選挙目当てのバラ撒きか…安倍政権「地域商品券構想」が失敗に終わる理由

デイリーニュースオンライン

経済政策では地域商品券構想を打ち出したが……
経済政策では地域商品券構想を打ち出したが……

 11月17日に発表された2014年7~9月期の実質GDP(国内総生産)の数字はネガティブ・サプライズだった。

 7~9月期は、消費税増税で大幅に落ち込んだ4~6月期(年率7.3%減)からの回復が期待され、民間予測では平均して年率2%のプラス成長が見込まれていたのだが、実際の数字は年率1.6%減と、まさかのマイナス成長となった。主力の個人消費が夏場以降も低迷を続け、年率1.5%増の低い伸びにとどまったことなどが響いた。通常、実質GDPが2四半期連続でマイナス成長を記録すると、テクニカル的には景気後退局面入りのシグナルとされる。

 景気の先行きに不透明感が強まる中、安倍首相は補正予算で新たな緊急経済対策を打ち出そうとしている。

 しかし、3兆円規模になるとも言われる今回の経済対策の骨格は、「選挙目当てのバラ撒き」と批判されても仕方のない景気浮揚効果の小さいものばかりが並ぶ。とくに消費拡大の切り札とされる地域商品券の構想は期待薄だ。これは所得が低い人や省エネ住宅を新築した人を対象に商品券などを配って個人消費を浮揚させようというものである。

地域振興券も定額給付金も効果がなかった

 この手の経済対策に(財政支出に見合う)経済効果がほとんどないのは、米国の事例や過去の日本の事例を見れば明らかであるのに、なぜ貴重な財政の無駄遣いを何度も繰り返すのかと思ってしまう。

 たとえば1999年には、当時の小渕恵三首相が景気対策の一環として「地域振興券」を発行した。「地域振興券」の有効期限は発行から半年間。地元商店などの支払いに使えるようにし、老齢福祉年金受給者や15歳以下の子供を持つ世帯主など約3107万人が、それぞれ2万円分を受け取った。「地域振興券」の交付総額は約6200億円に達し、交付総額の99.6%にあたる約6190億円が利用された。しかし、当時の経済企画庁の分析によると「地域振興券」によって押し上げられた個人消費は2025億円程度で、交付額の3分の1程度にすぎなかったのである。

 また2009年には、当時の麻生太郎首相が総額2兆円規模の「定額給付金」の支給を実施した。「定額給付金」は全国の市区町村を通じて住民1人あたり1万2000円、18歳以下や65歳以上の人には8000円を加算して2万円を支給するという内容であったが、やはりその経済効果は限定的なものにとどまった。内閣府の分析によると、「定額給付金」によって増加した消費支出は約6300億円で、GDPをわずかに0.13%押し上げる程度のものであった。麻生政権は8000億円の消費の増加を見込んでいたが、実際には想定を下回る効果しか現れなかった。

5%に戻す消費減税も消費を抑制させる効果あり

 では、なぜ「地域振興券」、「定額給付金」、「商品券」など、政府から家計への直接的な支援策は消費の拡大につながらないのだろうか。

 その理由は、消費の「恒常所得仮説(Permanent Income Hypothesis)」によって説明がつく。家計の消費行動を説明する仮説には様々なものがあるが、現在の日本では「恒常所得仮説」が最もよく当てはまると考えられる。「恒常所得仮説」とは、米国の経済学者ミルトン・フリードマンが提唱した仮説で、家計の現在の消費の水準は、その時々の所得だけでなく過去や将来の所得との関係性も踏まえて決定されるというものだ。

 もし「恒常所得仮説」が当てはまるとすれば、家計は「地域振興券や定額給付金、商品券などは一時的な収入の増加にすぎず、将来は増税などで可処分所得が目減りする可能性が高いから、将来に備えて今は消費するよりは貯蓄をしておいたほうがよい」と判断することになる。実際、アンケート調査によると、「地域振興券」や「定額給付金」では、多くの家計が給付金で浮いた分の生活費を消費ではなく貯蓄に回したことが判明している。

 したがって、消費を拡大させるには、家計の恒常所得(一時的なものではなく定期的に入ることが予想される所得)の増加に働きかける政策が必要であり、そのためには老後の年金不安を解消することが一番手っ取り早い。いま政府がなすべきことは、商品券の給付などといった効果の期待できない景気対策ではなく、国民が不安に感じている年金を中心とした社会保障制度について将来的なビジョンを明確に示し、消費者心理を上向かせることだと言えよう。

 エコノミストや経済学者の中には、低迷する消費を浮揚させるには、消費税率を8%から元の5%の水準に引き下げることが必要と唱える論者もいるが、実はこれも消費の「恒常所得仮説」に基づくと、あまり効果のない政策だ。消費減税を実施すれば、一時的には消費が上向くだろうが、持続的な消費の拡大にはつながらない。なぜなら、増税分の消費税収はすべて社会保障の充実に使われることになっているので、消費税を減税すれば、年金を中心とした社会保障制度の財源が揺らぐことになり、それが家計の恒常所得に影響を及ぼして(将来の年金支給額の減額が予想されて恒常所得が下がる)、自己防衛で消費を抑制させる方向に作用するからだ。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by APEC 2013 via Flickr)

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