吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSでは高熱が出ようが何しようが絶対に休ませなかった」(2)

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吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSでは高熱が出ようが何しようが絶対的に出すようにしてたんです」(2)
吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSでは高熱が出ようが何しようが絶対的に出すようにしてたんです」(2)

 プロインタビュアー吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。アイドルグループBiS、BiSHなどのプロデューサーである渡辺淳之介さんをゲストに迎えた第2回。強烈な話題作りのやり方や、以前在籍した会社で学んだ方法論、アイドルに対するハードなスタンスについて聞きました!

※前回記事:吉田豪インタビュー企画:渡辺淳之介「BiSはスクールカーストの最下層系で一般ピープルの星」(1)

■BiSのこじれる人間関係に巻き込まれた吉田豪

──アイドルは追い込んだほうがおもしろくなるっていうのは、どの段階で気づいたんですか?

渡辺 エクストリームなほうが反応があるとは思ってたんですけど、BiSで初めてPVを撮ったときに、電車のなかで清掃してそのあとデコレーションするっていうのを山手線でやったんですけど。

──パンチラで話題になったPVですね。

渡辺 はい、パンチラで話題になって。そのときにも結構楽しかったのと、映像のなかにそんなものわざわざ入れてはいないんですけど、やっぱりちょっと緊張感があるというか……。

──あれはゲリラ撮影ですよね?

渡辺 ゲリラ撮影で電車が止まっちゃったんですよ、マジで5分ぐらい。

── えっ!? ゲリラ撮影のせいで?

渡辺 点検が入るってことで僕たちは逃げたんですけど、結局捕まって駅員に囲まれて(笑)。それもじつはちゃんと観るとPVに入ってるんです。駅員さんに怒られてるところがちゃんと映ってて、そこからかな。今だったら怖くて絶対もうそんなことやらないですけどね。

──予算をかけずにいろいろ仕掛けて話題を作っていこう、と。

渡辺 はい。結局文字ヅラにあるもの以上に緊張感が作品に表れるというか、やっぱり緊張感のないものってあるんですよね。絶対に伝わらないんですけど、ものすごい寒いところで撮ってるとか、そういうところのほうが人間にくるものがあるっていうか。

──わかります。その気温は伝わらなくても空気感だけは伝わるっていうか。

渡辺 そうなんですよ。そういうところは結構最初から考えてて。たとえば当時、衣装でも誰々を起用とか流行ってたんですけど、有名なデザイナーを使えるわけじゃなかったので、そうじゃないものでなんとかするっていうところでいうと、そっちだったんですよね。とりあえずPVでも脱いで走れとか。

──初期は特にそんな感じでしたよね。本に書いてない話でいうと、ももいろクローバーZのアルタ前イベントにコスプレして行って、ゲリラライブやって叩かれたりとか。

渡辺 そうなんですよ。昔のパンクバンドでいう乗っ取りライブみたいなのもおもしろいかなー、みたいなことで。

──大人の事情とか一切考えないでやっちゃって。

渡辺 そうですね。僕に大人の友達が全然いなかったので、大丈夫かなって。

──そんな流れで渡辺さんがBiSの人間関係をゴチャゴチャにしていくわけじゃないですか。ボクは当時、思いっきりそこに巻き込まれたわけですよ。

渡辺 ハハハハハ! はい、寺嶋とかそうでしたよね。

──由芙さんがあまりにもヤバそうだったんで、挨拶ぐらいしかしたことなかったのに「大丈夫ですか?」って連絡したら、「相談に乗ってください。事務所の許可は得ました」って返事が来て、人生で初めて事務所の許可を得たうえでアイドルと会って相談に乗ることになったっていう。

渡辺 ハハハハハ! そんなのもあったなあ。

──で、ボクが必死にBiSを辞めないように説得するっていう、おかしな展開になって。

渡辺 すみません! でも、おもしろいですよね、助けてくれるのは絶対に事務所のはずなのに、外に助けを求めるんですよ。外の人たちってどっちでも言えるじゃないですか、「もういいよ。辞めちゃえよ」とか「いやいまは残ったほうがいい」とか。だいたい外の人に言ってほしいのは「辞めちゃえよ」だと思うんですよね。でも、そのあとべつにその人が助けてあげるわけでもないって考えると、「辞めちゃえよ」ってすごい投げやりな言葉なんですよ。でも、意外とそっちを受け入れちゃうので、僕もたいへんだなとは思うんですけどね。ホントはつらいなら事務所の人に助けを求めればいいんですけど。

──まあ、事務所の人を信用できなくなっちゃったからこそなんでしょうけど。

渡辺 信用できなくなっちゃったら完全に辞めたほうがいいと思うんですけど。僕は嫌いな人がいたら、なかに入って暴れたいんで。たとえば事務所がどうしてもだめだったら、その事務所で暴れたいんですよ。それで粉々にするとか。

■最初の会社の給料は8万円だった

──そこから逃げずに。

渡辺 逃げずに。その感覚がないのが成功しない原因なんんじゃないかなって思うんですよ。たとえばお給料がないとか交通費がないとか、いろいろ不満もあると思うんですけど、そこは最初に説明してるはずで、覚書にも全部書いてあるから何も文句言えないはずなんですけど、そこはだんだんすり替えてくるじゃないですか。ブラック企業もたぶん最初に説明してるはずなんですよね、「残業代は出ないよ」とか。でも、それが「ほかの会社は残業代がしっかり出てるのにウチは出ない……」とか、だんだん悪いとこしか見えなくなってきちゃう。それがホントに残念で。僕がつばさレコーズに入ったとき、給料が8万円だったんですよ。当然ありえないんですけど。

──それ社会のルールとして普通は「なし」ですよね。

渡辺 そうなんですよ。でも、僕が単純に思ったのは、俺がどうしても必要になったら、この8万円は8万円じゃなくなるだろうなっていうことなんですよね。いいとこばっかり見ればいいのになって僕は思うんですよ。

──悪いところばかり見るんじゃなくて。

渡辺 それでいうと引っかき回して人間関係をダメにするタイプなんですけど、ものすごいポジティブで。お金がないならないなりの生活をすればよくて、キリスト教の「暗いと不平を言うよりも進んで明かりをつけましょう」って言葉が最近はよくわかるようになって。不平を言ってもマイナスの人しか集まってこないんですよね。僕はいいことしか言わないんですよ。マイナスなことってTwitterでもあんまりつぶやかなくて。マイナスのこと言ってると、マイナスの人たちって負のオーラで集まってきて、どんどん自分たちで足を引っ張り合っちゃうから、前向きになってるヤツ以外はあんまり近づかないようにしてて。僕も悪口はめっちゃ言うんですけど、前向きに言いますね。

──前向きな悪口……?

渡辺 だから寺嶋由芙も大嫌いだし、しゃべりたくもないんですけど、頑張ってほしいなとは思うし。

──前向きだ(笑)。

渡辺 だから言ったとおりのことをしてほしくて。ちゃんとダンスレッスンとボイトレやって、早く武道館行ってほしいなって僕は思ってるんですけど。

──それ、エールじゃなくて嫌味ですよ(笑)。あの頃、ボクは由芙さんに「話し合いましょう!」って言うだけじゃなくて、その直後にBiSのラジオ『ビッスン?』(ラジオ日本)に呼ばれたから、プー・ルイさんにも「国技館ワンマンの前に話し合いましょう!」「とにかくいまはメンバーの話し合い!」ってずっと言い続けてたんですよね。

渡辺 ハハハハハ! でも、あのときはもう話せない状況になっちゃってたっていうのと、粗探ししかできなくなっちゃったっていうのがあったんだろうなと思っていて。

──……そういう状況にしたのは渡辺さんでもあるわけですよね。

渡辺 99パーセント僕ですね。

■軽はずみな言動で相手を切れさせてしまう

──つばさレコードの前にはデートピアに所属してた話も本に出てきましたよね。

渡辺 そうですね。でも、僕も1年いたかいないかぐらいなんですよ。

──ボクが「新宿タワレコの近くのカフェで会いたい」って言われてデートピアの人と打ち合わせしたときに、いきなり「吉田さん、このへんのいい風俗知らないですか? せっかくだから帰りに風俗でも寄ろうと思ってるんですけど」って聞かれて、すごい会社だと思って。

渡辺 ハハハハハハハハハ! デートピアって名前自体が風俗みたいですからね(笑)。

──デート商法のデストピアみたいな(笑)。わかりやすく説明すると、Perfumeが流行ったらAira MitsukiとかSaori@destinyみたいに、それに便乗したアイドルを次々作るような会社で。

渡辺 そうですね。デートピアの輝門社長っていうのがビーイング出身なんですけど、単純にビーイングイズムというか、宇多田ヒカルがきたら倉木麻衣みたいな感じの方だったんで、めっちゃ勉強になりましたね。デートピアっていう完全に新興の会社がどうやって目立っていくかみたいなところでいうと。

──渡辺さんがデートピアで学んだのって、パクリでもおもしろければいいみたいな発想なのかなと思ったんですよ。

渡辺 そうですね。パクッていいんだなって思いました(あっさりと)。

──やっぱり!

渡辺 二番煎じ上等みたいな。色々もちろん叩かれたりもしてましたけど、かなり勉強させてもらって、BiSでも活かしました。僕は絶対批判しないんで。

──悪いのは会社じゃなくて自分にしたい。

渡辺 はい、僕がいけなかった(笑)。悪口を言うと、その悪口が広がるじゃないですか。俺、逆にパブリックイメージはめっちゃ悪いんですけど、じつはいい人って言われたいタイプで。ただ、頑張っていろんな会話とかから分析しようとはするんですけど。何にせよ表情が読めないです。あと、軽はずみな言動がだいたいキレさせますね。

──それはウケると思ってやっちゃってるわけでもなく、ナチュラルに出るんですか?

渡辺 ナチュラルです。それはどうしようもないんで、会社に入ってからは「おまえは空気を読めないし、直せる問題じゃないから、とりあえずいい人だっていう演技をしろ」ってデートピアで教えてもらいました。それだったらできるかもと思ってやってるのが、いまの自分だったりするんで。感情表現はすごい苦手なんですけど、ナチュラルに出ちゃうから、「ヤバい、いま素に戻ってた!」みたいなときが、だいたいキレさせるポイントです。

──そういう渡辺さんの謎が解けたっていう意味では、いい本だったんですよ。BiSがなんでああなったのか、すべて謎が解ける。感情を読めない人だったら罪悪感も持たずにメンバーをあそこまで追い込むこともできるよなって。

渡辺 そうなんですよ。結構おもしろいなと思ったのが、過呼吸で倒れたりするじゃないですか、何がつらいんだろうなと思って(あっさりと)。

──ダハハハハ! つらいに決まってますよ!

渡辺 ハハハハハ! 僕、過呼吸になったことないし、高熱でつらかったりしても、そんなにつらいと思ったことがないんで、何をこいつはこんなにつらそうなアピールをするんだろうな、みたいな。

──メンバーが過呼吸でブッ倒れてるのを見ても、「もうちょっと頑張ればいいのに」ぐらいの感じでいたら、そりゃあモメますよね。

渡辺 そう、まだできるでしょって。

──ひどいなー(笑)。致命的なぐらいアイドル運営に向いてないですよ!

渡辺 でも、あきらめさせるのも結構大事なので。たとえば優しい運営の人たちは空気を読んじゃうから、明らかに向いてない女の子でもアイドルを続けられてたりしますけど、そんなの辞めさせりゃいいんですよ(あっさりと)。

──うわー(笑)。

■本当はインフルエンザでも活動させたい

渡辺 あと、あれもどうかと思う、彼氏が原因でアイドル辞めるヤツら。あれアイドル続けてたほうが彼氏とうまくいきますからね。価値が下がってだいたい1週間ぐらいで別れます(笑)。辞めないほうがおまえがその男を引き止められるんだぞって思うんですけど、彼氏も辞めろって言うんでしょうね。

──ジェラシーで。

渡辺  ホントにバカだなと思って。

──ヲタとつながってアイドルが辞めるのもそうですよね。ヲタもアイドルのあなたが好きでつながりにいってるのに、辞めてどうすんだよっていう。

渡辺 稀有な例としてうまくいったところもあるんだと思うんですけど、だいたいダメでしょうね。そう思うとホントにみんなちぐはぐなことをするんですけど。そこでいうと、僕はちぐはぐなことをしてないのかもなと思います。ずる賢いというか、こすいというか。そういう意味で僕はたぶん相当嫌なヤツですね。プライベートは結構優しいんです。相手を突き放さないし、連絡もマメだし。

──アイドルと接するときとは違って。

渡辺 そうです。でも、そうすると、どんどん相手がメンヘラチックになって、もっと欲しいもっと欲しいになっちゃうんで、適度に突き放すことはすごく大事だと思って。だから、体調不良のためライブに出ないとかありえないと思うんですよ。そんなヤツは辞めたほうがいいんです、アイドルやってる必要ないんで。BiSでは高熱が出ようが何しようが絶対的に出すようにしてたんですよ。インフルエンザは業界としてルールがあって出しちゃいけないらしいんで、それはしょうがないんですけど。

──そのルールがなかったら出してるんですか?

渡辺 ルールがなかったら出します(キッパリ)。

──ダハハハハ! インフルエンザぐらい伝染ってもいいじゃんって(笑)。

渡辺 伝染ってもいい(キッパリ)。だって出なきゃいけないじゃないですか。そういうところでいうとウチはかなり厳しいですよ。熱が出たからとか体調が悪いとか、そういうのはまったく無視なので。

──ボクも自分に関してはそうですね。プロなんだから体調が悪くたってテレビにもイベントにも出るし、原稿も書く。

渡辺 最近の子たちって仕事してても「ちょっと高熱出して2日間倒れちゃってたんで」とか平気で言いますけど、「締切はその日って言ってたじゃん」「いや、会社のパソコンなんで持ち出しとかできないんで」って、だったら会社に行けよって感じじゃないですか。それが正義になっちゃう感じは、この業界で言えばないなと思ってて。アーティストとして上に行きたいと願うなら、それくらいの本気は見せないといけないだろうなと思ってて。

──マルベル堂でボクのプロマイドが売られてるんですけど、あれボクが39度の熱を出したとき、地下アイドルの子がプロマイドを撮られるロケに呼ばれたときのヤツなんですよ。フラフラになりながらロケに行ったら「あなたも撮りましょう」って言われて、ボーッとしてノーとも言えないまま撮られたら、その女の子たちのプロマイドは店頭から消えてボクだけ売られ続けているっていう。

渡辺 そういうところが違うんだと思うんですよね。僕は熱でつらそうにしてても「はい、立って!」って言うんで。だから僕の事務所の子たちは結構強いかもしれないです。練習ですら休ませないんで。

──そうなんですか。

渡辺 だってスタジオ代がもったいないじゃないですか。逆に言うと5人で練習するって言っててひとり欠けるんだったら、俺がキャンセル代を払ってもいいから練習やめてっていう話をしてて。だから結構みんな牽制し合ってやってるし、緊張感あるかもしれないです。

<次回に続く>

プロフィール


音楽プロデューサー

渡辺淳之介

渡辺淳之介(わたなべじゅんのすけ):1984年、東京都出身。高校を中退した後に大検を取得して早稲田大学に入学。大学卒業後、音楽業界へ。数々の過激な活動で知られるアイドルグループBiSを手がけて大きな話題を獲得する。BiS解散後は、自身の会社である株式会社WACKを設立。アイドルグループBiSHやGANG PARADEなどをプロデュースしている。今年の4月にはその半生を追った書籍『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(宗像明将・著 河出書房新社)が刊行された。また、このインタビュー後の7月8日に新メンバーを募集し元リーダーのプールイと共にBiSを再始動させることを発表してファンを驚かせた。

プロフィール

プロインタビュアー

吉田豪

吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(?)新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。

(取材・文/吉田豪)

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