ドクターXの舞台になった超マンモス病院『国立高度医療センター』のリアル

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「ドクターX ~外科医・大門未知子~2」DVD-BOXより
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【フリーランスドクターXのぶっちゃけ話】

 高視聴率をキープする『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』。同ドラマに取材協力した現役フリーランス女医が、知られざる医療現場のリアルと最新事情をぶっちゃける!

北大路欣也率いる「国立高度医療センター」のモデルは?

 ドラマ『ドクターX』シーズン3の舞台は「国立高度医療センター」という巨大病院であり、日本の東西を代表する「東帝大学病院」と「西京大学病院」が覇権争いをしているという設定である。

「日本医学会の頂点に君臨する」とされ、北大路欣也が演じる天堂総長は「単なる病院長」の域を超えた迫力があり、政財界にもいろんなコネクションを持っているらしい。こんなスゴい病院やら総長は、日本に実在するのだろうか?

 今回、ドラマのモデルになったのは、国立高度専門医療研究センターと推察される。これらの病院はナショナルセンターとも総称され、各々のセンターには病院のみならず研究所が併設されている(参考1)。

 かつては「(旧)厚生省の直轄領」と呼ばれ、数ある国立病院の中でも「名門中の名門」とされていた。各々のセンターで、病院と研究所を統括するトップは「総長」と呼ばれ、学会では「地方医大の学長よりは格上」とされていた。こういったナショナルセンターに医師として常勤医師として就職することは「トップレベルの精鋭医師」「出世コース」とされ、実力のみならず有力教授の推薦が必須であり、ナショナルセンター勤務をステップにして医大教授に栄転する医師も多かった。

 レジデント(若手医師を対象にした、日給1万円の非正規職)ですら全国から希望者が殺到した。私の知人女医は、レジデント最終選考で某センターより「在職中は妊娠しない旨の誓約書を出せ」と要求され、悩んだ末に提出しなかったところ不合格となり、後輩男性医師が採用された。

要人やその家族も利用する“名門中の名門”

 国立高度専門医療研究センターは、具体的には以下の6病院を指す。

1. 国立がん研究センター

 東京都中央区築地にそびえたつ、がん治療のメッカ。ドラマ『白い巨塔』最終回で財前教授が夢見た「どんな医者も勤めたくなるがんセンター」というのも、ここがモデルっぽい。

2. 国立国際医療研究センター

 東京都新宿区にある総合病院。感染症や国際医療協力に力を入れている。橋本龍太郎元総理の母が3年間個室入院し、「ナショナルセンターを老人ホーム代わりにするのか!」と問題になったこともある。

3. 国立成育医療研究センター

東京都世田谷区にある小児・産科の専門病院。海外提供卵子によって50歳で妊娠した野田聖子代議士はここで出産(帝王切開+子宮全摘)し、息子(臍帯ヘルニア+食道閉鎖+極型ファロー四徴)は2年間入院して9回の手術を受けた。

4. 国立精神・神経医療研究センター

 東京都小平市にある精神・神経内科の専門病院。

5. 国立循環器病研究センター

 大阪府にある循環器専門病院。横山ノック元知事(故人)は、わいせつ事件発覚後に狭心症を発症して、ここに緊急入院した。

6. 国立長寿医療研究センター

 愛知県にある高齢者医療の専門病院。

医療崩壊後もしばらくは権威を保っていたが……

 2004年からの新研修医制度にはじまった医療崩壊で、各地の基幹病院が次々と「集団辞職」やら「救急応需不能」に追い込まれる時代となったが、この6つの病院群は権威を保っているように見えた。

 2006年、福島県立大野病院での産科医逮捕をきっかけに各地の産科病棟は次々と閉鎖し、産科医療は全国的に荒廃した。2006年末、奈良県の妊婦が出産中に脳内出血して危篤状態だったのを深夜に受け入れて、緊急手術の末に赤ちゃんを救ったのは、国立循環器病センターだった。当時の新聞は「18病院たらいまわし!」と産科医を叩いたが、「あんな、火のついたダイナマイトみたいな患者でも受け入れるなんて、流石はナショナルセンター!」と医師たちは感動した。

“医療崩壊”の波でフリーランス医師を雇う事態に

 ゆえに、2007年の「国立循環器病センターで集中治療部(ICU)医師が全員辞職」は医師たちにとってショックだった——「医療崩壊は、ついにナショナルセンターにも及んだのか……」と。

 2008年には「国立がんセンターで麻酔科医が5人辞職」と報道された。病院は必死で後任麻酔科医を探すも確保できず、「手術件数維持のために、ナショナルセンターがフリーランス医師を雇う」という事態となった(参考2)。2014年4月、今度は成育医療センターで「小児集中治療部の医師が9人辞職し、集中治療部を縮小」と報道された。

 このようなナショナルセンターにまで及んだ医療崩壊について、厚労省やセンター理事長(2010年の独立行政法人化で、総長→理事長と呼称が変更)は、どういった対策をとっているのだろうか? 厚労省や有識者(参考3)による会議の議事録を調べてみた(参考4)。

お役所らしい「事なかれ主義」が垣間見えた議事録の中身

 2014年8月にナショナルセンターの運営に関する会議が開かれており、成育医療センターの人事について調べてみると……ない!……なんと!医師集団辞職に関する記述が一切ない!のである。「2013年末に産科麻酔医長が辞めたが、14年5月に後任医師を確保」といった記述は見られるが、同時期に「9人の医師が辞職したICUの運営」について病院側はスルーしており、有識者もそれを突っ込まず、会議は平和に終了している。

 これがフツーの株式会社だったら、自社が「全国紙に乗るような不祥事」を起こせば、次の株主会議では当然ながら経営陣は釈明するだろう。株主だって自分の財産がかかっているのだから、普段から新聞報道などはチェックするだろうし、不祥事については厳しい質問を飛ばし、場合によっては社長退陣を要求するだろう。

「ナショナルセンター理事長」とはどうやら、『ドクターX』の天堂総長にはほど遠い人材らしい。また、「〇〇省の有識者会議」とは、こんなレベルの会議のようである。

まとめ

  • ドラマ『ドクターX』第3シーズンの舞台となっている「国立高度医療センター」は、「国立がんセンター」などのナショナルセンターをモデルにしているらしい
  • 新研修医制度を発端にした医療崩壊はナショナルセンターにも及び、6病院中3病院で「医師集団辞職」が発生した
  • 「フリーランス医師」と契約するナショナルセンターは現実にも存在した
  • 実際のナショナルセンター上層部は、ドラマの天堂総長にはほど遠い、いかにも公務員チックな人材らしい

参考1:厚生労働省HP「国立高度専門医療研究センターの概要」
参考2:ロハス・メディカル「国立がんセンター、手術件数回復の裏にある問題」
参考3:厚生労働省HP「独立行政法人評価委員会・高度専門医療研究部会委員名簿」
参考4:厚生労働省HP「2014年8月4日独立行政法人評価委員会高度専門医療研究部会(第29回)議事録」

筒井冨美(つついふみ)
フリーランス麻酔科医。1966年生まれ。某国立医大卒業後、米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場をもたないフリーランス医師」に転身。テレビ朝日系ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』にも取材協力
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