やくみつるの「シネマ小言主義」 ★大半の男は共感する、「負け犬にも五分の魂」 『負け犬の美学』 (1/2ページ)

週刊実話

やくみつるの「シネマ小言主義」 ★大半の男は共感する、「負け犬にも五分の魂」 『負け犬の美学』

「一寸の虫にも五分の魂」ということわざがありますが、「48戦13勝3分32敗」の“負け犬”中年ボクサーにだって、意地もあれば美学もあるという映画です。

 確かに「負けてばっかり」で、試合出場もままならないロートルボクサーの視点から描くという発想は面白い。ただ、どうしてもボクシング映画の場合、本物の試合ほどのスリリングなシーンは望めません。

 一方、この映画では、主人公・スティーブが娘のピアノ購入費のために、試合よりも危険なチャンピオンのスパーリング・パートナーの職にありつきます。そして、チャンピオン役には、本物の元WBA世界スーパーライト級王者が配されています。

 さらに、「引き」の映像が多くて、まるで本当に打ち合っているようだと感心して見ていたら、あとで読んだパンフレットに「ファイトシーンには事前の振り付けもリハーサルもなかった」とありました。あの『ロッキー』でさえ、事前に細かな動きが振り付けられ、それが常識と言われているのに、本物の元世界チャンピオンとガチで打ち合っているのですから、この俳優の根性は大したものです。

 しかし、出演俳優陣の中で主人公以上に存在感が光っているのは、娘、オロール役のビリー・ブレイン。この映画で初めて知りましたが、すでに大物感が伝わってきます。大女優へと成長するのは間違いない子役なので、目をつけておく価値はあります。

 さて、タイトルの『負け犬の美学』について。
「サンドバックなら間に合っている」と冷たくあしらうチャンピオンに対して、主人公が「俺にはあんたにないものがある」と、KO負けの恐怖を乗り越えた経験とその重要性を説くシーンがあります。負けてなお諦めず、戦い続ける多くの敗者がいてこそ、チャンピオンが存在できるのだと。

 相撲界でも同様です。40すぎても幕下以下のまま、それでも辞めずに頑張っている力士は大勢います。

 関取になれるのが16人に1人程度。その他の「ふんどしかつぎ」には若干の手当は出るものの、家族なんてとても養えません。だから奥さんに頼るしかない。

 引退後は、修行で覚えたちゃんこ作りの腕を活かすか、最近では介護士になる人も多いですね。
 かく言う自分も、「負け犬の美学」の領域に。

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