宮沢経産相で話題「SMバー」市場規模は2400億円

デイリーニュースオンライン

SMも日本を支える立派な産業!
SMも日本を支える立派な産業!

 宮沢洋一経済産業相の資金管理団体が、2010年に政治活動費で広島市内のSMバーに支出していたことが問題視されている。この問題について、民主党のある衆議院議員は10月28日の衆院本会議でSMバーを「口にするのも汚らわしいところ」と表現した。

 果たして、SMバーやSMクラブはそれほどに汚らわしいところなのだろうか。今回は、私の専門分野である「地下経済」に絡んで、SMクラブの「いま」についてレポートしたい。

 まず、SMプレイの定義を確認しておこう。SMのSはサディズムの略語で、他人を肉体的・精神的に痛めつけることで性的な快楽を得る一種の性的倒錯を指す。一方、Sと対極にあるMはマゾヒズムの略語であり、他人から肉体的・精神的に痛めつけられることで快楽を得る性的倒錯を指す。

 現在のSMは、肉体的な苦痛を伴うプレイが中心だが、本来は精神的な従属関係(支配と隷属)を確かめることが最大の目的であり、肉体的な苦痛のやりとりはその一部分を構成するに過ぎない。

日本のSMクラブの市場規模は2400億円

 さて、SMをビジネスにする店が全国には多数存在しており、私の独自調査ではSMクラブ、SMショーパブ、SMラウンジは全国で454軒にも達する。都内の業者の登録が圧倒的に多いが、地方の中核都市にも少なからず業者が存在する。

 各店には、20人程度のS嬢(女王様)やM嬢(奴隷)、あるいはSとMのどちらにも対応できる人が登録しており、50人以上の登録者を抱える店もある。パーティ要員として登録している素人も含めると、全国には2万人程度のSM嬢が働いているとみられる。

 私のヒアリング調査によると、SM嬢1人あたりの月収は70万円程度なので、全国では1か月あたり140億円、年間ではなんと1680億円にも達する。顧客が支払った料金のバック率は、性風俗産業のなかではSMクラブが最も高く、平均して料金の7割がSM嬢の取り分だ。店側が受け取った金額も含めてとらえれば、SMクラブのマーケットサイズは、年間2400億円ということになろう。

 ほとんどのSMクラブは会員制となっている。言葉攻めや放置プレイ程度のソフトなSMであれば、会員登録をしなくてかまわない店もあるが、ロウソクやムチなどを使うハードなSMについては100%会員登録が必要だ。肉体的なリスクを伴うので、社会的信用のある顧客しか会員にはなれない。会員になるには、運転免許証やパスポートなど写真付きの身分証明書が必要になる。なお、会員登録する顧客には、弁護士や医者、政治家、会社社長、芸能人などハイソサエティに属する人も多く含まれるため、顧客の情報が漏洩することのないよう秘密厳守が徹底している。ハイソサエティに属する人たちは、大抵の場合、SMプレイにおいて自分がいじめられるMプレイを希望する。彼らは、日常生活でどちらかといえば人をこき使う側の立場にあるため、経験のない奴隷の立場にあこがれるのかもしれない。

 1回のプレイ料金は、長年決まった相場があり、顧客がSになるSプレイの場合60分で2万5000円~3万円程度、顧客がMとなるMプレイの場合には60分で2万円程度だ。M女の身にリスクが伴う分、SプレイのほうがMプレイよりも割高になっている。

 もっとも、料金は顧客がSになるSプレイのほうが高いが、実際のプレイにおいては顧客がMになるMプレイ、つまりSM嬢が女王様を演じるほうが難しいと言われる。「ハイヒールでの踏み方はこんな感じでお願いします」というように、なにかとわがままなMの顧客を満足させるためには、相当の演技力や技術力、あるいは「おもてなしの精神」が要求されるからだ。

 ちなみに、ノルウェーのオスロ大学の最新の研究で、痛みの感覚はその時の状況や本人の予測によって感じ方が変わることが明らかになっている。予想したほど痛くなかったとき、人はその感覚に快感を覚える。熟練の女王様は、そうした微妙なテクニックを感覚的に身につけており、ムチ打ちプレイでは最初にMの顧客のお尻を強く叩いた後、次に少し弱くお尻を叩くことで顧客の快感をひきだす。

 なお、1999年4月に風営法が改正され、無店舗形態の風俗店が届け出制になったことから、最近はプレイルームをもたずに、ホテルなどでプレイを行う出張形態のデリバリーSMクラブが急増している。とくに、M女系のクラブにそうした傾向が強くみられる。

SM愛好家は一般人に比べてメンタルが健康!?

 ここまでSMクラブに関する統計数字をひととおり見てきた。最後に、私が強調しておきたいのは、一見すると道徳的に問題がある、ケガをするリスクがあるなどデメリットばかりで、何のメリットもないと思われがちなSMプレイだが、実はメンタル面でのメリットが非常に大きいという点だ。

 たとえば、オランダのティルバーグ大学が実施した調査の結果によると、SMプレイを好む人はそうでない人に比べて社交的でおおらかであり、新しい経験にも貪欲に挑戦するタイプが多いことが判明した。つまりSMプレイをする人は、メンタル面でかなり健康であったということだ。

 この事実は、902人のSMプレイ好き(正確にはBDSM好き:BDSMはボンテージ(B)、ディシプリン(D)、SMのこと)と434人のノーマルな人たちを対象に各種の心理テストを行うことによって明らかになった。

 今回、調査を行った研究者は、この結果について、SMプレイ好きの人は、ムチを打ったり打たれたり、といった行為によって日頃のストレスを開放しているため、そうした嗜好のないノーマルな人たちよりもメンタル面で健康になっているのではないかと推察している。

著者プロフィール

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エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by Javier Pais via Flickr)

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