年の瀬で忘年会シーズンのこの時期、全国のあちこちで飲酒検問が行なわれている光景を目にする。

　警察庁調べによると飲酒運転事故件数は、2003年の1万6376件をピークに毎年、減少傾向にある。2013年には3分の1以下となる4335件にまで減少した。だが、それでもなお飲酒運転をする者は後を絶たない。飲酒運転はアルコール摂取により危険への判断力、認知力が著しく劣ることから危険極まりない行為だ。そんな飲酒運転を取り締まる飲酒検問の実態を、現役の大阪府警の警察官に語ってもらった。

イカの燻製の匂いを口から発する女性ドライバー

　夜10時過ぎ、大阪郊外の住宅地。ここは飲酒検問が行なわれるスポットとしてネット上でも話題の場所だ。

　師走の夜の寒空の下、焦げ茶色のフィアレディZがトロトロと走ってきた。「おい？　あの車、大丈夫か？」。ベテランの巡査長がいう。深夜、方向性が定まらない運転をする車は何か問題があることが多い。要注意だ。

　検問中の表示を見たのか車はすんなり止まった。意外にもドライバーは女性だった。一見若くみえるが40代前半くらいか。助手席には50年配の男性が乗っている

――検問です。「ハーっ」と息を吹きかけて下さい。

　ドライバー女性は、「えっ」と口ごもった。だが飲酒運転している者特有の焦りや隠し事をしているような雰囲気ではない。

「よろしいのですか？」

　品のいい言葉遣いでドライバー女性が問いかける。「はい」と若手警察官が返す。

（にんにくか何か食べたのだろうか……）

　にんにくの匂いを気にして警察官に息を吹きかけることを躊躇う者は多い。きっとその類だろう。

　力弱くハーっと自身の息をドライバー女性が若手警察官に吹きかけた。にんにくとは違う。だが強烈な口臭だ。アルコール摂取を疑う余地はない。何の匂いだ。例えるなら、すえた燻製イカのような匂いだ。

（精液の匂いか。ははん。なるほど。この近くに車を止めて口でヤってきたな……）

「はい。結構です。安全運転で帰って下さい！」

　ドライバー女性が恥ずかしそうにうつむき、「すみませんでした」といいながらドアウィンドウを閉じ、帰路へと走り去る。車が見えなくなってから若手警察官はベテランに報告した。

「すえた燻製イカのような匂いでした。口淫の後と思われます――」

　ベテランが若手警察官の頭を軽く叩く。「余計なことは言わんでええ」。心なしかベテラン警察官の目が笑っていた。

「どんな酒飲んだ？　楽しいオ・チャ・ケ！」

　夜11時過ぎ、深夜の初めともいえるこの時間こそ、飲酒・酒気帯びの車が大量にやってくる時間帯だ。検問中の警察官たちの緊張も寒さとともにピークに達する。

　銀色のヴィッツがやって来た。まさに教科書通りの「飲酒運転」ともいえる右へ、左へと安定性に欠ける運転だ。「ついに来たか！」。検問中の警察官皆が身構える。運転手は50年配の男性だった。

　ウィーンというドアウィインドウが空いた。同時に充満したアルコールに匂いが社内から外に放たれる。間違いない。飲酒運転だ。

――お酒飲まれてますよね？

「うん。飲んでるで。それがどないしたん？」

（危ないな。よくここまで事故なく運転してきたものだ）

――どんなお酒飲まれました？　ビール？　焼酎？　どのくらい？　何時間前？

　少しきつめの口調で問いかけた。

「楽しい酒だよ。気持ちいいオ・チャ・ケ！　さっきまで。めっちゃ楽しいジ・カ・ン！」

　ベテラン警察官が若手警察官の耳元で囁く。「酒量検査。ワッパかけるかもしれんから」。

　アルコール度数検査の結果、飲酒運転であることがわかった。その場で「酒酔い運転」の現行犯逮捕となった。運転手男性は誰言うとなく言葉を発する。

「俺、捕まったん？　ほんなら朝まで飲んどったほうがよかったなあ！」

52％が「捕まらないと思った」

　兵庫県警調べによると、飲酒運転の理由は、「捕まらないと思った」が最多で52％、次いで「少量なので大丈夫」が36％、「代行運転は金がかかる」が12％だ。

　いわゆる飲酒運転のうち、「アルコールの量に関係なく、酒に酔った状態で正常な運転ができないおそれがある時」に車やバイクを運転した者は「酒酔い運転」とされる。

　道路交通法では、この酒酔い運転は違反点数は35点、免許取り消し、欠格期間3年だ。その間、自動車などの免許取得は出来ない。加えて「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課せられる。代行運転を頼む費用よりも支払う代償は、代行運転を頼む費用よりもはるかに大きい。

（取材・文・写真／川村洋）