「スピリチュアルペイン」ーー自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛へのケア (1/5ページ)

心に残る家族葬

「スピリチュアルペイン」ーー自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛へのケア

「スピリチュアル」とは、超自然的な力で、科学的な根拠とはかけ離れていると認識する人も多いだろう。しかしWHO(世界保健機関)が、憲章前文の中で健康の定義「肉体的にも精神的にも、そして社会的にも全てが満たされた状態であること」に、1998年「スピリチュアルに満たされた」という文言も加えることが提案された。結果として採択されなかったが、WHOで議論の対象になることから、スピリチュアルが科学知見から離れたものではないことがわかる。スピリチュアルに満たされるとはどういうことか。スピリチュアルケアの専門家である東北大学の谷山洋三准教授の事例研究を紹介する。

■僧侶でもある東北大学の谷山洋三准教授が行うスピリチュアルケア・ボランティア

僧侶でもある谷山さんは大阪の病院で臨床スピリチュアルケアのボランティアをしている。スピリチュアルケアが対象にしているのは主に病に苦しむ人々であり、患者の精神的な悩みに寄り添うケアとされる。

谷山さんは患者の信念に寄り添うスピリチュアルケアと患者を宗教の教義を用いて導く宗教的ケアとを厳密に分けて考えてはいるが、僧侶である彼の場合はスピリチュアルケアの基本に加えて必要に応じて宗教者としてのケアも行った。その谷山さんの経験から収集された事例のひとつに、自分は無神論者だから宗教的なケアは必要ないと言っている90歳のがん患者Eさんと谷山さんとのスピリチュアルな関わりがある。

■無神論者とスピリチュアルケアのある事例

Eさんは無神論者を表明しており、谷山さんは宗教者として彼と関係を作れるとは考えていなかった。そのため谷山さんはEさんの身の回りのことを手伝ったり自宅を訪ねたりという形でEさんと関係を作っていた。しかし体調の悪化につれてEさんの様子は変化をみせはじめる。そしてEさんには死期が迫っていた。

寂しさが募る様子で「墓が気になる」と言い出して墓参りを希望し、ついには「(院内の仏堂に)お参りをしたい。法話を聞きたい」と言い出した。その変化に谷山さんが驚いて部屋を訪ねていくと「もうだめだ。迷いがある。死について迷いがある」と訴えた。やがてEさんの不安はどんどん増大し「おれはどうなる」と言葉にするようにもなった。

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