【衆議院解散】安倍首相を襲う「アンダードッグ効果」

デイリーニュースオンライン

年末の総選挙の結果は果たして!?
年末の総選挙の結果は果たして!?

 安倍首相は消費税率の10%への引き上げを先送りし、衆院解散に踏み切る。今年12月に衆院選が実施される予定だ(12月2日公示、12月14日投開票)。当初、政府与党は、国民の多くが反対する消費税再増税の先送りを争点に選挙に臨むつもりだったが、先送りに難色を示していた民主党も(選挙戦が不利になるとの思惑から)増税延期を容認する姿勢に転じたため、消費税再増税を主張する主要政党はなくなり、増税先送りの是非は選挙戦の争点にはならない見通しだ。衆院解散の「大義」が薄れる中、今回の選挙は与野党での人気の取り合いになるとみられる。

 さて、今回は選挙に絡んで世論調査の信頼度について検討してみよう。衆議院議員総選挙など国政に関する選挙が実施されるとき、日本の報道機関は投開票日の1週間ぐらい前に全国世論調査の結果を発表して、選挙情勢がどうなっているかを伝える。

 この選挙情勢予測が当たるかどうかが世論調査の信頼度を左右するといっても過言ではない。過去の世論調査の結果をみると、おおむね的中しているが、1979年の衆院選、1998年の参院選などでは「大外し」という結果に終わっている。

国民は「勝ち馬に乗る」か「判官びいき」するか

 たとえば、1979年の衆院選は当時の大平正芳首相が一般消費税の導入を掲げて行った解散総選挙だったが、消費税導入に対する国民の反発が思いのほか強く、大平首相は選挙戦中に公約の撤回に追い込まれた。それでも、マスコミは自民党の安定多数確保を予測したが、いざ蓋を開けてみると安定多数どころか自民党の惨敗という結果になった。おそらく、公約撤回に対する国民の反応が情勢調査結果に十分に反映されなかったことが、予測と現実の大幅な乖離につながったと考えられる。

 また1998年の参院選では、投票日直前に当時の橋本龍太郎首相の「恒久減税」をめぐる発言が二転三転し、そうした発言の「ブレ」が投票日直前の国民の自民党離れを引き起こした。選挙情勢についての世論調査が終わった後に国民の気持ちが変わったため、マスコミの予想は自民党勝利だったが、実際には自民党の大敗に終わった。

 世論調査が外れてしまう原因は、調査対象の選定が適切でないなど様々だが、大きな原因のひとつとして、選挙の投票日の直前に実施してマスメディアに公開された世論調査の結果が、その後の世論の形成に影響を与えてしまう「アナウンスメント効果」の存在が挙げられる。

「アナウンスメント効果」が世論に与える影響は2つある。ひとつは「勝ち馬に乗る」という「バンドワゴン効果」だ。特定の政党や政治家の優勢が発表されると、それまで判断保留にしていた人たちの票が雪崩を打って流れ込み、結果として優勢を伝えられた側の選挙での大勝につながる。2005年に小泉政権下で行われた郵政解散総選挙や 2007年に民主党大勝となった参院選、2009年の政権交代選挙では「バンドワゴン効果」が発生したのではないかと見られている。

「アナウンスメント効果」のもうひとつの影響は「バンドワゴン効果」とは逆の「アンダードッグ効果」だ。これは、負けそうな犬、つまり形勢が不利になっている側に同情が寄せられる「判官びいき」の現象をさす。選挙で劣勢が伝えられてから、急激に票を伸ばして、最終的に大逆転勝利をおさめる政党や政治家がいるが、これには少なからず「アンダードッグ効果」が作用していると考えられる。先ほど紹介した1998年の参院選では、自民党有利と伝えられる中で民主党が躍進したので、「アンダードッグ効果」が現れたと見ることができるだろう。

財政健全化策が不透明ならアンダードッグで自民大敗!?

 このように「バンドワゴン効果」や、それとは逆の「アンダードッグ効果」が現れると、投票日前に行われた世論調査と最終的な選挙結果に大きな食い違いが生じることになる。「アナウンスメント効果」は無党派層の世論形成に大きな影響を与えると言われるので、近年のように社会全体で無党派層の割合が高まってくれば、世論調査と実際の選挙結果の食い違いが頻繁に起こりやすくなる。

 安倍首相は、今回の選挙で、2005年に当時の小泉純一郎が実施した郵政解散選挙を念頭において、その再現を狙っているのではないかとも言われる。

 このときは小泉首相が郵政改革の正当性を訴えて世論をつかみ、選挙での大勝を実現した。しかし、よく「選挙は魔物」と言われるとおり、今回の選挙が郵政解散選挙の再現となる保証はどこにもない。政権与党が消費税再増税延期で、これからどのようにして財政の健全化を進めていくのか、ある程度の道筋を示すことができなければ「アナウンスメント効果」の「アンダードッグ効果」が強く現れて首相の思惑とはかけ離れた選挙結果に終わる可能性もあるだろう。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by APEC 2013 via Flickr)

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