韓国でも「表現の自由」が問題に…在日コリアンに飛び火か

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国家保安法を「利用」する韓国の国家情報院
国家保安法を「利用」する韓国の国家情報院

 フランス紙襲撃テロ事件をきっかけに「表現の自由」をめぐる論議が盛り上がる中、お隣の韓国が別の騒動でヤリ玉に上がっている。米国のサキ国務省報道官は1月9日、韓国の国家保安法が「表現の自由とインターネットのアクセスを制限していることに憂慮している」と表明したのだ。

 きっかけとなったのは、韓国生まれの女性で米国の市民権を持つシン・ウンミさん(54)が2014年、ソウル市内で開いたイベントで北朝鮮の体制を称賛するような発言を行い、保守系団体から「国家保安法違反だ」として告発された事件。シンさんは韓国当局から国外強制退去を命じられ、10日に米国・ロサンゼルスに向け出国した。さらに今後5年間、韓国への入国が禁じられる。

過去の遺物だった「国家保安法」が復活した理由

 これを受け、米国では主要メディアが「(事件が) 韓国での表現の自由に関する疑問を提起した」(ワシントンポスト)、「朴槿恵政権以後に(法の)乱用に対する恐れが高まった」(ニューヨークタイムズ)などとして、韓国政府を強く批判している。

 いったい、国家保安法とはどのような法律なのか。韓国紙記者が話す。

「制定されたのは、韓国政府が成立した直後の 1948年です。反国家団体を結成したり、そこに加盟・接触したりするのを『スパイ行為』として禁止したもので、最高刑は死刑です。この法によって北朝鮮は反国家団体に指定されており、その体制を称賛したり肯定したりすることも『利敵行為』として禁じられているのです」

 この法律の問題点のひとつは、何が「利敵行為」に当たるのかといった基準が曖昧で、権力者の恣意的な解釈によって政敵攻撃などに利用されてきたことだ。実際、70~80年代の軍事政権時代には数々の「スパイ事件」がでっち上げられ、多くの人々が無実の罪で裁かれた。

総連系の在日コリアンもスパイ容疑に!?

 もっとも、90年代に民主化してからはそうした傾向にも歯止めがかかり、国家保安法の廃止すら議論されるようになっていた。

「韓国は70年代に入るまで、北朝鮮に国力で圧倒されていました。国家保安法は、北に対する恐怖心の産物だったとも言えます。しかしその後、韓国は北との体制間競争で圧勝した。一部の人間が北の体制を称賛したからって、普通の国民は相手にしません。国家保安法は役割を終えているんです」(前出・韓国紙記者)

 それがここへきて、にわかに息を吹き返したのは何故か。

「韓国ではいま、貧富の格差などの矛盾が増大し、庶民の不満は爆発寸前です。それを抑えきれない保守政権が、権力に反抗的な勢力を取締る武器として国家保安法を利用している面がある」(同)

 そして実は、韓国政府のこうした姿勢は日本社会にまで影響を及ぼす可能性があるのだ。日本の公安関係者が話す。

「北朝鮮を支持する民族団体の朝鮮総連も、今やメンバーのほとんどは韓国籍です。その中には、ビジネスや観光でソウルに行き来する一方で、金正恩を讃える機関紙の紙面に名前や顔出しで登場し、訪朝歴を披露している人も少なくない。韓国の情報機関である国家情報院は、そうした人々をチェックしている」

 ということは、総連系の在日コリアンたちが突然、韓国政府から「スパイ容疑」に問われることがあり得るのだろうか!? 国家情報院関係者にただしたところ、次のような回答があった。

「時代が時代なので、無理やり捕まえたり訴追したりする方針は今のところない。しかし国家保安法が厳然として存在することを、在日同胞はハッキリ知っておくべきだ」

 法の運用は、政治の裁量によって突然変わることが珍しくない。北朝鮮が核・ミサイル開発で暴走して北東アジア情勢が緊張し、日本を舞台に「スパイ合戦」が繰り広げられる日が来ないとは限らないのである。

(取材・文/承山京一)

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