北朝鮮有事を睨む11月5日、トランプ大統領来日|やまもといちろうコラム

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北朝鮮有事を睨む11月5日、トランプ大統領来日|やまもといちろうコラム
北朝鮮有事を睨む11月5日、トランプ大統領来日|やまもといちろうコラム

 核ミサイル開発でかなり強烈な対北朝鮮経済制裁が続いている昨今、中国も共産党大会で北朝鮮問題について大きく触れない状況に陥りまして、すでに一部制裁に合意しているロシアなど近隣国から事実上切り離されてしまった状態になっている北朝鮮。深刻な食糧難に陥っているという記事が出回る一方、ロシアと北朝鮮の国境に位置する豆満江(図們江)では大量の小型輸送船が出入りし、むしろ域内交易は活発化しているという情報もあります。

 大枠の国際的な制裁の枠組みは機能するものの、実際の地場の交易が活発化している現状や、中国、ロシア側との交流を行う北朝鮮側民間人は比較的元気で、もちろん強い国際的な圧力だけでなく北朝鮮の締め付けもありつつも「どうにかなっている」のが北朝鮮なのではないかと思います。

 この北朝鮮の国家戦略については、日本ではかなりセンセーショナルに報じられることも多いわけなんですが、かねてから北朝鮮関連の貿易状況を見ていると、父親である金正日時代と現在の金正恩政権とでは大きく戦略がシフトしていることに気づきます。

 それまでの金正日政権というのは、あくまで核開発カードとミサイルカードは「瀬戸際外交のための恫喝用のリソース」であって、六カ国協議に応じるか応じないか、あるいは中国との関係を微妙に保ちながら各国からの支援物資をかき集めて体制を維持する、ということが大目標でありました。だからこそ、拉致問題や日朝合意については常にどっち付かずの体勢をとり、うまく日本からの譲歩を引き出したり、東アジアの安全保障で太陽政策を取る韓国経由で大規模開発の利権を勝ち取ったかと思えば些細な違反を持ち出して韓国系財閥が行った開発リソースを巻き上げたりということを繰り返しながら、金王朝の体勢維持に使っていくわけです。

 これが、その子の金正恩さん(33)が体勢のトップに来ると、父の時代の「瀬戸際外交」よりも、もっと現実的な核ミサイルの実戦配備を目指し外交的対等を目指す外交戦略へとシフトしていきます。単純な話、核ミサイルを持ってしまえばたとえ米と言えども北朝鮮に力づくで何かを同意させるなどということは不可能になります。これは、パキスタンやイランの核開発も同様で、核兵器開発済みの国家は他の国に比べて強い核抑止力がある前提で外交が組まれるという点で有利になることは間違いがないのです。だからこそ、核不拡散の原則でアメリカや中国、ロシアなどが外交を組み立てるのも「先制攻撃をしたときの報復で反撃してくる能力の有無」が大きく国威に関係してくることが背景にあるといえます。

 それ故に、北朝鮮はウクライナからの技術導入で、ロシア製の核兵器や長距離弾道ミサイルの開発・製造に関する能力を確保することができ、過去三年間はそれまでの20年以上の停滞が嘘であるかのような飛躍的な進化を遂げ、アメリカ領の前哨基地であるグアムどころかアメリカ本土に到達することも可能なミサイルの開発に成功しそうだという危機的状況になってきたわけです。

■日本政府はどれだけの準備ができるのか

 裏を返すと、金正恩さんというのは、金日成さん、金正日さんに比べても非常にまともな意志決定能力と現実的な対応が可能である比較的明晰な為政者なのではないか、と見られ始めていることの証左でもあります。日本にいると、まさに精神異常者が北朝鮮の独裁体制を維持していまにもミサイルを乱発してくるのではないかと思うような錯覚に見舞われますが、いまや安全保障関連の議論においてはまったく逆で、南シナ海など海洋進出に舵を切った中国が北朝鮮を相対的にお荷物扱いし始めている現状も、北朝鮮の体制を維持しながら核ミサイル開発という一点豪華主義で難局を突破しようという強い意志も感じさせるまともな首領なんじゃないかと見られているわけです。

 むしろ、頭がかなりアレなのではないかと見られるのは、そういう北朝鮮の挑発的な文言に真正面から同レベルで反応して罵倒の応酬をしてしまうドナルド・トランプさん(71)のほうじゃないのか、と思われるのも自然なことでしょう。何をしでかすかわからないという点では、いままでの北朝鮮ならば準備が整えば周辺の国の状況などお構いなしに核実験やミサイル発射していたものが、中国で共産党大会が、日本で総選挙があるとなると一気に鳴りを潜める「配慮」も北朝鮮はするようになり、おそらくは北朝鮮の次のカードは「核ミサイル配備が終わりました」宣言になるのではないかとすら思われます。

 そうすると、日本でも韓国でも核兵器を配備するべきであるという国論が湧き上がるわけで、東アジアの安全保障はまた一歩、タガが外れて危険水位が少し上がることになります。さらに日本は憲法9条の改正や対中国の安全保障議論なども積み上がっているわけで、さてこれからどうするのかといったところに差し掛かります。

 このような状況を受けて、アメリカ大統領であるトランプさんは「アメリカは偉大であるべきだ」という国家目標と併せて国益を最重要視する立場から、相対的にアジアでアメリカの存在感が損なわれかねない北朝鮮の動きを容認できない方向に行くでしょう。単純な話、核ミサイルが具体的に配備される前に単独でもいいから口実見つけてさっさと攻撃してしまえ、という話です。

 本当にやるかどうかは別として、実際にアメリカの軍事行動が行われる場合は北朝鮮も報復に動くわけですから、少なくとも38度線の目の前に有る韓国・ソウルは火の海になります。在韓日本人も6万人というオーダーでいる状況ですので、これらの日本人をどう安全に日本へ避難させるのかは考えなければなりませんし、また、北朝鮮の軍事的能力はそう高くないものの数万、数十万の韓国人難民が日本にやってくる可能性も否定できません。これらの危機的な状況に対して、日本政府がどれだけの準備をすることができるのかは、これから考えるにはちょっと時間の制約が大きすぎるのではないかとすら思います。

 ちなみに、来年2018年1月17日が新月になります。何事もなければよいのですが。

著者プロフィール

やまもといちろうのジャーナル放談

ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研

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