【北朝鮮】2015年「新型潜水艦」を武器に金正恩が暴走か

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暴走するのか?……国際社会から注目が集まる
暴走するのか?……国際社会から注目が集まる

 北朝鮮の“ヘイトスピーチ”が暴走している。ターゲットとなっているのは米国のオバマ大統領だ。本来なら引用するのもはばかられるのだが、北朝鮮の「罪」をさらす意味で、あえて言及しておく。

「熱帯林の中で生息する猿面そのまま、いつ見ても言動がきわめて軽々しいオバマ」(2014年12月27日付『朝鮮中央通信』電子版)

ロシアと急接近してオバマとの対決姿勢を露わに

 北朝鮮のメディアがこうした人種差別的な表現を使うのは、これが初めてではない。2014年5月2日にも、朝鮮中央通信は同様の表現でオバマ氏を罵倒している。その際、筆者は総連幹部から次のような分析を聞いた。

「叔父である張成沢氏を粛清してしまうほどの金正恩第一書記の強権に、本国の役人たちは縮み上がっているのだろう。メディア部門の幹部は、正恩氏の意向を忖度(そんたく)してオバマ氏罵倒の言葉を過激化させ、周囲の人間も『軟弱者』とのそしりを恐れて制止できない。その結果、米国との感情的なしこりが悪化して関係改善が遠のいてしまう。深刻な悪循環だ……」

 冷静な分析であり、北の内部は概ねこのような状況ではないかと想像できる。ただ、その後も同様の差別表現を繰り返しているのは、これとはまた違った理由が作用しているからかもしれない。

 正恩氏は、すでに任期の短くなったオバマ氏との関係改善にはとうの昔に見切りをつけており、2015年は「暴れるだけ暴れてやろう」と考えているのではないだろうか。

 実際、そのための布石は打たれている。ロシアとの関係の深まりである。

 ウクライナ問題で孤立し、ルーブル暴落などで経済危機の瀬戸際にあるロシアが、北朝鮮の後ろ盾となって米国を抑え込むことなどできるはずもない。それでも、ロシアには伝家の宝刀がある。国連安保理常任理事国だけが発動できる「拒否権」がそれだ。これさえロシアから取り付けることができれば、国際社会は北朝鮮への追加制裁や軍事行動には容易に動けないから、ちょっとやそっとのことで体制が存亡の危機に立たされることはない。正恩氏は、そう踏んでいるのではないだろうか。

「人道に対する罪」で国際的にも追い詰められる?

 ではいったい、正恩氏はどのように暴れるつもりなのだろうか。

 考えられるのは、まず弾道ミサイルの発射実験。それに対して国連の非難決議が出たら、逆ギレして核実験に突き進むという過去と同じパターンだ。

 もっとも、これには国際社会もかなり慣れてきており、北朝鮮が望むほどビビッドな反応を見せるとは限らない。それでは彼らも困る。過激な行動で国際社会を揺さぶり、交渉で優位に立とうというのが北朝鮮の戦略だからだ。

 そこで気になるのが、2014年後半になって北朝鮮東海岸、つまりは日本の対岸にある海軍基地で確認された、「新型潜水艦」だ。

参考サイト/DailyNK Japan:北のミサイル潜水艦開発(上)「日本企業」の影

 この潜水艦がどれほどの性能を持っているか、現状ではわからない。むしろ、「戦略的には価値なし」とする見方も多い。しかし、たとえポンコツであっても、日本の領海近辺に出没するような事態になれば、海上自衛隊や米海軍は追跡などの対応を取らざるを得ない。

 大海原で敵対する国の軍艦どうしが向き合うのは、非常に危険なシチュエーションである。遮蔽物(身を隠す場所)が何もなく最初の一撃で生死が決するため、「やるか、やられるか」の判断を迫られやすいからだ。北朝鮮にはただでさえ、韓国の哨戒艦を潜水艦による待ち伏せ攻撃で沈めた前科がある。

 つまり、新型潜水艦はその性能にかかわらず、使い方ひとつで正恩氏の「危険なオモチャ」になり得るわけだ。

 そして現在の正恩氏には、こうした「暴走戦略」で国際社会に揺さぶりをかけたい大きな理由が存在する。祖父・金日成と父・金正日から受け継いだ“負の遺産”、すなわち70年にわたる独裁体制で犠牲になった数十万、数百万人への「人道に対する罪」だ。 政治犯収容所での虐殺などの人権問題で追いつめられ、国際社会から「ヒトラー」と同様の烙印を押されようとしているからだ。

 生き残りに必死となった正恩氏は、父である故金正日総書記、祖父の故金日成主席よりも、いっそう危険な独裁者となるかもしれない。そして今年、正恩氏が本格的に国際社会に戦いを挑む可能性があるのだ。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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