『ドクターX』に見る医療現場の真実…医大教授はなぜ落ちぶれたのか

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ドラマで描写された教授たちの姿はホント!?
ドラマで描写された教授たちの姿はホント!?

【フリーランス医師が見た医療現場のリアル】

 高視聴率をキープする『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』。同ドラマに取材協力した現役フリーランス女医が、知られざる医療現場のリアルと最新事情をぶっちゃける!

『ドクターX』で描かれた医大教授たちの“リアル事情”

「テレビドラマにおける医大教授」といえば、2003年放映のドラマ『白い巨塔』で唐沢寿明が演じた財前教授が代表格だろう。手術の腕はバツグン、世界的な研究レベル、黒木瞳が演じるキレイな愛人もいたし、“絶対君主”として医局員に君臨していた。「自分がガンになったら、ヤッパこういう外科医に手術されたいよね」という雰囲気で、とにかくカッコよかった。

 2013年放映の『ドクターX』第2シリーズでも大学病院における外科教授選を扱っているが、そこに登場する教授には財前教授のような輝きはない。藤木直人が演じる近藤教授はイケメンで女にはモテるが手術ではチョンボばかりだし、遠藤憲一が演じる海老名教授は上に厚く下に薄い中間管理職で「御意」が口癖、西田敏行が演じる蛭間教授は手術よりも院内政治に忙しい。「自分が患者だったら誰に手術されたい?」と訊かれたら「どれもビミョー」。教授の数そのものは増えたが質は低下……ドラマで描かれたこの現象は、リアル大学病院においても進行している。

 昭和の時代、当時の大学病院には若手医師が溢れていた。医大教授とは「医局における絶対君主」であり、医師にとって垂涎のポストであった。というのも、当時の教授や大学医局は医師就職情報を一手に握っており、人気病院への就職には教授推薦が不可欠であったからだ。

 教授や医局に逆らえばマトモな病院に就職できないだけではなく、薄給を補う当直アルバイトの口すら見つけることが困難となり(実は、大学病院の下っ端の勤務医は激務のわりに基本給はそれほど高くない)、たちどころに生活に困窮した。また、病院側としても優良医師を安定的に派遣してもらうには教授との円満な関係が不可欠で、「顧問料」「研究費」「協賛金」といった名目での水面下の“実弾”は半ば常識だった。

 2004年4月、ドラマ『白い巨塔』放送終了の翌月から、厚労省によって新研修医制度が導入された。それまで伝統的に母校の附属病院に就職していた新人医師たちは、卒業2年間は特定の医局に属さず、「外科2カ月→小児科2カ月→精神科1カ月……」と、いろんな科をローテートすることとなった。

 同時に、封建的な大学病院を嫌って都会の大病院を目指す若者が増え、大学医局の衰退がはじまった。大学医局の生命線であった「安定した新人供給」が断たれた。だからといって、患者数は減らないし、増え続ける医療訴訟の対策として「医療安全」「感染対策」などの書類や会議は増える一方であった。

 シワ寄せは、残った中堅医に過重労働としてのしかかった。大学病院や都内有名病院においても「医師集団辞職」が頻発し、「医師不足」「医療崩壊」といった記事がマスコミを賑わすようになった。

 2012年放映の『ドクターX』第1シリーズは、「大学病院における医師集団辞職」から物語が始まる。「新研修医制度、あれは失敗だった」——伊東四郎が演じる毒島院長も、ドラマの中でこう語っている。そして医師不足の解決方法として、米倉涼子が演じる「フリーランス医師」大門未知子が登場した。

研修医の数より多い!? 粗製濫造される「医大教授」のポスト

 でもって、リアルな大学病院では「医師不足」をどう解決するか……。フリーランス医師と契約するケースも稀にはあるが、実は、大学病院ならではの、お金のかからない手っ取り早い方法がある。

 近年、「病院教授」「臨床教授」「特任教授」といった肩書を持つ医師が増えた。医局トップを務める「主任教授」の他に、個々の病院独自でこういった“ナンチャッテ教授ポスト”を設け、「中高年医師を引き留めるためのエサ」にしているケースが多いのだ。こうしてなんとか、若手医師不足の穴埋めをしているわけである。

 また、現在50代以上の「リアル白い巨塔」時代を経験した世代にとっては、まだまだ「教授」と呼ばれることにはそれなりの魔力があるらしい。

「教授の肩書は1年につき500万円」と、某私立医大幹部はこっそり語ってくれた。「市中病院だと年俸1500万円でも契約しなかった医師が、教授の肩書を提供したとたん、1000万円で合意」ということがあるそうだ。その結果、「研修医の数よりも教授の数のほうが多い」という大学病院がフツーに存在するようになった。

 中には「医局員の半分以上が○○教授」みたいな医局も実在しており、そういう医局における「教授」とは「絶対君主」というより「中間管理職」に近く、「当直ノルマのある教授」も珍しくなくなった。

 さらに、医局の衰退やインターネットの発達にともなって、医師転職業者が発達した。「凄腕だが教授に睨まれて冷遇されている外科医」が、「高額年俸で民間病院に引き抜き」というのも珍しくなくなった(『ドクターX』第1シーズンでも、「年収3倍」で大学病院から転職する医師が登場している)。

 その結果、「凄腕」タイプの医師は30~40代のうちに転職したり開業したりしてしまい、どこからも声がかからなかった「可もなく不可もなく」タイプが残って「年功序列で教授に就任」というケースも増えている。こういった医局では、教授の肩書きは「医師として有能」であることを証明するものではなく、むしろ「残り物にはワケがある」系の、「このセンセーが開業したら、ソッコーで潰れそう」な爺医だったりする。

 日銀が1万円札をバンバン刷ればその価値が下がるように、教授の肩書きを乱発すれば、当然ながら教授の価値は下がるのである。今や、ほとんどの若手医師にとって「教授」とは垂涎ポストではなく、粗製濫造の「○○教授」があふれる大学病院の姿も、若手医師の大学病院離れを加速させている一因だと思われる。

 といっても、すべての医大教授が凋落したわけではない。「iPS細胞の山中伸弥教授」「天皇陛下の心臓手術を執刀した天野篤教授」のように、若手が向こうから集まってくるようなスター教授も実在する。「教授」というだけで無条件に敬ってもらえる時代は終わった。今後も生き残れる教授とは結局のところ、研究やら手術の腕やら何がしかの分野で卓越した実力があり、「ウチの教授はスゲェよ」と周囲から自然に敬われるタイプではないだろうか。

まとめ

  1. 2004年に始まった新研修医制度によって、多くの大学病院は医師不足になった
  2. 医師不足に悩む大学病院は、教授ポストを乱発して医師数を確保した
  3. 一部のスター教授を除いて教授ポストはデフレ化し、「量産型小物教授」が大学病院にあふれるようになった
  4. 現在の医大教授は、『白い巨塔』の財前教授のような絶対君主型より、『ドクターX』の海老名教授のような中間管理職型が主流である
筒井冨美(つついふみ)
フリーランス麻酔科医。1966年生まれ。某国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場をもたないフリーランス医師」に転身。テレビ朝日系ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』にも取材協力
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