二宮和也が天才料理人を演じる「アンチ・グルメ」なミステリー映画

まいじつ

画/彩賀ゆう
画/彩賀ゆう

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』

配給/東宝 TOHOシネマズ新宿ほかにて全国公開中
監督/滝田洋二郎
出演/二宮和也、西島秀俊、綾野剛、宮﨑あおいほか

“伝説の料理”とか“究極のグルメ”とかにあまり興味がなく、ありふれた料理を普通においしく食べられればそれでオッケー、と思うボクである。それゆえに、すべての味を記憶し再現できる絶対味覚=麒麟の舌の持ち主の現代の天才料理人が、戦前の満洲国で日本人料理人が考案したという、中国の満漢全席をも超える伝説のフルコースの謎を追うミステリーと言われてもピンとこなかった。

監督が『おくりびと』(2008年)でアカデミー外国映画賞を受賞した滝田洋二郎だけに、ひと筋縄ではいかないだろう、という期待があっただけだ。まあ、二宮和也クンのファンなら彼がその天才料理人を演じるというだけでイイ予感がするだろう。確かに彼の『硫黄島からの手紙』(2006年/クリント・イーストウッド監督)は良かったしね。

二宮クンが、病人などに“人生最後に食べたい思い出の料理”を再現し、一回100万円とかの高額の報酬をもらう“最期の料理人”という少し高慢な現代のワガママ青年を演じていることに注目したい。こういうちょっとイヤミな二宮クンは初めて見るからか。そんな彼がかなり巨額な報酬で中国料理界の重鎮から依頼されたのが、戦前の満洲国で考案された日本人天才料理人による『大日本帝国食菜全席』の散逸したレシピを探し、再現せよ、というもの。

その日本人も同じ絶対味覚の持ち主だったが、なぜ彼が消息を絶ち、料理は発表されないまま幻と消えたのか、闇に潜む陰謀とは何か、というスケール壮大な歴史ミステリーにもなっているのが何より。戦前の満洲国にまつわる歴史秘話が好きな人(ボクもそう)なら思わず身を乗り出すし、旧日本軍が関与していれば、余計に興趣が増すね。

「家族の系譜」の物語

ネタバレになるといけないので、用心深く書くが、これは結局は“家族の系譜”の物語でもある。時代を越えて結び付くもの。料理はその仲介物にすぎない。当初「料理は愛情だなんてクソくらえ」とウソぶいていた“天涯孤独”の主人公がその深い意味を知る話でもある。長ったらしい名前の偉そうな料理も出てくるが、心に訴えるのは“黄金炒飯”や“豚の角煮”や“カツサンド”といった一見ありふれた身近な料理なので、わが意を得たりである。

これは“絶対味覚”、“伝説のレシピ”と脅かしながら、実は“アンチ・グルメ”映画ではないか。そういえば三國連太郎、佐藤浩市の親子共演が話題だった『美味しんぼ』(1996年/森崎東監督)も巧妙な“アンチ・グルメ”だった。グルメ映画に見せかけ、グルメを追い求めない。作り手の密かな心意気が、この新作にも表れている。

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