やくみつるの「シネマ小言主義」 ★悲劇7割、喜劇3割の家族の物語 『鈴木家の嘘』 (1/2ページ)

週刊実話

やくみつるの「シネマ小言主義」 ★悲劇7割、喜劇3割の家族の物語 『鈴木家の嘘』

 岸部一徳、原日出子、岸本加世子、大森南朋という濃い出演メンバーを見て、喜劇色の強い映画だと気楽に行くと、ズシンと重い映画だった…となりかねません。悲喜劇とはいうものの、笑い飛ばすわけにはいかない事情がこの家族にはあります。

 感想を一言にまとめると「自殺だけはいかんよ」ということになりますが、最近、自分のプライベートの知人にも自殺された方がいます。表向きは病死ということになっていますが、ご家族としては、やっぱり公表しにくいものですよね。

 思い返してみると、これまで自分の周りで自殺によって亡くなった人は、結構、指が折れるほどの数がいます。自殺大国日本だけあって、残念ながら、珍しいことではなくなってしまいました。

 パンフレットによると、デビュー作である本作の脚本執筆のきっかけも、監督の実兄の自死だったそうです。めったなことでは共有できそうにないテーマながら、すでにめったなことではなくなってしまった今、普遍的な主題として、正面から取り上げられるべきなのかもしれません。

 本作は、冒頭での長男の突然の自死の後、残された家族の心の再生と折り合いの付け方を、涙とユーモアを交えて描いていきます。

 何といってもそのカギは、並んで立っているだけで可笑しみを醸し出せるキャスティングの妙でしょう。

 そして、並み居るベテラン勢に交じって、一際光っているのが、400人を超える応募の中から選ばれた、妹役の木竜麻生さん。可愛いだけの子には出せない骨太の存在感のおかげで、話にリアリティーが出ています。

 リアリティーといえば、何といっても加瀬亮演じる、ひきこもりの長男が自室で首を吊るシーンです。真正面からどうやって撮っているのか。今までなら、ブラブラしている足先だけで表現するところを、この作品ではあまりにリアルに映すので、その姿を発見した母や妹の衝撃が、こちらに生々しく伝わってきます。一緒に見た妻と、「発見した方がキツイから、自殺だけはやめような」と再度、確認し合ったほどです。

 残された方は、たとえ親だろうと知り合いだろうと、死んでしまった人に対して「もっと何かできたのでは」と責め苦を感じます。

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