サイバーエージェントが当面不採算でも動画サイトで勝負に打って出るワケ|やまもといちろうコラム

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サイバーエージェントが当面不採算でも動画サイトで勝負に打って出るワケ(写真はイメージです)
サイバーエージェントが当面不採算でも動画サイトで勝負に打って出るワケ(写真はイメージです)

 山本一郎(やまもといちろう)です。動画元年と言われた2016年から一年が経過し、今年は冒頭からHulu、Netflixなど海外大手勢に異変が出る一方、Amazon プライム・ビデオが伸び、さらにはゲーム動画を中心に新興勢力がどんどこ出てきて動画戦国時代みたいな状況になってきております。

 国内に目を転じると、Ustreamが事実上の撤退を表明して以降も、順調にYouTubeが伸張し、動画広告のシェアも八割近くになっただけでなく、広告商品としての動画リワードも圧倒的なリーチを背景に他社を圧倒しつつある勢いです。YouTuber専門のプロダクションであるUUUMも株式上場の見込みを発表する一方、日本市場ではしばらく支配的なポジションにあったドワンゴのニコニコ動画がスマホシフトや生放送需要への対応に遅れてあっという間にオワコン扱いになってしまいました。

 逆に、テレビ局系ではフジテレビがフジテレビオンデマンド(FOD)の有料会員を伸ばしたり、テレビ東京もブロードバンド事業とライツ事業のコンビネーションで市場を確保、さらにはNHKもNHKオンラインの利用者数が激増するなど、ポスト地上波の動きは加速しています。

 テレビ朝日とのタッグで話題となった、サイバーエージェントの「AbemaTV」も引き続きチャレンジする構えを見せています。単純に、ゲーム事業で当たったカネを動画サービスに回しているというだけではなく、かなり戦略的に積極策を取って番組数の拡大と地上波なみの番組クオリティを保ちながら、「デイリーの利用者1000万人を目指す」という大目標をぶち上げているのが印象的です。

「AbemaTVの先行投資やめない」 増収減益のサイバーエージェント、新事業に手応え- ITmedia NEWS

 むつかしいのは、動画サイトというのはかつての衛星放送を見るまでもなく、コンテンツを作り続け、企画を成立させていかなければ沈んでしまう商売なので、かなりの意味合いで装置産業だという点です。良く忘れられるわけですけど、テレビ局というのはやはりそれなり以上にコンテンツを作り続ける力を持っているからこそ、視聴率が1%上がった下がったで大騒ぎし、そこにスポンサーがついてしのぎを削っているわけで、そこへYouTubeやAmazon プライム・ビデオが一点豪華主義的なコンテンツ制作やYouTuberでドブ客を集める仕組みを作っても、なかなか全年齢に対してリーチできるコンテンツのポートフォリオが組めないというのが弱点になっています。

■事業成功の可能性は?

 一方、AbemaTVはサイバーエージェントとテレビ朝日の組み合わせで、リスクはサイバーエージェントが取るにせよ全体的なポートフォリオはやはりテレビ業界の常識がかなり貫徹して、そこに番組ごとに制作会社がぶら下がっている仕組みである分、「やり続ければ、いつかは水面上に顔が出るはずだ」という考えになるのもあながち間違いではないのかもしれません。

 実際、上記のIT mediaの記事でもサイバーエージェント藤田晋社長が「引き続き投資は行っていく」というスタンスは崩していません。もっとも、AbemaTVでも明らかにスコアの低そうな番組はどんどん潰れているようにも見えますが、ようやく番組の改廃ができるぐらいまでは地上波のような、メディアプラットフォームとしての機能ができてきたと言えなくもありません。

 また、ネット業界の風雲児としてサイバーエージェントというとキラキラしたイメージで売る、あんまりコンプライアンスを重視しない社風がたびたびトラブルの当事者になっていたわけですが、テレビ朝日効果なのか、各方面でサイバーエージェントが問題の中心になることがぐっと減り、IT業界の中でも比較的静かなふるまいになってきた印象があります。

 もっとも、サイバーエージェントグループ全体で見ると、ヒットタイトルを擁し高い利益率で業界に君臨するCygamesが相変わらず各方面で強気で微妙な商慣行をやらかしているようですが、往年のサイバーエージェントの仕事ぶりを知る業界関係者からすれば「ずいぶん大人しくなったなあ」という感覚は拭えません。それがベンチャー企業として望ましいのかどうかは別としても、テレビ局のような装置産業を超えていくとなると、やはりカジュアルでポップなIT企業のカルチャー一辺倒ではなかなか厳しいのかもしれません。

 IT業界もいろいろと煮詰まり、テクノロジードリブンで大きな市場を狙っていくにはやはり専業でなければ生きていけないぐらいに投資水準が上がってきたのは事実です。その意味では、コンテンツ商売に打って出るぐらいしか、藤田社長の気持ちの届く範囲内では巨額投資に足るビジネスが思いつかなかったのかもしれません。それまでも、スマホ向けに投資を振り分けて大量のアプリをグループ挙げて投入しようとした過去がありましたが、そこで得られた果実はそう多くはありませんでした──ゲーム以外。たぶん、藤田社長はあまりゲーム事業には思い入れがないからこそ、イケてると思える他人に任せて利益を出させることに成功したのでしょう。その意味では、テレビ番組などのコンテンツ事業は藤田社長自らの「やりたいこと」に相違なく、だからこそ目先の損害にこだわらずのめり込めるのだな、ということではないかと感じます。

 その後の事業の推移についてはあまり楽観視できるものではありませんが、藤田社長は何度も「そろそろ駄目じゃないか?」という下馬評を持ち前の豪運で切り抜けてきて、期待以上の利益を叩き出してきた実績の持ち主です。きっとなんかうまくやってくれるに相違ありません。ゆるゆると期待して待ちたいと思います。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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