選挙テレビ特番で必ず映り込む「祈・必勝」が壁一面に貼られるワケ

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選挙速報の中継でよく目にする「為書」(静岡県議会議員・中谷たかじ氏のブログより)
選挙速報の中継でよく目にする「為書」(静岡県議会議員・中谷たかじ氏のブログより)

【朝倉秀雄の永田町炎上】

 今回の総選挙は予想通り、自民党の大勝利に終わりそうだが、それも当然だろう。相当なひねくれ者でもない限り、政権担当能力のない民主党や、できもしない綺麗事ばかり並べ立てている維新の党などに投票する理由がないからだ。

 経験則から、思いつきで設立した新党はいずれは醜悪な内部対立の挙句、分裂し、衰退し、やがては消えてなくなる運命にある。維新や次世代、生活などといった類の将来はかなり厳しいように思える。いずれにせよ今回もまた、まるで「喜劇」のような選挙戦が繰り広げられたのは戦前の想像にも難くなかった。

選挙事務所に貼り出される「為書」の裏事情

 ところで、選挙の小道具のひとつにいわゆる「為書」がある。これは、総理や党代表、大物閣僚、国民的人気のある議員などが署名・押印して各候補者の選挙事務所に届けるもので、「祈・必勝」などという文字が大書されている、いわば応援・激励のための紙だ。テレビの開票速報番組などで、選挙事務所から中継する場面において目にしたことがある人も多いだろう。

 能書家で筆まめな者ならば自ら筆をとることもあるが、自党の公認候補だけでなく、連立を組む友党の候補者にまで配るとなると大変な数になるから、面倒くさくなって、たいていは字のうまい側近や、出入りの書家などに書かせているのが現実である。なかには印刷で済ませてしまう者もいる。

 候補者にとっては、為書の数は多いほどいい。自分がどれだけ多くの先輩や同僚から信頼され買われているかを有権者に見せつけることができるからだ。だから為書をもらうと、これ見よがしに選挙事務所の壁だけでなく天井にまで貼り巡らす。

 事務所を訪れた者は大量の為書を見て、本人の直筆かどうかも知らずに、また公認候補のすべてに「乱発」していることも知らずに「総理をはじめ、これだけ多くの大物議員が当選を祈ってくれているのだから、ウチのセンセイも大したものだわい。今度当選すれば大臣も夢ではないな」などと勘違いするというわけだ。一種の「騙し」である。

片山さつき議員が引き起こした「為書事件」

 為書は、先輩議員が後輩に配ることもある。この場合、先輩同士が不仲で、貼る場所を間違うと、思わぬ騒動に発展することがある。「俺のほうが格が上なのに、なんで奴の為書が俺のものより目立つ場所に貼ってあるんだ?」などと怒りだす者がいるからだ。

 なかには、片山さつき参議院議員のように、為書が原因で悶着を起こす者もいる。女性初の大蔵省主計官出身にして「日本一頭のいい女」を自認。とかく驕慢な振る舞いの多い片山氏は、数年前の「さいたま市議会補欠選挙」の候補者に頼まれもしないのに突然押しかけ、「どうして私の為書が貼ってないの! すぐに探しなさい。ド素人集団が!」などと怒鳴り散らす騒動を起こしている。

 のちに、実は片山事務所の発送ミスでその事務所に為書が届いていなかったことがわかり、選対本部長の埼玉県議に「こういう輩が国を滅ぼす」とブログに書かれる始末であった。まったく困ったオバサンである。

選挙事務所を彩る「推薦状」にも効力はなし

 選挙事務所には、為書の他にも、各種団体——例えば医師会や歯科医師会、税理士会、建設業協会、宅建協会、蕎麦屋組合などの業界団体や、猟友会のような趣味の団体、ロータリークラブやライオンズクラブなどのボランティア団体などが出した大量の「推薦状」をそこらじゅうに貼り巡らす。

 これもまた、「俺はこれだけ多くの団体から推されている」と自己満足に浸ることができるし、有権者に対する無言のアピールにもなるからだ。だが、これが即、集票に結びつくかというと、甚だ疑問である。多くは「義理」で出しているだけで、実際にはどの団体の幹部もろくに選挙運動などしない。

 筆者も現職時代、選挙が近くなると県連が招集をかけた各種団体の会合に出席していたが、「この地域は誰々が責任をもって組織の引き締めを図り、票集めをする」などとすこぶる威勢はいいものの、実際の選挙になるとほとんど動かず、いかにも選挙運動をやっているような振りをしてお茶を濁すのが実情だ。

人々の信心までをも票集めに利用する

 政治家というのは、常に落選の恐怖に怯えているせいか、政治献金を私的に流用して平気で選挙違反を起こす割にはなぜか信心深い者が多い。

 議員会館の事務所に得体の知れない宗教家や占い師、祈祷師などの類を出入りさせて助言を受け、選挙事務所開きの際には神官を呼んで「神事」を執り行ない、必勝を祈念する。罰当たりにも、普段悪いことばかりしているくせに困ったときだけの神頼みでは、神は怒ることはあっても決して味方にはなってくれないだろう。

 何よりふざけているのは、ほとんどの候補者が票欲しさに、仏教系であろうと神道系であろうと節操もなくいくつもの宗教の信者を装っていることだろう。なかには、胡散臭いカルトまがいの教団を関わりを持ち、カネと票を出させようとする者までいる。かつて筆者が仕えた某議員などは、票のためだけに、嫌がる妻を無理やりそういった教団の信者にしようとして夫婦仲を悪化させているのだからまったく呆れた話だ。

 選挙に勝つためには神や仏まで利用し、ときには欺く。それが日本の政治家たちの実態である。さて、今回の選挙では、裏側でいったいどんな「騙し合い」が繰り広げられたのか——。当選を果たした面々の表情と素行に注目したい。

朝倉秀雄(あさくらひでお)
ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。
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