はどう判断するのか?
安倍首相はどう判断するのか?

【朝倉秀雄の永田町炎上】

■日本の衆議院議員の数は実は少なすぎる!

「主権者」である「国民」の声をできるだけ多く吸い上げるためには、国会議員の数は多いほうがいいい。有権者の選択の幅も広がる──議員定数削減が議論されている今、このように書くと違和感を覚える読者もいるかもしれない。

 目下、衆議院選における一票の格差是正と議員定数削減論議が与野党の思惑も絡み、たけなわである。だが、2月29日、これまで慎重姿勢だった自民党が衆議院議長の諮問機関が答申した「アダムズ方式」を容認する方針を決めた。

 2月26日に速報値が公表された2015年の簡易国勢調査の結果によると、現行の議員1人あたりの人口格差は最大の東京1区と最小の宮城5区では2.334倍。2倍以上の小選挙区の定数は「9増15減」になるという。2010年の国勢大規模調査の段階では「7増13減」だったから、5年間の人口移動でよりいっそう一票の格差が広がったことになる。これでは一票の格差をいくら是正しようとしてもキリがない。

 いずれにせよ、連立を組む公明党をはじめ民主党や維新の党などがこぞって「アダムズ方式」の採用に前向きのなか、当初自民党は難色を示していた。地方で圧倒的に選挙が強く、どの政党よりも大きなダメージを受けることが明らかだったからだ。しかし、自民党が急に方向転換したのは、孤立と国民から衆院選改革にあまり熱心でないと受け取られるのは避けるためだろう。

 もっとも今国会で成立をめざす小選挙区を「0増6減」とする公職選挙法の改正案に「2020年の国勢調査後に導入することを明記する」だけの話で、「先送り路線」には変更はない。「アダムズ方式」というのは、米国の第6代大統領アダムズが考案したものだ。

 要するに各都道府県の人口を「同一の数字」で割り、「商の小数点以下を切り上げた数」を、その都道府県の定数とし、都道府県ごとの定数の合計が小選挙区の総定数と一致するように「同一の数字」を調整してゆくやり方だ。現行制度よりも人口比を反映しやすく、「商の小数点以下を切り上げる結果、どんなに人口が少ない県(極端なことを言えばたった1人)でも、最低1議席が配分されるところ」に特徴がある。ただ「同一の数字」が予めわからず、何度も試算してみなければはっきりしないから、国民にはすこぶる理解しにくい。

 ところで共産・社民両党以外は「小選挙区6減、比例代表4減、計10名の定数削減」には賛成のようだが、はたして日本の衆院議員の数は他の先進国の下院に比べて多すぎるのであろうか。

 ここで先進7カ国(G7)の下院議員の1当たりの人口を比較してみると、日本=26万8000人(定数475人・人口1億2730万人)、英国=9万8000人(同650人・同6390万人)、イタリア=9万6000人(同630人・同6023万人)、フランス=11万1000人(同577人・同6379万人)、ドイツ=13万5000人(同598人・同8065万人)、カナダ=10万4007人(同338人・同3516万人)、米国=72万2000人(同435人・同3億1391万人)となり、米国以外は数字が日本より小さいことが解かる。逆を言えば、大半の先進国は日本よりも少ない人口で、より多くの下院議員を養っていることになる。日本の衆議院議員の数はむしろ少な過ぎるとも言えよう。現在の475議席を10減すれば465議席となり、現行憲法下で最低だった466議席を下回ってしまう。

■国会議員の定数を減らせば、立法府の機能は低下する

 新聞の投稿欄などをみると、国民の多くは国会議員の定数削減に賛成のようだが、それが自分たちの首を絞めていることに気づかない。民主党や維新の党などはそんな国民の無知に乗じ、「身を切る改革」などと詭弁を弄し、衆院予算委員会で慣例を破り野田佳彦前総理や岡田克也代表などを質問者に仕立てて、安倍総理に執拗に定数削減を迫っているが、筆者には「国民受け」を狙った単なる「パフォーマンス」としか思えない。

 財務省は2月10日、国の借金の残高が2015年12月末現在、1044兆5904億円だったと発表した。2015年末の国内総生産(GDP)は約527兆だから、財政赤字はGDPの2倍にも及び、国会議員の数を減らしたところで焼け石に水。ほとんど税金の無駄遣いの解消につながらない。衆議院議長の諮問機関の答申でも「定数削減に積極的な理由や理論的根拠は見いだし難い」と指摘している。

 2月23日の『読売新聞』の社説が警鐘を鳴らすように、もし議員の質を担保せず、数だけ減らせば、それだけ選挙で多様な民意を吸い上げにくくなる。また「議院内閣制」の下では、内閣は国会─特に衆議院の信任の上に成立・存続を許されるが、「国権の最高機関」であるはずの国会は、政府に対する監視機能も確実に低下する。好むと好まざるにかかわらず、国民の代弁者は国会議員しかいないのだから「国会議員の数を減らせ」というのは、「自分たちの代弁者を減らせ」というのに等しく、国民にとっては「自分の首を絞める」ことにもなりかねない。

 しかも定数が少ないほど、格差是正は難しくなる。もし「身を切る改革」をするなら、定数削減などではなく、むしろ政党交付金制度を廃止すべきであろう。選挙制度は議会制民主主義の「土俵」を決めるものであるから、民主的基盤を持たず、「浮き世離れ」した、わずか15名の裁判官で構成する最高裁の「違憲状態」などという判決などに惑わされることなく、あくまで政治主導で決めるべきだ。

 いずれにせよ、選択の幅を狭める議員定数の削減には絶対反対だ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中
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