本当に「北の犯行」なのか…北朝鮮サイバー攻撃の未熟さ

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サイバー攻撃舞台の増強を図る北朝鮮
サイバー攻撃舞台の増強を図る北朝鮮

 金正恩氏をパロった映画『The interview』騒動は、米朝対立のあらたな火種となった。

 12月25日に公開を予定していた映画の配給元・ソニー・ピクチャーズエンターテインメント(以下SPE)のサーバーがハッキングされ、その後、逆に北朝鮮のウェブサイトの接続が不安定になるなど、米朝サイバー戦争は世界的な話題になりつつある。

 一方では、アメリカ当局の報復にしてはスケールが小さく、またFBIが断定したソニーハッキング「北朝鮮犯行説」も真相はわからないとの指摘もある。

 ただし一つ言えるのは北朝鮮が一般国家よりもサイバー攻撃の能力をもっているということだ。北朝鮮のサイバー攻撃能力についてIT事情に詳しい関係者は、あくまでも一般論と前置きしながら次のように語った。

「ネットワーク社会ではまず攻撃を受けたことを前提にセキュリティに力点を置く。ところがITのインフラが発達していない北朝鮮では、セキュリティを気にせず攻撃だけに集中できる」

 つまり、北朝鮮はノーガードで「攻撃戦」だけを仕掛ける能力を持っているということだ。

労働新聞が将軍様の名前を伏せ字に?

 一方で、北朝鮮当局はかなり間抜けなミスもしていることが明らかになっている。

 これは、2012年12月3日付の『労働新聞』のウェブサイトのスクリーンショットだ。「偉大な霊将であられる□□□大元帥様……」という文脈や写真から考えると間違いなく伏せ字のような部分には「金正日」と入るべきだ。

 おそらく担当者が「将軍様を強調させなければいけない!」と気を利かせて「金正日」の朝鮮語フォントに特殊フォントを使用したのだろう。ところが、外部のブラウザに表示されないフォントだったため、こういう事態に陥ったと見られる。

 北朝鮮で将軍様の名前が伏せ字になるなどあってはならないことだ。場合によっては「不敬罪」としてウェブ担当者が政治犯収容所行きになるのでは?と心配した筆者は、おもわずツイッターでこの件を指摘した。

「北朝鮮のウェブデザイナーよ、早く気付いてくれ!」

 結局、この状態は日付が変わるまで修正されなかった。担当のウェブデザイナーの処遇が気になるところだ。

北の「ちぐはぐさ」に浮かぶ疑問

 高いサイバー攻撃能力と、簡単なウェブサイト管理のお粗末さ。こうした“ チグハグさ”は北朝鮮の特徴のひとつであるとも言えるが、ここで、ひとつの「疑問」が浮かぶ。

 SPEに対するサイバー攻撃に、北朝鮮はどの程度関与していたのか、というものだ。北朝鮮のIT事情に詳しいコンピュータ・セキュリティの専門家が、次のように語る。

「SPEに対する攻撃は、技術的には北朝鮮のサイバー部隊にも可能かもしれない。しかし、北朝鮮のサイバー攻撃の特徴は、資本主義を知らずに育った人間によるチグハグさにある。たとえば、韓国などに対してものすごく技術的に高度な攻撃をしかけながら、社会的に話題となるポイントを外してしまったためにまったく話題にならない、といった具合だ。それに対して今回は、社員の個人情報をばらまくなどして会社を様々な形で追い込み、映画を一時的に公開中止に追い込むなど、やり方が洗練され過ぎている。ハッキングの技術もさることながら、マーケティング能力にも優れており、あまり北朝鮮らしいスタイルとは言えない」

 米国メディアでは、「北の犯行」説に懐疑的な見方が出る一方、SPEの内部犯行説も取り沙汰されている。そして米国政府は、北朝鮮の関与を裏付ける決定的証拠を今なお開示していない。果たして、真実はどこにあるのだろうか。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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