45分ルールも独り歩きする受動喫煙対策 「現状はにおい解消か健康リスク軽減かが曖昧」と大学教授指摘

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45分ルールも独り歩きする受動喫煙対策 「現状はにおい解消か健康リスク軽減かが曖昧」と大学教授指摘
45分ルールも独り歩きする受動喫煙対策 「現状はにおい解消か健康リスク軽減かが曖昧」と大学教授指摘

 近ごろ、国や自治体を中心に進む「受動喫煙対策」で、ひとつの指標が“独り歩き”しつつある。たばこの煙に含まれる有害物質が喫煙後の息(呼気)からも出続け、その濃度が喫煙前の数値に戻るまでに「45分」かかるというデータである。それに基づき、喫煙者は一服後45分間、非喫煙者に近づいてはならぬというお触れが次々と出されているのだ。

 昨年10月より、北陸先端科学技術大学院大学(石川)が大学構内の全面禁煙に加え、喫煙者には喫煙後45分間構内への立ち入り禁止措置を実施。また、今年4月には奈良県生駒市が5階建て市庁舎内のエレベーター内に、「喫煙後45分間は使用をご遠慮ください」との通達ポスターを貼り出し、物議を醸した。

 「たばこを吸っている人の息は臭いし、一緒にいると自分の髪の毛や服にもニオイがうつる時があるので、よい対策だと思う」(30代女性・非喫煙者)と、嫌煙派の多くは“45分ルール”に理解を示すが、非喫煙者の中にも「さすがにやり過ぎでは?」と疑問を投げかける声があるのも事実だ。

 「ニオイの問題でいうなら、アルコール臭、ニンニク臭、加齢臭、女性の化粧品や衣類の芳香剤のニオイだって耐えられないほどキツい人もいるので、たばこだけ規制するのはどうかと思う」(40代女性)

 「数分にも満たないエレベーター内で喫煙者の呼気を吸ってどのくらい健康影響が出るのか。もっとも喫煙者がたばこを吸って45分間も仕事や授業に戻れないことになれば、効率が悪くなってストレスで余計に健康を害しそう。結局、禁煙しろといっているようなもの」(30代男性)

 では、この45分ルールは本当に受動喫煙の防止の実効性があるのか──。そもそも指標の根拠とされているのは、産業医科大学の大和浩教授が発表した研究データである。

 屋外でたばこを1本吸って室内に戻ってきた人の呼気に含まれるガス状物質(TVOC=総揮発性有機化合物)の濃度を測定したところ、喫煙直後の値が厚生労働省の室内濃度暫定目標値(400 µg/m3)を大きく超えて上昇。その後、喫煙前の口臭に戻るまでにおよそ45分かかったという結果だ。

 この測定方法と結果について、東海大学理学部化学科教授の関根嘉香氏はこう分析する。

 「たばこの煙の中には、ホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)が含まれ、私が喫煙者宅で測定した時もTVOCセンサーは反応しました。ただし、VOCは化粧品や自動車排ガスなどにも含まれており、TVOCセンサーはたばこ煙由来の成分以外にも反応することがあります。

 また、TVOCの暫定目標値は、もともと毒性学的根拠に基づいて決定されたものではなく、室内空気質の目安として決められたものなので、一時的に目標値を超えたからといって、すぐに健康への有害な影響が出るというわけではありません。受動喫煙による健康リスクを問題にしてルールを決めるのであれば、さらに詳細なデータが必要だろうと思います」

 一方、関根教授はこの度、新たな調査方法を編み出した。「ヒト皮膚から放散するたばこ煙由来成分の測定」だ。

 「喫煙した人が近くに来るとたばこ臭を感じることがありますが、あれは呼気や衣服などについた臭いだけではありません。たばこを吸うと煙の成分が体内に入り、血液中に移行し、皮膚の表面から出てくる可能性があります。そこで皮膚ガスを測定してみました」

 その結果、喫煙直後の能動喫煙者の皮膚からニコチンやトルエンなどのガス成分が検出され、その放散は呼気よりも長く続いた。また、屋外の喫煙所にて約25分間、たばこの煙を浴び続けている受動喫煙者の皮膚ガスからも同様の成分が出たが、「能動喫煙者に比べたら著しく低いレベルだった」(関根教授)という。

 この皮膚ガス測定が今後の受動喫煙対策の新たなメルクマークになるかは分からないが、関根教授はこんな見解を述べる。

 「いま行われている受動喫煙対策は、たばこの臭いに対する不快感を解消するためなのか、健康への影響を軽減させる目的なのか、曖昧なときがあります。

 受動喫煙が肺がんリスクを高めるとする論文もありますが、調査はインタビューか自己申告によるものがほとんどで、実際にどの程度たばこの煙に曝露したかの評価はありません。一方で、非喫煙者が浴びるたばこの煙を本数に換算したら、1年間でわずか数本だったという調査結果もあります。

 受動喫煙の健康リスクをエンドポイントにした対策にするならば、きちんと根拠のあるエビデンスを示していかなければなりません」(関根教授)

 喫煙者のたばこ臭が、嫌煙派に対する“スメハラ”というのであれば、近年は煙やニオイ、有害成分が少ないとされる加熱式たばこのシェアも伸びている。喫煙者と非喫煙者を遠ざける規制を敷くことだけが受動喫煙対策の「定石」なのか。科学技術の進歩や喫煙文化の変遷にも照らして冷静に議論していく必要があるだろう。

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