2015年は円高基調…ルーブル危機で「資源国通貨」が連鎖暴落の可能性

デイリーニュースオンライン

資源価格低下で揺れるロシア経済だが……
資源価格低下で揺れるロシア経済だが……

 今年11月10日に変動相場制に以降したばかりのロシアの通貨ルーブルが急落している。たとえば、ルーブルの対ドル為替レートは今年12月20日時点で1ドル=60.6825ルーブルとなり、年初(1ドル=32.6587ルーブル)から約1年間で46.2%も減価した。

 ルーブル急落の引き金となったのは資源価格の低下だ。原油・天然ガスなど最近の資源価格の下落が、資源大国であるロシアの経済に深刻なダメージを与えるとの思惑から、大量の投資マネーがロシアから流出、それがルーブルの値下がりを招いている。

 ロシア中央銀行はルーブル下落を阻止する目的で、12月16日、緊急の追加利上げを実施し(利上げをすると金利差の要因で利上げをした国の通貨が買われやすくなる)、政策金利の水準を従来の10.5%から17%へと大幅に引き上げたが、ルーブルの下落に歯止めはかかっていない。

 こうした中、ロシアが1998年8月に見舞われた通貨危機(このとき、ロシアはルーブル切り下げと対外債務返済の90日間にわたる一時停止に追い込まれた)に直面するのではないかと懸念する声も強まっている。

豊富な外貨準備でロシア経済は破綻を免れる

 しかし、ロシアが通貨危機に直面するリスクは、現時点では極めて小さいと言える。というのも、ロシアは通貨危機を教訓として1999年以降外貨の蓄積に励むようになり、ルーブルを買い支えることができる潤沢な外貨を保有しているからだ。今年11月末時点におけるロシアの外貨準備高は4188.8億ドルで、1998年の通貨危機時(8月末時点で124.6億ドル)と比べると33.6倍の規模に達する。

 これだけ外貨準備が潤沢であれば、投機筋などによって短期的にルーブルが売り浴びせられることがあっても、政府・中央銀行が外国為替市場に介入することで、ルーブルの減価は十分に防げるだろう。おそらく、ロシア中銀は近いうちに外国為替市場への無制限介入を実施するとみられる。

 また、対外債務の名目GDP(国内総生産)比は1998年末の69.5%から2014年9月末時点では33.0%と大きく低下しており、財務体質も健全と言える。対外債務返済の停止に追い込まれるリスクが小さいということだ。

 さらに、万が一資源価格下落とルーブル低迷が長期化し、保有外貨が底をつくような事態になっても、ウクライナ情勢を巡る問題でロシアが譲歩を示し、欧米の経済制裁解除を引き出すことができれば、通貨ルーブルの反転を図ることは可能だ。

 上述の理由からロシアは通貨危機を回避できるとみられるが、通貨急落の波はロシア以外の資源国にも広がっている。通貨下落に直面する資源国の中には通貨危機の発生リスクが高まっているところもあり、こうした状況をもって「逆オイルショック」と呼ぶ向きもある。現状、通貨危機の発生リスクが最も高いのは中南米のベネズエラであろう。

 産油国のベネズエラは財政収入の約半分を原油の輸出から得ており、原油価格の下落が進むとそれに連動して財政が悪化する経済構造となっている(今年、ベネズエラ政府が想定していた原油価格は北海ブレンドで1バレル=120ドル)。当然、外貨準備も枯渇してくる。

 現在、ベネズエラの外貨準備は210億ドル程度にすぎず、2年以内に返済しなくてはならない対外債務がほぼ同額となっており、外貨準備不足から輸入制限を実施する事態になっている。1ドル=6.3ボリバルに固定した為替レートも、外貨準備不足で水準を維持することが難しくなっていることから、近いうちに大幅切り下げを迫られる可能性がある。

資源国通貨の下落ラッシュが続き円高になる!?

 格付け会社による格付けの引き下げも実施されており、たとえば、欧州系格付け会社大手のフィッチ・レーティングスフィッチは12月18日、ベネズエラの長期発行体格付けを「B」から「CCC」へと2段階引き下げた。ベネズエラの長期発行体格付けはこれまでも投機的水準であったのだが「CCC」への引き下げはデフォルト(債務不履行)が発生するリスクが高まっていることを示唆する。デフォルト懸念が高まる中、ベネズエラの国債利回りは20%を超える水準まで上昇している。

 もし、ベネズエラでデフォルトが発生すれば、資源国への投資のリスクが改めて強く意識されるようになり、マレーシアのリンギットやメキシコのペソ、ナイジェリアのナイラ、ノルウェーのクローネ、オーストラリアの豪ドルなど資源国通貨が売り浴びせられる流れが加速し、持ちこたえられなくなってデフォルトに陥る資源国が他にも出てくる可能性がある。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

(Photo by IoSonoUnaFotoCamera via Flickr)

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