日本へ密輸できない覚せい剤が北朝鮮国内で蔓延…金体制崩壊カウントダウンか

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北朝鮮国内で蔓延する覚せい剤(本文とは関係ありません)
北朝鮮国内で蔓延する覚せい剤(本文とは関係ありません)

 最近、日本の芸能界でも薬物汚染が問題になっているが、北朝鮮でも覚せい剤が蔓延し密かに社会問題化している。先日、某雑誌で「脱北者座談会」の司会をする機会があったが、一昨年に脱北した女性の動機は、なんと「覚せい剤」だった。

 彼女は、朝鮮労働党の中堅幹部の比較的、裕福な家に嫁いだだめ経済的にはそれほど苦しくなかった。住んでいたのも党幹部のみが入居できるアパートで、隣家は全て党幹部やそこそこ裕福な世帯だった。

 ところが、しばらくすると隣家の息子が連日のように暴れて叫び回るので異常を感じはじめた。最初は理由がわからず、不安におびえていたが、やがて彼が覚せい剤中毒になっていたことを知る。北朝鮮社会の裏側を知らず、また知ろうともせず、真面目に社会生活を営んでいた彼女は、衝撃を受け独自に覚せい剤中毒について調べはじめた。

 そこで知ったのは、北朝鮮で覚せい剤が蔓延している事実だった。彼女は「覚せい剤が蔓延する北朝鮮社会に未来はない」と絶望し北朝鮮を脱出するにいたったという。

 彼女のエピソードは氷山の一角であるが、なぜ北朝鮮で覚せい剤が蔓延したのか? そもそも、北朝鮮は外貨稼ぎのために国家ぐるみで覚せい剤を製造してきた。現在、日本にどれほどの北朝鮮製覚せい剤が流入しているのかは不明だが、一時期は北朝鮮製覚せい剤の売買で摘発される事件も頻発していた。

 数年前、筆者が大阪の某地区に潜入取材した時、現地の事情通は、「覚せい剤には『R』と呼ばれるロシア製と、『K』と呼ばれる北朝鮮製がある」と述べた。あまりにもアブない話だったので、それ以上詮索できなかったが、日本だけでなく、北朝鮮と隣接する中国でも北朝鮮覚せい剤の密輸は問題になっていた。

裁判官が覚せい剤中毒のモノマネをする!?

 筆者も中朝国境取材中に、何度か中国の私服公安が自動小銃を持って摘発する風景を目撃したことがある。現地人は「覚せい剤の密輸の取り締まりだ」と述べていた。ある朝鮮族の知人は、北朝鮮を訪れた時、お酒を勧められるように、軽い感じで「覚せい剤」を勧められたという。なかには、覚せい剤を吸引するためのガラス器具を独自に細工して、まるでパイプタバコのように覚せい剤を嗜む猛者も存在する。

 また、ある学校ではタバコや酒をプレゼントするように女子生徒が先生に覚せい剤をプレゼントしたり、覚せい剤中毒を裁く裁判で、裁判官が典型的な覚せい剤中毒の症状をモノマネして見せ、傍聴していた市民が失笑するというブラックジョークのような話もある。

 北朝鮮製覚せい剤について、中国公安は厳しく取り締まった。その結果、国境地域での密輸はある程度減少した。しかし、外部に出なくなった覚せい剤が、北朝鮮国内で出回り、その結果、覚せい剤中毒者が増えるという皮肉な結果になってしまったのである。

 不法な手段で外貨を稼ごうとしたが、みずからの首を絞める結果となった北朝鮮の麻薬ビジネスがいかに愚かであるかを表すエピソードだ。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など

(Photo by Matt Paish via Flickr)

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