「あったかいんだからぁ」クマムシ・歌ネタ芸人が売れる理由

デイリーニュースオンライン

クマムシ長谷川オフィシャルブログより
クマムシ長谷川オフィシャルブログより

 2015年に入っても相変わらず、お笑いの世界では厳しい状況が続いている。若手芸人が世に出るきっかけとなるようなネタ番組が激減しており、ネタをコツコツ作っていてもなかなかチャンスが回ってこない。

 そんな冷え切った状況のお笑い界で、例外的に活気のあるジャンルが2つだけある。それは、歌ネタ(リズムネタ)とものまねだ。歌ネタは、音楽という強力な武器を使って世間にネタを広めやすいという利点がある。ものまねはネタ時間が短くても通用するので、テレビに出られるチャンスが比較的多い。お笑いには景気・不景気の波があるが、歌ネタとものまねだけは不景気知らず。どんな時代にも必ずニーズがあるので、そこで一攫千金の機会をつかむ芸人が存在するのだ。

 特に最近は歌ネタ芸人に勢いがある。2013年からは『歌ネタ王決定戦』という歌ネタ専門のお笑いコンテストがMBS(毎日放送)主催で開かれるようになったし、2014年にはどぶろっくが「もしかしてだけど」という歌ネタで一世を風靡した。業界全体が、新たな歌ネタ芸人の発掘に力を入れているようなところがある。

歌ネタ芸人が売れる理由とは

 そして今、歌ネタでじわじわと人気を伸ばし、今年のブレイク芸人候補と騒がれているのが、クマムシと8.6秒バズーカだ。彼らはそれぞれ同時期に歌ネタで注目されているが、ネタの種類が異なる。

 クマムシの長谷川俊輔は、丸刈りでヒゲ面のいかつい風貌だが、漫才では甘い声で自作のアイドルソングを熱唱する。持ち歌は何曲かあり、その中の1曲が大きな話題となっている。『アメトーーク!』の「ザキヤマ&フジモンがパクリたい-1グランプリ」でも披露された「あったかいんだからぁ」という歌ネタだ。両手の拳を自らの顔に近付けて小刻みに振り、たっぷり感情を込めて「あったかいんだからぁ」と甘く優しく歌い上げる。本人は完全にアイドルになりきっていて、見た目と歌声のギャップで笑いを誘う。

 クマムシの歌ネタの特徴は、楽曲としてのクオリティが高いということだ。一応お笑いのネタではあるが、楽曲そのものはしっかり作られていて、メロディーにも歌詞にもふざけたところが一切ない。だからこそ、音楽として正当に評価されて広まっていったのだろう。

 一方、8.6秒バズーカは全身真っ赤な衣装に身を包んだサングラス姿の2人。彼らが体全体でリズムをとりながら、「ラッスンゴレライ」という意味不明のフレーズにまつわる掛け合いをする。このネタで彼らは『オサレもん』『ぐるナイ』などに出演して、強烈なインパクトを残した。

 「ラッスンゴレライ」は、「あったかいんだからぁ」とは違って、メロディーはあまり重視されていない。この歌ネタでは、メロディーよりもリズムが鍵となる。だからこそ、このネタは最初から最後までリズムに乗った状態で進められている。

 クマムシのネタの中では、歌は漫才の一部分に過ぎない。アイドルソングを熱唱する長谷川に対して、相方の佐藤大樹は厳しくツッコミをいれる。メロディーをしっかり聴かせていれば、それだけで歌の印象はきちんと耳に残るのだ。

 だが、8.6秒バズーカの「ラッスンゴレライ」は違う。こちらはリズムがすべてだ。始まりから終わりまで、一定のリズムに従ってネタを進めなくてはいけない。このネタでは、笑えるか・笑えないかではなく、ノレるか・ノレないかが重要。冒頭で観客をつかんでそのまま押し切るというのが、まだ芸歴の浅い彼らならではの周到な戦略なのだろう。一定のリズムでネタをやりきってしまえば、お笑いとしての細かい間やテンポを気にしなくてもいいからだ。

 メロディー系歌ネタのクマムシ、リズム系歌ネタの8.6秒バズーカ。毛色の違う歌ネタ芸人が頭角を現してきたことで、若手お笑い界もにわかに活気づいてきた感がある。中高生を中心にファンを増やしつつある彼らのネタは、どこまで世間に浸透していくのだろうか。

ラリー遠田
東京大学文学部卒業。編集・ライター、お笑い評論家として多方面で活動。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務める。主な著書に『バカだと思われないための文章術』(学研)、『この芸人を見よ!1・2』(サイゾー)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある
「「あったかいんだからぁ」クマムシ・歌ネタ芸人が売れる理由」のページです。デイリーニュースオンラインは、ラリー遠田テレビ番組お笑い芸人芸能エンタメなどの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る

人気キーワード一覧