危険ドラッグ市場は年間1200億円「MDMAの2.6倍規模に」

デイリーニュースオンライン

日本だけでなく世界中で社会問題化する危険ドラッグ
日本だけでなく世界中で社会問題化する危険ドラッグ

 10月、神奈川県横須賀市の住宅で、60代の両親を包丁で殺害したとして無職の次男(36)が逮捕されるという事件があった。警察の取り調べによってこの次男は以前から「危険ドラッグ」を吸っていたことが判明した。逮捕された当初、次男は「なぜ両親を殺したか分からない」と話していたが、その後「ドラッグの使用がバレて会社をクビになり、それで父親と口論になった。ドラッグをやめろと言われて殴られたので、台所にあった包丁で刺した」と供述の内容を変更している。

 このほかにも、最近では危険ドラッグの使用が原因とみられる急死や交通事故が全国各地で頻繁に発生している。警察庁の統計によると、2014年前半(1月~6月)に危険ドラッグに関連して検挙された事件数は128件に達し、前年同期比151%増と大幅に増加した。

市場規模はすでMDMAの2.6倍に達していた

 危険ドラッグとは、覚せい剤や大麻、向精神薬、阿片といった規制薬物や指定薬物に化学構造を似せてつくられ、これらと同様の効果を持つドラッグを指す。植物片の「ハーブ」、粉末状の「パウダー」、液体状の「リキッド」といった形態があり、無数の種類が存在する。いずれも幻覚や錯乱を引き起こし、常習性も高い。

 最近では幻覚や強い興奮作用のある「ハートショット」と呼ばれる危険ドラッグが出回っている。「ハートショット」は石油を原料としており、厚生労働省の指定薬物よりもはるかに強力な作用があるという。吸引すると、意識混濁で倒れるなど重大な健康被害や事件事故を発生させる恐れもある。危険ドラッグに手を出したことのある人は、若者を中心に全国で40万人に上ると推計されている(厚生労働省の調査)。

 では、このような危険ドラッグの市場規模はどれぐらいになるのだろうか。筆者が(摘発された)業者の売り上げ動向や、危険ドラッグの取り扱い業者数など供給サイドのデータを元に推計したところ、すでに年間約1200億円の巨大市場が形成されているとみられる。合成麻薬MDMA(通称:エクスタシー)の市場がピーク時の2005年で約460億円だったが(筆者推計)、危険ドラッグの市場はその2.6倍の規模にもなるのだ。

 危険ドラッグに関連した事件が多発する中、危険ドラッグの蔓延を防ぐことを目的に、販売店への規制が強化されるようになった。たとえば、厚生労働省は8~9月にかけて18都道府県の危険ドラッグ販売店(114店)を立ち入り検査した。結果、違法薬物と疑われる製品が延べ1064商品に上ったという。危険ドラッグ販売店には、薬事法に基づいて成分検査と販売停止の命令が出された。摘発強化によって、廃業や休業状態に追い込まれた店舗も増えてきている。

 しかし、インターネットが高度に発達した現在では、危険ドラッグの販売店に対する規制を強化しても、それだけでは危険ドラッグの市場を消滅させるには力不足だ。販売手法が取り締まりの難しい無店舗型に移行するなどして、危険ドラッグの市場がさらに地下に潜行してしまう恐れがある。

危険ドラッグ購入者の2割はネット経由

 実際、販売店への規制に限界があることはブルセラショップなどの事例を見れば明らかだ。90年代前半、「ブルセラショップ」が繁盛した。「ブルセラショップ」とは、女子中高生などが身につけた下着などを買い取り、それを欲しがるフェティシストの成人男性にマージンを上乗せして販売するビジネスだ。最盛期の1993年には年間市場規模が100億円に達していた。下着などは、近所のスーパーやセール時で買えば1枚300円程度だが、数日間着用してブルセラショップに持ち込むと、ざっと元値の10倍以上に跳ね上がる。さらに、ブルセラショップは、仕入れた下着を買い取り価格の2~3倍で顧客に販売する。

 90年代後半以降、ブルセラショップへの規制が強化されるようになり、さらに各地方自治体が「青少年育成条例」で独自に規制をするようになった。東京都では2004年6月から、「青少年育成条例」を改正、ブルセラ業者が18歳未満の少女から着用済みの制服や下着を買い取ることなどを、罰則をつけて禁止することを決めた。ブルセラショップや「買う大人」を管理するとともに、少女が安易に大金を手に入れることを防止するのが狙いだ。東京都が改正した後、大阪など他の自治体も相次いで条例を改正するようになった。

 しかし、最近では、ネットオークションや出会い系サイトなどがブルセラ販売に利用されている。女子中高生がサイト上で「下着を買ってください」などといった書き込みをし、条件が折り合った成人男性と直接会って自分の衣服や下着など1枚数千円で販売するというものだ。1人の女子中高生の書き込みに対して多数の購入希望男性が殺到しており、規制は強化されてもブルセラ人気は衰えていない。

 危険ドラッグの話に戻ると、警察庁の調査では危険ドラッグ購入者のうち62.1%は街頭店舗で入手しているが、19.8%はインターネットで、2.6%はデリバリーで入手していたという。

 やはり危険ドラッグ対策としては、店舗規制だけでは不十分であり、同時に当局がインターネットのプロバイダーに販売サイトの削除を要請するなど、インターネット上での危険ドラッグの販売を監視していくことが重要になってくるだろう。

著者プロフィール

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エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

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