消費税10%で税収は減る! 経済学でわかる本当の増税タイミングとは

デイリーニュースオンライン

税率を上げすぎると国家の税収が減っていく

 国際通貨基金(IMF)は10月7日、最新の世界経済見通しを発表した。それによると、日本の2014年の経済成長率は前年比0.9%増と、前回7月時点の予測から0.7ポイントも引き下げられている。予測の下方修正の幅は先進諸国の中では日本が最大だ。

 IMFは、それでも財政再建のために2015年10月に予定されている10%への消費税率の引き上げは実施すべきと提言している。政府は、消費税増税の最終判断を2014年内にすることになっているが、果たして消費税率10%は実現するのか。

 個人的には、財政再建を急ぐ政府が、今回、消費税率の引き上げを強行すれば、逆に税収が減少してしまい、財政再建が遠のく最悪の結果を招くと考えている。消費税率の1%の引き上げは年間約3兆円の税収につながる。今年4月に消費税率を5%から8%に引き上げただけでも、すでに年間約9兆円もの国民負担が生じているわけで、女子高校生の言葉を借りれば、家計は「激おこプンプン丸」の状態である。

 さらに消費税率を10%に引き上げて、しかも財政再建が遠のくとあれば、「激おこプンプン丸」どころか、「ムカ着火ファイヤー」いや「カム着火インフェルノォォォォオオウ」へと家計の怒りのボルテージは大きく上がってしまうだろう。

 では、なぜ消費税10%で税収が減少するのか。理由は「ラッファー曲線」で簡単に説明できる。「ラッファー曲線」は、税率と税収の関係を示したグラフで、税率を上げていくと当初は税収が増えるが、税率を上げ続けると臨界点に達して税収がピークを打ち、税率が臨界点の水準を超えると、逆に税収が減っていくという現象である。米国の経済学者アーサー・ラッファーが最初に提唱したことから「ラッファー曲線」の名前がつけられている。

 では、なぜ「ラッファー曲線」で税率が臨界点を超えると税収が落ち込むのか。消費税を例にとれば、税率を短期間に上げすぎると消費者の購買意欲が減退して消費そのものが落ち込み、消費のパイの縮小を通じて税収が減少するためだ。しかも消費縮小の影響は他の税収にもマイナスの影響を及す。消費が落ち込み、不景気になると、景気動向に税収が左右されやすい所得税や法人税の税収も落ち込むようになる。

 さらに不景気になれば企業のリストラなどによって失業者が増えるので、失業保険の給付や生活保護の支給額が増え、歳出の拡大を通じても財政再建が困難になってくる。

 ところで、「ラッファー曲線」において、税収が増加から減少に転じる臨界点の税率は増税を実施するときの景気動向によって変わる。一般的には景気が悪いときに増税をすると、臨界点の税率は低いところにシフトする。つまり、景気が悪いときには、ほんの少しの税率アップでもそれが税収の減少につながりやすいということだ。

10%に上げるタイミングは1年~1年半後がベスト

 消費税をアップするタイミングが好景気にあたるか不景気にあたるかによって、その後の税収は大きく変わってくるのだ。そこで、次に日本が今回消費税増税の実施を判断するタイミングで、国内景気がどうなっているかを考えてみることにしよう。

 政府は11月に発表される2014年7~9月期のGDP成長率の数字を見たうえで、増税の最終判断をするとしている。7~9月期の実質GDPは、ある程度のプラス成長になることが見込まれており、表面的な統計数字だけで判断すれば、増税は実施されるだろう。しかし、7~9月期のプラス成長は4~6月期の大幅マイナスの反動という側面が強く、実態として景気はそれほどよくなっていない可能性が高い。2014年通年でみれば、持続的な成長を保証する+2%の成長率には到底及ばないだろう。

 つまり、増税を決定すれば、これから景気が悪くなっていくタイミングで増税実施となる可能性が高く、わずかの税率の引き上げであっても税収減につながりやすいということだ。

 もし、消費税の税率アップで財政再建を急ぐのであれば、一見、遠回りに見えるかもしれないが税率を10%に引き上げるタイミングを1年ないし1年半後に延期すべきだろう。アベノミクスの効果が十分に浸透し、国内景気が拡大しているタイミングで消費税増税を実施すれば、「ラッファー曲線」の臨界点の税率が高いところにシフトしているため、税率アップが税収の増加に結びつきやすくなるからだ。

 政府には、日本の家計を怒りの最終段階「激オコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」にさせないよう、消費税増税に関しての英断を期待する。

著者プロフィール

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エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by Yuya Tamai via Flickr)

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