篠塚和典「今の巨人は、教える側もしっかりしてほしい」

日刊大衆

篠塚和典「今の巨人は、教える側もしっかりしてほしい」

 コイツやるなっていうのは、雰囲気でわかるんですよ。口では、うまく説明できない部分なんですけどね。小林誠司なんか見ていると、その雰囲気が中々、出てこないんですよね。

 調子が悪いときは、人のバットを持って打席立ったり、タイミングの取り方を変えてみたりするもんですよ。試行錯誤してみて、イケそうだなと自分でも思うと、周りから見ていても、そう見える。イチローなんて今でも、バットを寝かせたり、立たせたり試行錯誤していますからね。

 バッティングっていうのは、100%ってことはありえないんだから、“ああじゃない、こうじゃない”の繰り返し。同じ感覚でいたら、同じようにやられちゃうでしょう。でも、小林は構えやタイミングが、いつも同じ。そういうところから変えていってもらいたいですね。

 最近の選手は、痛いっていったらすぐに休んじゃう。体っていうのは、やっぱり地面に叩きつけてできていくんですよ。ガンガン、ノックとか、血反吐を吐くほど練習をして、プロ野球選手の体は強くなっていく。

 我々の時代は、トレーナーも厳しくて、痛いなんて言えなかった。ケガしても、そんなのツバつけとけば治るよって感じでしたから。

 自分の限界を超えていかないと、潜在能力はもっとあるのに、抑えられちゃっているから、もったいない。今のトレーナーは、ケガされたら自分の責任になってしまうから、すぐに選手を休ませる。“こいつ、もう大丈夫かな”って選手を呼ぶと、“大丈夫です”というから、じゃあ先発でいこうって話になるのに、トレーナーが“ダメです”って。おかしいでしょう。今の巨人は、教える側もしっかりしてほしいなと思います。

 昔のジャイアンツは、どの球団よりも練習していましたからね。僕にドラフト1位指名の話がきたときには、“練習についていけねぇな”って不安が、ものすごい大きかった。

 ただ、1位指名するのに、ミスター以外は、みんな反対だったみたいです。体も小さいし、ほかに、大学出の即戦力の選手もいましたからね。でも、ミスターが“俺が責任を取るから”と周りの反対を押し切って1位指名してくれた。

 その恩に報いるのが、僕の宿命ですよ。反対した人たちに、取って間違いなかったと思わせないと、ミスターに恥をかかせることになってしまいますからね。そのモチベーションがあったから、こういう野球生活を、僕は送ってこられた。

 でも、恩返しもできず、ミスターは辞めちゃったんですよ。自分の気持ち的にはどん底でしたね。それで、ミスターに話したんです、“もう野球を辞めます”って。そしたら、ミスターは“V9時代の後を、お前たちが受け継いでいくんだ”って言われて、思いとどまった。

 やっぱり、ミスターっていうのは、別格なんですよ。野球界の中で、悪く言う人、誰もいないでしょう。いるだけで、みんなの表情がほわーっとなる。誰か悪く思っている人がいたら、あんな空気になりませんよ。

 僕は、選手時代も、コーチ時代も、ミスターがグラウンドにいると、どうしても目で追ってしまう。一挙手一投足、見ていますよ。ピッチャーが球を投げた瞬間とか、フライを取った瞬間、どういう表情なのかなと、見ていて、とても楽しい人なんです。

 付き合いは長いんだけど、いまだに自分から、話しかけられない。近くにいって、話しかけてくれるのを待っているって感じですから。中畑さんとは違うタイプ(笑)。サインが欲しいときは、自宅に行くんだけど、ミスターの運転手に、色紙を渡してお願いしますからね。

 嵐が吹いていても、ミスターがくるとカラッと晴れちゃう。ああいうスターはもう出てこないでしょうね。そんな大スターに導かれた野球人生ですから、もう一度ユニフォームを着られるなら、着て、恩返ししたいですよ。声をかけられたらいつでも動けるよう、準備はできていますから。

撮影/弦巻 勝

篠塚和典 しのづか・かずのり
1957年7月16日、千葉県生まれ。銚子商業高校に入学し、2年の夏に全国制覇。76年にドラフト1位で巨人に入団。81年に二塁手としてレギュラーになると、打率.357と、リーグ2位の好成績を残す。84年に打率.334、87年には打率.333で2度、首位打者を獲得。94年に現役引退。引退後は巨人のコーチを務め、WBCコーチも歴任。通算成績1651試合、1696安打、92本塁打、打率.304。ベストナインを5度、ゴールデングラブ賞を4度受賞。

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