吉田豪インタビュー企画:北条かや「うまく生きていたら、こんなことにはなっていません」(1) (3/3ページ)
■TV出演のおかげで目が覚めて離婚できた
──『プレイボーイ』で連載しているリリー・フランキー人生相談はボクが構成をやってて、最近そこに来た42歳の美人の人妻がいるんですけど、旦那さんのDVで病院送りになったりしてて、あまりにDVされすぎて洗脳されて自分では何も考えない人生を歩むことにした人だったんですよ。
北条 え! 歩むことにしたんですか?
──そうです。とにかく旦那さんが怖いから自分の意思を一切持たない、自由に外にも出ない。そうすれば殴られないし平和だって感じで、完全に洗脳されちゃってるんですよね。
北条 そのお気持ちはわかります。DVの方って、まず対人関係を遮断しますよね。自分の場合はずっとそれで3年ぐらい結婚していて、結婚生活の最後の方で『モーニングCROSS』に出るようになったので、そこから遮断されようがなくなって。
──外の世界ともだんだんつながっていったんですね。
北条 それまでは雑誌の連載の打ち合わせにも元夫がマネージャーを名乗ってついてきて、元夫がメールをやり取りすることもあって、私が男性編集者と直接会うことは少なかったですし。Twitterで学生時代からつながってる男の子と「久しぶりに3人ぐらいでお茶でもしましょう」ってなったときもホントに怒られて、ブチ切れるっていう感じだったので。だんだん朦朧としてくるんですよ。
──リリーさんの人生相談の人妻と同じような状態だったというか。
北条 そんな環境から、急にテレビ出演が始まると、当時は月3回ぐらい出てたので、毎月3回はリアルに人と会うわけじゃないですか。そこで周りの人が「北条さんってどういう人なんだろう?」って興味を持ってくださるけど、「結婚してることは秘密にしておくように」って感じだったので、私生活については頑なに言わなかったんです。そうすると、ますます「あの人なんだろう?」ってなるみたいで。
──あまりにも私生活が見えなさすぎて。
北条 それで堀潤さんと5月の終わりぐらいに、戦争体験した方のお話を聞きに行って、インターンの女性たちと数人で車に乗って横浜まで行って、その帰りに「北条さん、彼氏とかいないんですか?」って話になって。みなさん、すごく心許をせる感じの方だなあと思って、「彼氏っていうか夫がいるんですけど、ちょっと前も『おまえ人間のクズだな、気持ち悪いから出てけ』みたいに言われて夜中じゅう自転車で渋谷区内を走ってたんですよ」って言ったんですね。自分にとってはそれが普通だったので。
──人が驚くような話とも思わず、あっさりと。
北条 自虐ネタで、これでひと笑い取れるんじゃないかと思って言ったらシーンとなって。堀さんが「……かやさん、そういうときは恵比寿の僕の事務所まで走ってきてくれたらいいですよ。僕の事務所は夜も空いてますので、ソファですけど寝られますよ」って言ってくださって。そのときから、これはもしかしたら普通の家庭ではないんだなと思って。
■離婚の最中に結婚についての本を書いた
──ちょっと洗脳が解け始めて。
北条 そうなんです。それがすごく大きくて。第三者の目が入らないと共依存って抜け出せないんだなぁと思いました。
──『モーニングCROSS』はそんなに大きかったんですね。外の世界と接して、結婚生活が普通じゃないと気づくきっかけになって。
北条 ホントに大きかったです、あれに出てなかったら、まだ離婚してなかったと思います。
──結婚&離婚を隠してたのにはそういう事情があったわけですけど、それを隠したまま『本当は結婚したくないのだ症候群』(16年/青春出版社)という本を出したことでもいろいろ言われてたじゃないですか。
北条 いろんなことのタイミングがいいのか悪いのかわからないんですけど、離婚しようって決めて相談してた弁護士さんとのメールのやり取りを元夫に見つかっちゃって、これはまず家を出ないとだめだと思ったので、1~2週間ぐらいアパホテルに住んでたんです。そのときにちょうど結婚の本の企画をいただいて、アパホテルから打ち合わせに行って、「ちょうどいま離婚の最中なんですけど」って。
──「ちょうどいま、結婚なんかする必要ないと思ってたところなんですよ」って。
北条 それはないです。もともと自分は結婚自体に思い入れはなかったので。状況が状況になったから結婚してしまっただけで、結婚しなきゃだめだと思ったことは一度もないんです。結婚せずに生きていくのもいいって、ずっと思っていたので。そもそも何かを分析する本って、私生活と切り離して出すものだと思ってたんですね。『整形した女は幸せになっているのか』(15年/星海社新書)という整形の本も、自分はそれまで何度かエラボトックスとかをしたことはありましたけど、そういうことは全然書かなかったんです。編集さんから最初に「美容整形の本を書きませんか?」って言われたときも、体験談じゃなくてあくまで社会学のエッセンスをもって分析するっていう感じだったので。結婚の本もそれと同じで、打ち合わせでは「あなたの体験うんぬんじゃなくて、女性たちに取材して、データを使って客観的に書いた方が良い本になる」という感じだったんですよ。結婚してもしなくてもいいという自分の考えというか直感を、データで裏付ける。そういう書き方が普通だと思っていたので、自分の状況は関係なかったんです。
──でも、やっぱり自分のこともちゃんと出したほうがよかったとボクは思うんですよ。
北条 そうなんでしょうか……。そこがまだわからなくて。
■これからは自分のことも書いていきたい
──北条さんの特質というか、そこがセールスポイントにもなるわけじゃないですか。
北条 そうなんですよね。ただ問題は、元夫が全然離婚してくれなくて、離婚の条件が「俺のことは書くな」っていうことだったので、そういうゴタゴタの最中にプライベートを書くっていう決断ができなくて。いまだったら覚悟ができているから、いろんなことが書けると思うんですけどね。あとは、社会学の研究者界隈だと、たとえば結婚してるけど子供がいない男性研究者が、「少子化は悪くない」みたいな本を出したりすることも普通にあるんですよね。でも、その研究者が「嘘つきだ」って叩かれることってなくて。赤川学さんっていうすごく好きな先生がいるんですけど、『子どもが減って何が悪いか!』って本を出しても、むしろその本の分析がキチンとしてるので、赤川さんは叩かれない。自分もそれになれると思ってたんですよ。
──たぶん研究者としては受け取られなかったってことなんでしょうね。
北条 そうです。自分でも修士しか取ってないですし、研究者だと思ったことは一度もないですんですけど。でも本を出すときは、修士まで出てるんだったら社会学者らしいことを書けるだろうというか、期待される。自分としては社会学エッセイのつもりで、プライベートのことはあまり出さずに社会学の要素を入れて分析する本だったのに、色々言われちゃって。
──社会学エッセイだったら、もっと欲しいのはエッセイ要素なんですよね。だったら、もっと自分を出したほうが絶対にいい。
北条 これからはそういうふうにしたいなと思ってます。幼少期の経験も、もっとみじめなことがいっぱい出てくるんですよね。
──めんどくさいこじらせた人なわけじゃないですか、そこは出したほうがいいですよ。
北条 ホントにこじらせているとは思います。
──『こじらせ女子の日常』(16年/宝島社)を発端とするこじらせ女子論争のときにホントに思ったのは、とりあえず北条さんが本格的にこじらせてることだけは間違いないってことで。
北条 そうです(笑)。長谷川さんとの対談のときも、開始5分で「いやぁ、めんどくさい女ですねえ」って言われて。さすが記者さんだなと思って。
──5分経たなくてもわかりますよ!
北条 最初の3分ぐらいで自殺未遂の話になって。
──それなら誰でもすぐ気づきます!
北条 次の本の話をもし運よくいただけたら、分析するのは今までの本でやったので、これからはもうちょっと自分を開け広げるみたいな話を書けたらいいなと思ってるんです。
プロフィール
北条かや
北条かや(ほうじょうかや):1986年、石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。現在、美容整形に関するサイト『NICOLY:)[ニコリー]』(https://nicoly.jp)のアンバサダーも務めている。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズなどインタビュー集を多数手がけ、コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題に。新刊『吉田豪の“最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』が6月30日に発売。
(取材・文/吉田豪)