【病院のウラ側】「医師と教授令嬢の結婚」は本当にあるのか

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今では婚活目的で医大に進学する女性も
今では婚活目的で医大に進学する女性も

【フリーランス医師が見た医療現場のリアル】

 高視聴率をキープする『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』。同ドラマに取材協力した現役フリーランス女医が、知られざる医療現場のリアルと最新事情をぶっちゃける!

野心家医師の「教授令嬢との結婚」はドラマの定番だが

「テレビドラマにおける医大教授の令嬢」と言えば、2003年放映のドラマ『白い巨塔』で矢田亜希子が演じた佐枝子が印象深い。石坂浩二が演じた東教授と高畑淳子が演じた教授夫人の一人娘であり、沢村一樹が演じた菊川医師を父は次期教授候補として推し、母は娘婿候補として推した。

 2013年放映の『ドクターX』シーズン2に登場する、藤木直人が演じる近藤教授は「ナースの恋人と極秘交際しつつ、教授令嬢との縁談を同時進行」させて主任教授選に臨んだ。同ドラマのシーズン1最終回に登場する、山本耕史が演じる野心家外科医・土方医師も「教授の娘と結婚目前」という設定であった。

 10年を隔てた2つのドラマに登場する「教授令嬢の婚活事情」は不変のように見える。しかし、現在においても本当に「教授令嬢との結婚」は医師垂涎の出世コースなのだろうか?

 昭和の時代、医大教授とは「医局における人事権を握った絶対君主」であり、若手医師にとって教授に気に入られるか否かは、人生を左右する大問題であった(前回記事「『ドクターX』に見る医療現場の真実…医大教授はなぜ落ちぶれたのか」参照)。また、当時の若手医師は卒業した医大の附属病院に就職するのが半ば常識であった。さらに、当時の医大における女子学生率はわずか10〜20%ほどであり、かつ「勉強・仕事熱心だが女子力は??(宇宙飛行士のM井千秋先生など)」なタイプが主流だったので、おのずと大学病院にはフリーな男性医師があふれていた。

 そのフリーな男性医師と、教授令嬢や院長令嬢とがマッチングする道として定番だったのが「医局秘書」というポジションだ。「名門女子大文学部卒といった風情の令嬢が、パパのコネで大学病院に就職し、いわゆるお茶くみ・コピー取りといった雑用をこなしつつ、男性医師に見初められ、寿退職を目指す」のである。まあ、これは医療界に限った話ではなく、当時の銀行や商社でも銀行マンや商社マンとの寿退職を目指す令嬢が多数コネ就職していた。「医局秘書」はこれの大学病院バージョンと言えよう。

 当時の医大はほとんど男子校みたいなものであったし、ネットもなかったので、概して男性医師の女性への免疫は薄かった。滅私奉公的な研修医生活の中では、ヘアメイクやファッションを整えた令嬢がお茶を煎れて優しい声をかけてくれるだけで、当直明けの男性医師にはお姫様のように見えたらしい。多くの令嬢は数年で難なく寿退職となり、かくして「医局秘書」ポジションには別の新人令嬢が収まっていた。

アラフォーまで売れ残る“お局秘書”が続出

 2004年の新研修医制度導入によって、『ドクターX』の冒頭ナレーションで繰り返されるように「大学病院は弱体化」した。あれから10年、教授ポストは乱発されてデフレ化し、各々の「教授職の旨味」は激減した。一例を挙げれば、昭和時代の「教授就任パーティー」といえば、名門ホテル宴会場で執り行われ、大学理事や学会重鎮のスピーチ、祝電や花輪がワンサカ、製薬会社からは御祝儀の山……だったのに対し、いまや忘年会のついでに、数人まとめて大学病院食堂で立食パーティーをするのが主流となってしまった。

 このように「教授職の旨味」が激減した現在においては、「教授の娘と結婚する旨味」はさらに激減した。そもそも、現在の医大生の30〜40%は女子学生であり、かつ西川史子先生、友利新先生などの女子力バッチリタイプも増えている。相対的に男子学生率は減り、めぼしい男性医師は医大生時代にすでにツバをつけられ、「医師×女医婚」に持ち込まれるようになった。

 また、かつてあったような「医師×看護師婚」のタブー感も消失した。「ちょっとかわいい若ナース」を好む男性医師が増え、男性医師の約半数が看護師(および検査技師、理学療法士などの医療系専門職)と結婚する時代となり、40代の若手教授だと「教授夫人は元看護師」というケースも珍しくなくなったのだ。

 現在の状況をざっくり計算すると、医大1学年100人中の男子学生は60~70名、うち30~40名が看護師と、10~20名が女医と結婚し、残るのは10~20名である。さらに近年、ネットの発達により男性医師ともなればチョッと婚活サイトに登録するだけで、向こうから山のようなアプローチがやってくる。地方都市にいながらスチュワーデスやモデルと出会うことも可能になったのだ。前述した、2004年からの新研修医制度によって「17時以降の研修は任意」「研修医単独当直の禁止」など、若手医師の土日夜はグッとヒマになったので、医師免許を活用して「アフター5は合コン三昧」に走る男性研修医も少なくない。

 こうして「医局秘書」に声をかける男性医師が減り、寿退職が減少した。かつてはうまく新陳代謝していた「医局秘書」ポストが回転しなくなり、「婚活歴10年超」のベテラン教授令嬢が医局に居座って「お局様」的な貫禄を漂わせるようになるのだ。たま~に「歯科医師」や「大手製薬会社社員」との縁談をもちこむ勇者がいるが、「医者じゃない!」と逆切れされ……やがて縁談を持ち込む者は皆無となる。やがて「家事手伝い」という名の無職・無資格アラフォー教授令嬢があちこちで発生するようになり、新研修医制度の陰でプチ社会問題と化すまでになったのである。

婚活だけを目標に医大へ進学する女子も急増

 もっとも、教授令嬢サイドも、このような医師婚活事情の変化を知らないわけではない。「どうしても男性医師と結婚したい」令嬢は、「医師夫ゲット」を最大の目標にして医大に進学するようになった。実際、パパが名門医大卒ならば、娘も頑張ればどこかの医大には入れるようである。入学したのがパッとしない医大でも、研修医として名門医大に就職すれば、そこで医師夫を探すことも可能である(2012年放映のNHKの朝ドラ『梅ちゃん先生』において、帝都大教授の次女である主人公は、入学したのはパッとしない女子医専だが、インターンとして帝都大病院に就職するシーンがある)。

 そんな令嬢が無事に「医師夫ゲット」の目標を達成した後は、自分はパート程度に働いてお小遣いを稼ぎ、医師夫婦としてセレブ生活を満喫する。官僚や商社総合職、外資コンサルは辞めてしまえばタダの人だが、「女医」は週1回のパートでも立派に「女医」なのである。

 厚労省は、メディアで叫ばれている「医師不足問題」の対策として、近年では積極的に医大定員を増やしているのだが、それ以上の勢いで「婚活」を目的に医大進学する女子学生が増えており、厚労省や各医大の担当者は対策に頭を悩ませている。

まとめ

  • 新研修医制度によって教授の旨味が激減。「教授令嬢と結婚」する旨味も激減した
  • 「医師×女医婚」「医師×看護師婚」が増え、教授令嬢にまで男性医師がまわらなくなった
  • 『白い巨塔』時代の「無駄に高いプライド」を持った教授令嬢が売れ残り、プチ社会問題と化している
  • どうしても「医師夫をゲット」したい令嬢は、婚活目的で医大に進学し、厚労省や各医大は対策に悩んでいる
筒井冨美(つついふみ)
フリーランス麻酔科医。1966年生まれ。某国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場をもたないフリーランス医師」に転身。テレビ朝日系ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』にも取材協力
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