シャンシャン熱狂報道への違和感…外交カードに使われる”パンダの裏面史”

デイリーニュースオンライン

Photo by PHOTO AC(写真はイメージです)
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 パンダの赤ちゃん「シャンシャン」が19日、東京・上野動物園で一般公開された。マスコミは連日のように報道し、日本中のお茶の間がそのかわいさに沸き立っている。

 東京都内の経済効果は1年間で約267億円(宮本勝浩・関西大学名誉教授)の試算が上がっている上、公開前には小池百合子都知事(65)が汪婉駐日中国大使夫人らも視察に訪れるなど、冷え込んだ日中関係にも明るい兆しが差し込んだかに見える。だが、このシャンシャンフィーバーに「パンダは中国ではなく、チベットの動物。その歴史を思えば、素直にかわいいと思うことができない」と悲嘆するのは、ある新聞社の記者である。

「全世界のパンダの8割は中国・四川省の西部・アバ州に生息しています。しかし、1950年に中国共産党はチベットに侵攻し、55年にはアバ州を含むチベット東半分を青海省と四川省に組み込みました。結果、パンダも一緒に中国に”盗まれる”ことになったのです」

 その過程で、チベット全域では(79年の調査までに)拷問死、自殺者を含め120万人ものチベット人が命を落としているという。前出の記者はパンダの因縁を続けた。

「さらに中国は『民族浄化』の名の下に、この地域に本土から大量の移住政策を進め、言葉も文化も、そして人種自体をも消し去ろうとしました。学校は授業も教科書もすべて中国語になり、寺院から仏像や宝石類を持ち出し、チベット仏教を信仰する者は棄教を迫られ、中には不妊や中絶を強制されたチベット人女性までいます。そんな中国に、彼らは焼身自殺で決死の抗議をしている。チベット人にとっては、パンダこそが中国による弾圧の象徴なのです」

 弾圧、殺戮の上に盗まれた自国のパンダが、日本をはじめ、世界各国で平和親善のシンボルのように愛されている様を、チベット人はどんな気持ちで見ているのか。それを思えば、パンダフィーバーはまるで喜べなくなってしまう。

■年間1億円のレンタル契約?パンダ外交の裏に血の歴史あり

 もちろんパンダに罪はない。中国と2頭で年間1億円のレンタル契約を結んでも、経済効果を加味して余りある。だが、パンダを使った国際親善は、決して「草の根交流」を目指した善意のみの活動ではない。少なくとも中国側が「外交カード」として意識している点を忘れてはならない。

「パンダ外交をはじめたのは、中国国民党・蒋介石の妻、宋美齢です。日中戦争期、中国のイメージアップをはかり、アメリカを味方につけるため、2頭を贈ったのが最初の外交カードでした。その後、パンダ外交は各国に広がり、72年10月には日本にも、日中国交正常化の記念としてランランとカンカンが上野動物園にやってきた。現在同様、日本中でパンダブームがわき起こり、『週刊少年マガジン』(講談社)にはパンダのポスターが付き、東宝チャンピオンまつりでは宮崎駿のアニメ『パンダコパンダ』が上映されるなど、中国のイメージアップ戦略に一役買っています。しかし、当時、中国で行われていたのは人類史上最大の1000万人が虐殺された文化大革命だったことを忘れてはいけません。日本の新聞、世論はそのことから目をそらされ、事実を知らされない日本人の当時の中国への好感度は90%を越えていました」(前出・記者)

 11月26日、日本のパンダフィーバーをよそに、野性パンダの生息地・四川省カンゼ・チベット民族自治州で一人のラマ僧・テンガ氏が焼身自殺を遂げている。彼らがあえて焼身自殺を選ぶのは、中国の弾圧を世界に「報道してもらう」意味もあるのだという。加熱するパンダ報道の何十分の一かでも、彼らの抗議が世に知られることを願ってやまない。

文・麻布市兵衛(あざぶ・いちべい)
※1972年大阪府出身。映像作家、劇団座付き作家などを経て取材記者に。著書は『日本の黒幕』、『不祥事を起こした大企業』(宙出版)など多数あり。
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