芸能界の”奴隷契約”と置屋事業対策に進む公正取引委員会|やまもといちろうコラム

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Photo by Foto-Rabe(写真はイメージです)
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 山本一郎(やまもといちろう)です。よく製作委員会でコンテンツ投資をやるにあたって、日米と欧州、中国その他の契約の違いに直面することがあるわけなんですが、先日、典型的な事例が日本で勃発し、『週刊文春』(文藝春秋)が正面から取り上げていたので面白いなと思ったわけです。

ローラ 「10年奴隷契約」をロサンゼルスで独占直撃!

 ローラ(27)側とも事務所側とも『文春』とも本件では無関係な私が言うのも何ですが、この問題はさもありなんという部分がありまして、以前も能年玲奈(のん・24)やベッキー(33)など芸能人の結婚・不倫騒動などでもさまざま問題となっている「事務所と芸能人の関係」の悩ましいところに光が当たるものであります。

 その先鞭で言うならば、先般大変な騒ぎとなっていたAV女優の出演強要問題でして、これはAV女優が納得ずくで楽しく出演していたという証言が多数現場から上がったとしても保護の対象となるということが明確にされつつあります。つまり、本人が性的なコンテンツを思い返すと動悸が激しくなるなどの精神的障害、あるいは時間が経って本人が結婚して子供でもできたときにご主人やご子息に「お前の母ちゃんAV女優」という言われ方をしたときに「あれは過ちであった。もう私のコンテンツを閲覧できないようにしてほしい」と訴え出られたら業者はそのように対応しなければならない、という方向にシフトしていくわけであります。

 ここで、芸能事務所とタレントの関係では、かねてから話題になっていたように「タレントや女優などの売り出しコストは基本的に芸能事務所側の持ち出しで、信頼関係がタレントと築けなければ事業として成り立たない」というビジネス上の問題と、同じく「出演作品やイメージタレントでの起用などで、タレントや俳優本人の不始末が理由で降板させられたりコンテンツがお蔵入り・再製作になるなどしたときの補償はタレントや俳優の所属する事務所が代行して行う」という与信の問題とがあります。言い換えれば、芸能界も不透明な部分は残しつつも産業としては成熟しており、そこでタレントや俳優と事務所の力関係を考えたときに、どこが適切な線引かは商慣行と一般法規とを見比べながら「良い塩梅」で当事者同士が話し合って決めるしかないという部分はあるのです。

■芸能界に存在する暗黙のルール

 一方、タレントや俳優というのは浮世稼業であると同時に、やはり子供の頃からそれ用の仕事をこなし、トレーニングをしてキャリアを積んでいきます。極端な話で言えば、学校もまともにいかない叩き上げの子役が無教育のまま大ブレイクしてスター街道を歩く結果、巨万の富を得てしまうということもあり得る、というのが日本でも欧米でも普通にあります。

 これは、相撲界(各界だろう)がプロ野球だろうが歌舞伎のような演芸だろうが当たり前にある話で、これをカバーする法規は未成年の時間外就労に関わる法律ぐらいであって、義務教育も満足に果たさずに才能一本で頑張るということが簡単に起きる世界なわけですね。

 未成年もさることながら、芸能界においてはいわゆるDQN親対応や、成年しても頭がいろいろアレな芸能人はたくさん出てきます。この辺のドロドロしたところを見えなくして、イメージや夢の世界を売るのが芸能界だとするならば、その仕組が置屋稼業だといわれたときに「ではそのままイカレた人たちをマネージメントせずに世の中に放り出してよいのか」という話に容易になってしまうのがむつかしいのです。

 変な表現ですが、世間一般で見るアントニオ猪木と現実の猪木寛至さんとに物凄いアレな溝があるのはよく知れている話としても、うっかり製作委員会で日々起きていることから逆算するとアントニオ猪木というのはむしろまともなほうであって、そんなのよりヤバイ人たちは本当にゴロゴロしているというのが実情であることに気づきます。そして、そういう人たちはテレビ番組によく登板してクイズ番組やらバラエティとかで荒稼ぎをしつつそこで得た知名度をもとに映画だ舞台だと活躍されているわけです。

 なので、そういう人たちをマネジメントするのはほんとうに大変なのだろうなあと思うわけですけれども、実際にはうまくホールドしているのは芸能事務所でありまして、そこが隠せば隠すほど、芸能マスコミや文春新潮あたりは何か芸能人がやらかすと大変な騒動に発展することになるのです。

 一般論として、ローラの件は本人も辛い思いをしているであろうし、周辺も忸怩たるところはあるでしょう。いままでは良きにはからえ的に遠くにいた経営者が、うっかりこれは儲かるとなって現場に出張って来たら、頑張ってきた人たちは放逐されかねませんし、せっかくの商品が台無しになってしまうリスクに直面します。

 芸能一般でいうならば、この売り出しにかかる部分は芸能事務所の力関係や人脈によるところが大きく、映画のキャスティングでもどっかから大御所や事務所同士の折り合いを意味する「行政」が入ってキャストが交代させられたり、本来いるはずのない登場人物が脚本で押し込まれて突然登場することもあります。それでも、一般の人達からは見えないようにあれこれやっているのが実情です。

■時代の流れに合わせることも

 また、先行投資で言うならば、とりわけ女性タレントや俳優は「土木工事」が入ることがあります。人間、誰しも生まれつき美しいわけではありません。売れる前の投資は当然ながら本人の同意の元で事務所が肩代わりすることになりますが、演技や歌唱のレッスンから生活の面倒まで見る芸能界ではどうしても一般的な就労の現場と隔絶した状況が容易に発生することになります。

 プロ野球でも、独身寮完備で数年間の生活を掌握して、トレーニングも施してチーム編成をするにあたって、やはり安定して雇用できる独占使用期間が労使の間で合意されないと厳しいという面はあります。素質はあるだろうけど来年契約できないかもしれない若手にチャンスを与える監督はいません。

 おそらくは、公正取引委員会での話し合いも(まだ途中経過ですが)若くして得られる巨額報酬もあり得る仕事であり、それに対する専属契約が長期間に渡るところが、職業選択の自由という原則を歪めているのではないか、という話に立ち返ると思います。芸能界やスポーツの世界が、原理原則を追い求めるのであれば、時代の流れに合わせて飲まなければならない部分はあるでしょう。

 しかしながら、実際に起きることはもっとエゲツないわけですよ。結婚の決まった女優が、今後はおそらく仕事が入らないと事務所が見切ると一晩数千万の高級コールガールとして人身売買の具になったりする世界です。人としての幸せというレベルの話ですらありません。ぶっちゃけ、昭和の頃から現在に至るまで、また日本に限らず韓流ブームからハリウッドにおいてすら、日常的に発生している世界である以上、何が正解か、どうあるべきかはとても一口には言えないよなあという風に思うわけであります。

 それもこれも、イメージと夢を売る世界と、いい女を抱きたいという金持ち旦那衆との世界観の中で、うまく最適解を紡ぎ出すべき仕組みが影に隠れているのが問題だ、ということなんでしょうか。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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