慶大生でも5分が限界…岸博幸が警鐘する現代人の“スマホ病”

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 経済をわかりやすく解説してくれることで定評ある、元官僚の岸博幸・慶應大学教授に、日本経済の現状を聞いていく短期集中連載。今回は、ネットが日本人の生産効率を下げているという話を聞いた。

スマホの過度な利用が、生産効率を下げてしまう!

ーー前回までの話は、これからの日本人は将来的に楽観できず、自助努力をしていかないとヤバいという話でした。そうした努力をするために、どんな情報媒体をチェックしていけばよいでしょうか?

岸 大事なのは、新聞1紙だけを読むというのは最悪ということ。例えば日本経済新聞と合わせて、ダイヤモンドオンラインや東洋経済オンラインをチェックするなど、複数のメディアや個人のブログを読み、そのなかで自分が信頼できると思う情報を常にフォローするべきです。信頼できる情報は、自分で決めるしかありません。

――ただ、個々人で信頼できるメディアを決めていくと、原発の話のように、危険性だけを必要以上に煽っているメディアを見て、単に「危険な原発は絶対に反対!」という人が増えてしまうのでは?

岸 そうですねぇ……だからネットの罪は重いんですよ。ネットは、人を本当にバカにしちゃっているから……。実は、このネットで日本人がバカになっていっているということを、大きな問題だと捉えています。これは本当に危険。

――それは、メディアの問題ってことですか?

岸 いいえ、人間の行動がおかしくなっています。ネットは便利なものですが、使い方が間違っています。

 日本人は流行りに弱くて依存しすぎちゃうのかなぁと感じたことがあって。前に、コンビニ店員に土下座を強要して、ツイッターに喜々としてアップした結果、逮捕された事件があったじゃないですか。あの行為自体も問題ですけど、もっと問題なのはあの映像を記録するという行為です。常識的に考えれば、ああした映像を残したら何かあった時にヤバいと、3秒考えたらわかりますよね。そしてその映像をさらに、ネットにアップする。これも大きな問題になるということも、3秒あったらわかるはず。でもやっちゃった。要は3秒考えれば、やってはいけないことだとわかることを、2つもやっているんですよ。

 あと最近電車に乗っていると、駅に着いてドアが開いてから椅子を立って降りていく人が増えたなぁと感じませんか? 昔はそういう人は少なかった。駅に着く前に降りる準備をして、ドアが開いたらすぐに降りていた。これって、スマホやネットの悪影響だと思います。何がヤバいかと言うと、人間の行動がすごくトロくなっちゃったこと。これはヤバいことですよ。

――生産性が下がるということがですか?

岸 そう、単純に生産性が下がっているということです。だいたい日本人って、そんなに情報に貪欲だったのかなぁと。でも、実際に電車でスマホをいじっている人を見てみると、ゲームをやっているか知り合いの行動をフェイスブックなんかで見ているか、そんなとこですよね。それは、明らかに生産性のない行為ですよ。そうした行為が、リアルな行動をおかしくしている。本来、ネットは生産性を上げるツールなのに、それを下げる方向に活用している。そんな日本人って、ヤバいと思うんです。

――こうした状況って、海外では起こっていないんですか?

岸 海外も同じようなものですけど、前回お話したように海外はもともと生産性が高いんですよ。一方の日本は、もともとの生産性が低いんです。

應大生でも集中力が5分しかもたない

――では、スマホは使わないほうがいい?

岸 僕はほどほどにしないとダメだと思います。生産性が落ちるだけじゃなく、集中力も顕著に落ちていますから。大学での講義中に学生を見ていると、本来なら教科書を読むのには集中力が必要なのに、ちょこちょこスマホをいじっています。こんなことしていたら、まともな学習にはなりません。まとまった学習には最低でも連続2時間は集中できることが必要なんですよ。いまは連続して5分も集中できないんですよ。ネットに依存し過ぎて、リアルな行動が凄くゆるくなっています。もちろん、息抜きや気分転換も必要です。でも、息抜きがメインになっちゃっていませんか? という話です。

ーー息抜きにすることと言えば、これまでなら例えばスポーツ新聞を読むように、その人が何をしているのかが他の人が見てすぐにわかるものでした。それがスマホになってからは、仕事しているのか息抜きしているかがわからない。

岸 そうなんですよ。新聞だったら、ある程度のマナーも考えるじゃないですか。ネットについては専門で研究していて、その重要性もわかっているけど、今はマイナス効果の方が大きいと思っています。

 本来、ネットは生産性を上げる良い道具になるんですよ。でもそれには前提があり、ユーザーの頭の中に、ある程度の体系的知識がないといけません。その体系的知識に、肉付けをするためにネットは役立つわけです。

 つまり、ネットは補完の道具なんですよ。ネットでは、体系的な知識が絶対に身に付きませんから。体系的な知識は、リアルな世界で身に付けるしかなくて、あくまでも、ネットはそれを補強するためにの道具です。その順番を間違えちゃダメですよね。いまは間違えている人が多すぎます。

岸博幸(きしひろゆき)
1962年生まれ。一橋大学を卒業後に通商産業省(現・経済産業省)入省。通産省在籍時にコロンビア大学経営大学院にてMBAを取得した。資源エネルギー庁長官官房国際資源課等を経て、第1次小泉純一郎内閣の竹中平蔵・経済財政制作担当大臣の補佐官に就任。現在は、慶應義塾大学教授やエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問。

(取材・文/河原塚英信)

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