宅配便ドライバーが強いられる過酷な労働「10分遅配で土下座も」

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ドライバー不足とされる宅配業界の惨状
ドライバー不足とされる宅配業界の惨状

「誰がこんな時間に来いといった? それにその口の利き方は何だ? 会社に連絡するぞ! 俺をバカにしてんのか? 謝れ! 土下座しろ!!」

 配達先でいきなりこう怒鳴られた。佐川急便でセールスドライバーの仕事をしていた中川幸一さん(仮名・44歳)は、とっさに「土下座します!」と言うなりその玄関口で土下座して詫びた。配達先の若い客がスマホを取り出しその様子を写真撮影する様子が伺える。悔しさから涙が自然に溢れてきた。だが養わなければならない家族のためだ。悔しさを堪えて必死に耐えた。

10分の遅配で土下座、写真撮影も耐えて次の配達先へ

「そのお宅は再配達だったのですが、指定された時間よりも10分ほど遅れたんです。佐川に限らず、どこの宅配業者でもある程度の時間のズレはお許し頂いているのですが、それでもある程度の時間帯の区切りは設けています。午前中、12時から14時、14時から16時……といった具合で。そのお宅には予測していなかった渋滞も有り指定の16時を10分過ぎてのお届けとなりました」(中川さん)

 時間厳守は社会人としてのモラルだ。だが時にはやむを得ない事情から遅刻を余儀なくされることもある。たかが10分かもしれない。しかし、その10分が人の人生を左右することもある。中川さんは次の配達先もある。必死に若い客相手に土下座を続けた。

「何とかお許しを頂いて次の配達先へと向かいました。後味はよくないですが、仕方ありません。土下座ひとつで済ましてくれるのならいくらでもしますよ」(同)

 もっともここまで酷いケースなら社に相談すれば対応も可能だろう。しかし当時、就職したばかりでいきなりトラブルに巻き込まれたとなると社の自分への評価が厳しいものになると考え、その場で穏便に済ませることにした。今となってはそれが良かったのかどうかはわからない。

「最近ではそうした土下座姿をネット上に晒す方もいらっしゃるとかで。私の立場では、ただただ遅配のないようにということしか申し上げられません」(同)

時間厳守、時速180kmでぶっ飛ばすトラック運転手

 こうした宅配便業者事情を、「甘い」と一刀両断するのは、九州のある運送業者・A氏だ。宅配はほとんど行なわず、生鮮食品をはじめ企業関連の流通を請け負っている。

「漁港で魚を荷積みして、築地など競りが行なわれる市場まで深夜・早朝に時速180kmでぶっ飛ばす。なぜだかわかる? 競りの時間に遅れたら、もうその荷は競りにかけられない。そしたらその荷は俺たちが引き取らなければならない。だから危険だろうが、交通違反だろうが、そんなことは俺たちにはどうでもいいこと。時間厳守は絶対だよ」(A氏)

 築地などの市場での競りは、荷が届かない場合、稀に時間をずらすこともある。だがそれは極めてレアケースなのだ。一般に遅配による運輸会社側の責任は重いとされている。

「昨年亡くなった菅原文太さんの映画、『トラック野郎』シリーズのような、トラック野郎は今はもうほとんどいないけどね。あれは自分で荷を買って自分で売る。ハイリスク・ハイリターンな世界だ。でも、今の時代でも運輸会社はそのハイリスク・ハイリターンを多少なりとも背負っている。雇われ運転手はまだ気楽なもんだよ」(同)

危険、長時間勤務でも年収400万円台がザラ

 今、長距離トラック運転手の平均年収は約400万円程度だという。年齢は40代、50代が多く30代は若手の部類。20代はほとんどいない。

「時間厳守だし、たまに荷受先におかしいのもいるよ。そういう時は土下座でも何でもして怒りを静める。だいたいトラック運転手はおいしい商売だと思うよ。仕事中、好きな音楽聴きながらタバコ吸って。時間に余裕があれば買い物とかちょっと行きたいところにも行ける。口うるさい上司もトラックの中にはいないからね」(同)

 だが時には交通違反モノの危険を冒してまで時間厳守を強いられ、土下座も厭わないトラック運転手、“おいしい商売”というにはどこか無理がある。20代のなり手が少ないのも頷ける。ネット通販の拡大で年間の宅配便の取り扱い数は36億個を突破し、今後も増え続けることになる(2013年度)。先行き、誰もなり手がいなくなればこの国の流通はどうなるのだろうか。

(取材・文/秋山謙一郎 Photo by Anna & Michal via Flickr)

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