【特別寄稿】自殺予防のコンサルタントが緊急提言「今、いかにして自殺を防ぐのか」

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【特別寄稿】兄の死がきっかけ、自殺予防のコンサルタントが語る「いかにして自殺を防ぐか」
【特別寄稿】兄の死がきっかけ、自殺予防のコンサルタントが語る「いかにして自殺を防ぐか」

 はじめまして。クリス・アーンショーです。私は現在、自殺予防を中心とするライフ・マネジメントNPOを経営しています。そうした中、より多くの皆さんに「いかにして自殺を防ぐか」について考えるきっかけを提供できたらと考えています。まずは自殺に関する個人的な思い出について書いてみようと思います。

兄の死がきっかけ

 25年前、ある夏の午後、私は母から恐ろしい電話を受けました。「あなたの兄は死にました。自殺した。」ショックでした。 なぜ彼は自殺したのだろうか? 彼の死について語ることが出来るようになるまで20年近くかかりました。

 実に20年間、私は兄が自殺したという事実を隠してきたのです。周りの人には、彼は事故で死んだと伝えていました。 そして今から5年程前、私は自殺に関するカウンセリングに参加するように誘われました。その時点まで、私は自身にカウンセリングの必要があるとは思ってもいませんでした。 ところが、セッション中、私は泣き崩れてしまったのです。当時、私は銀行の管理職で、感情的な人間ではなかったにも関わらず。

 今でもこのことを文章に書こうとすると、目に涙が浮かび、パソコンのキーは見辛くなります。 ローズ・ケネディは言っています。

 『時間はすべての傷を治す』と言われていますが、私には同意できません。 傷は残ります。 自らの正気を保つために、私たちは傷を隠し、時間と共に痛みも軽くなりますが、決して、それは決して消えさることはありません。』

 私も同感で、自殺に関するカウンセリングは、古い傷口を開くような行為ではないかと思いました。

 母が兄の死で壊れました。 私たち家族は皆、自問しました。なぜ兄が助けを求めなかったのか、なぜ彼に何かしら異常があったことを自分たちが見抜けなかったのか、と。時間の経過とともに、喪失の感情は罪悪感と部分的な恥ずかしい、という気持ちに置き換えられ、誰もそれについて話そうとはしませんでした。 家族の間だけではなく、特に友人に話せなかったのです。

 兄は高校時代からうつ病に苦しんでいましたが、私たちは彼が医者にかかっていること、そして薬を処方されていることで安心していました。 新しく、そしてより安全な薬がその後開発されていましたが、兄はそれらを使っていたでしょうか?私たち家族はその答えすら知らなかったのです。

 5年前、兄の死を無駄にしたくないと思い、フリーカウンセリングと啓蒙活動する自殺予防非営利活動法人を設立しました。

 ここでは、人生と人間関係をどのように考えるのかを書いてみたいと思います。つまり「ライフ・マネジメント」という概念について、です。

 私たちは各々が社会、またはコミュニティーに属していますが、感情を押し隠す傾向があります。 私たちは強く、独立した存在になりたいと努力する一方で、助けを求めることは弱みの兆候であると考がちです。しかし、それは違います。 社会は、さまざまな人々を支援するサービスを提供しています。これらのサービスは主に税金で賄なっています。 だからこのようなサービスを提供することは慈善ではありません。そして、こうしたサービスを受けることもまた、社会に属する我々にとって当然の権利なのです。

グッチ・バッグを手放す意味

 「これをあげたいわ」と、マリさん(仮名)はコーヒーテーブルの下から黒い革のグッチ・バッグを取り出しました。「大事にしてね」と言って、慶子さん(仮名)の驚いたような目から目を逸らしました。そのバッグは、ほんの6ヶ月前に二人が一緒に銀座まで買いに行ったものです。 慶子さんは当時の友人がどれくらい興奮していたのかを覚えていました。オンラインで安く買えたのに、と思いつつ、マリさんの新しい買い物を賞賛しながら、一緒にお茶を飲みました。なぜマリは私にこれをプレゼントしたのかと慶子は思いました? 手放すにしても、彼女は簡単に高い値段でバッグを売ることができたはず。 マリさんはバッグを慶子さんの方に押しやり、「あまり気に入らない」と言って、すぐに話題を変えました。

 次の週末にマリさんはアパートで死亡していたのが発見されました。 「申し訳ない」と言うメモしかなく、説明は有りませんでした。 彼女の服は床の上に積み重ねられて、きれいに折り畳まれていました。

 友人の慶子さんは今、私の向いに座って、いつもの質問をしています。 「私には何ができたでしょうか?」、「なぜマリは私に死にたいという話をしなかったのですか?」、「私は彼女の死に責任がありますか?」など。

 我々のNPO法人には、自殺者に取り残された人たちからの相談も多く寄せられます。混乱し、ショックを受けている彼らを慰めるのは非常に難しいことです。 彼らは自分の息子や娘の死体を確認するために安置所を訪ねなければなりません。 最初のショックと、時には怒りの後、生存者自身がうつ状態になり、自殺することも有ります。 だから、我々はそれを念頭に置いて、すべての相談を慎重に扱います。

 我々は彼らに対して、亡くなった方のアルバムを作ったり、木を植えたり、ウェブサイトをデザインするなど、友人の人生に意味のあることをするように勧めます。生き残った側は感情を素直に表し、それを隠そうとしないことが重要です。友人からこの様な「大事な贈り物」を突然に貰った場合、すぐに誰かと相談して下さい。

遅い電車は命を救う

 数年前に、友人の会社の若い社員が、思いがけなく自殺しました。 彼は売り上げノルマを達成していなかったので、マネージャーに全員の前でひどく叱責されました。 そして、帰宅途中に電車へ飛び込みました。

 この経験に驚き、マネージャーは職場を3ヶ月も休まなければならなくなり、復帰した後も、他の社員たちに冷たい目で見られ、数ヶ月で退社しました。

 この悲劇的な経験から多くのことを学ぶことができます。 最も明白なこと、それはマネージャーはスタッフを注意深く監督する方法を学ばなければならないということ。 誰しもが叱責をうまく受け止めることができるわけではありません。 私の場合、誰かが私に怒ると、私は笑ってしまいます。なぜなら、怒る人は弱いと感じるからです。 しかし、批判を個人攻撃と受けとり、落ち込んでしまう人たちもいます。

 次に、会社は自殺予防についてスタッフに教える必要があります。 いくつかの企業、あるいは自衛隊などの職業の中には、飛びぬけて自殺率が高いものがあります。 自殺するには幾つかの前兆があり、スタッフはこれに気付く必要があります。 自殺は会社にとっても、お金がかかる出来事です。上の例では、会社は2人の貴重なスタッフを失いました。

 私が通勤に使う電車では、ほとんど毎日のように自殺があります。 対策の一つとして、例えば列車が非常にゆっくり駅に入ると、飛び込みを確認後直ちに停止することができるのでは?ダイヤを混乱させるのを避けるとしても、駅間でスピードアップすれば問題はないはずです。 私はむしろ、「人身事故」のために電車の中で1時間以上立ち往生するよりも、電車が来る時間が少し遅くなるほうが良いと思っています。

 日本人、特に男性が克服しなければならない障壁の1つは、名誉ある死によって、自分の人生の責任を取ることができるという考え方です。 時代が変わり、武士道の考えも変えなければなりません。 かつては主張を貫くためだけに自殺した人もいましたが、私たちには自分を頼ってくれる人々がいる以上、自分のことだけを考えることは本来正しい行いとは言えません。

 自殺を計画している人もいれば、その瞬間に自殺を決める人もいます。 いずれにしても、自殺は一時的な問題に対する永久的な解決策です。 しかし、あらゆる問題には常に解決策があります。 もっと多くの人々が手助けを求めることを願っています。

 人生はとても素晴らしい贈り物です! 落ち込んでいるときは、私に連絡してください。

コメント、提案や苦情がある場合:hello@life-management.org(すべての真面目なメッセージにお答えします!)

HP: https://life-management.jimdo.com/

著者プロフィール


医学博士、自殺予防コンサルタント

クリス・アーンショー

医学博士。医療機器メーカー、テスラ製薬など複数の企業の代表を務めながら、自殺予防を中心とするライフ・マネジメントNPOを経営している。ロンドン大学で中国哲学を学び、現在孟子の哲学を説明するマンガの本を計画中。著書に「Sho: Japanese Calligraphy」(Tuttle)など。趣味はチェロ、合気道、執筆活動。

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