鳥葬が感染病や環境汚染を防ぎ、天空の葬送と言われる理由 (1/2ページ)
日本語では鳥葬と呼ばれるが、正式にはSky burial(天空の葬送)という葬送の習慣がチベットやインドのガンジス川流域の一部では、まだ一般的である。もちろん、これらの地域では火葬、水葬、土葬などほかの葬儀の方法も存在する。しかし、鳥葬=天空の葬送は、その地域の気候風土と密接に結びついて発達してきた―あるいは進化してきたといってもよいかもしれない―風習である。その地域の生態系の重要な歯車の1つとして、物質循環の一端を担っているということが、鳥葬の最も注目すべき点であろう。
■チベットの人は、人は亡くなってから初めて死のスタートだと考えている
チベットの人々は、息絶えた時が人の死の第一段階であると考えている。そして、魂は身体の様々な身体の構成要素から徐々に離れていくとされている。まず、土の要素が水の要素の中に溶け出す。と、同時に死んだ者は目が見えなくなり、震えるように感じているのだという。水の要素が空気に溶け出すと、死者は耳が聞こえなくなって煙に包まれているように感じる。魂が完全に体から離れると、様々なレベルの意識が失われて半透明な光の中に入っていくとされており、この時点で、本当の意味で死が訪れるとみなされる。
ほかの宗教でも「死は終わりではない」という類似の認識を共有しているが、チベット仏教では、特に死者はほかの生き物の体内に入ったり、自然に還っていくことで、来世や浄土での生まれ変わりが可能になると考えられている。そして、死は恐れるべきものではなく、生まれ変わりへの一過程とみなされている。
■鳥が食べやすいようにする鳥葬
ラマ僧によるお経が流れる中、亡骸は数日間、集落内にて座位で安置される。その後、家族や縁者、そして僧侶によって、集落外の「天空の葬送」を行う場所に運ばれる。遺体はそこで伸展されて、おおざっぱに皮膚をナイフで傷つけたり、解体されたりするのだ。これは、鳥が食べやすいようにするためである。
■鳥葬の主役 ハゲワシ
鳥葬の主役は、ハゲワシである。遺体が葬送の場所に置かれるやいなや、ハゲワシが集まってくる。葬送の儀式が終わって、周りから人がいなくなると、あっという間に十数羽から数十羽のハゲワシが取り囲んで食べ始めるのである。