『ラ・ラ・ランド』のもうひとつの見方…夢を追うことの功罪を考える (2/3ページ)

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 だけれど、セブのピアノの実力だけは本物だった。そこに声を掛けてきたのがキースです。セブの「古き良きジャズ」への想いを知っているにもかかわらず、キースは彼の腕を見込んでバンドへと誘い、そしてバンドは実際に大成功して、セブは経済的にも社会的にもサクセスするのです。

 さらに劇中で描かれているキースのバンドは非常にハイクオリティです。確かに商業寄りの音楽性ではある。セブが好む音楽性とは明らかに違う。しかし、それはそれとして、そのクオリティの高さも本物なのです。商業音楽だからってリスナーに媚びればそれだけで売れるはずもなく、商業音楽には商業音楽なりの努力とクオリティが存在するわけで、キースのバンドはまさにそのハイエンドを突っ走っており、セブのテクニックもそこで十全に活かされているのです。商業音楽の中で輝くセブのパフォーマンスは本当にカッコイイ。

 さて、ここで天職(Calling)という概念を引き合いに出してみましょう。Callingはキリスト教に根ざした言葉で様々な意味で使われるのですが、今回は少し恣意的に用います。すると、こういう言い方ができます。「誰かがあなたを必要として、あなたに仕事をお願いしてきたなら、それこそが天職である」と。

「充実した仕事」とは何かを考えると、「自分がやりたいことをやる」というのがまず挙がると思います。しかし、上述の「あなたを必要とする声(Calling)に応える」というのも、また一つの「充実した仕事」の形でしょう。なぜなら、相手はあなたの能力を理解し、あなたがその能力を発揮することを期待して、あなたにそれを依頼しているからです。あなたは自分の能力を十全に発揮できる機会が与えられた上に、おまけに、あなたを頼ってきた相手を助けることもできる。そこには充実感と感謝がある。

 商業音楽でピアノを弾くセブも「天職」を得たと言えないでしょうか。それは彼のやりたい音楽ではなかったかもしれない。しかし、セブはキースのバンドで十全に技術を発揮してバンドの成功に寄与し、キースを大いに助けた。夢しかなく腐っていくだけだったセブと、セブの技術を、キースは天職を与えることにより救い出したのです。

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