【貧困ビジネス最前線】生活保護費ピンハネ対策に乗り出した政府の思惑

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貧困ビジネスはいまだ跋扈している
貧困ビジネスはいまだ跋扈している

 貧困層や低所得者から金銭を搾取する「貧困ビジネス」が横行している。昨今、社会問題化しているのは、無料低額宿泊所(生活困窮者に無料もしくは低額で提供される簡易住宅や宿泊施設)による生活保護費のピンハネだ。

 ホームレスなどの生活困窮者は、野宿などをしていて住所不定のため、生活保護の受給を申請しても、行政側から生活保護の対象として認定されにくいという問題がある。

 ホームレスが生活保護を受けづらいという状況に目をつけた心無い個人や団体は、善意のボランティアを装って、ホームレスに声をかけ、アパートの部屋や食事などを提供してやる。住所が決まって生活が落ち着いたところで、ホームレスに生活保護を申請させる。無事、行政側の審査が通って福祉事務所から保護費が支給されるようになると、保護費の大半を、住居を提供した個人や団体がピンハネしてしまうのだ。 

 もちろん、すべての無料低額宿泊所がこのような「貧困ビジネス」に手を染めているわけではないが、無料低額宿泊所に悪質業者が多く紛れ込んでいることは間違いのない事実である。

 無料低額宿泊所に悪質業者が多く参入するのは、無料低額宿泊所の法的な位置づけが、白黒がはっきりしない「グレーゾーン」になっているからにほかならない。

2年間で約1億6996万円を荒稼ぎした業者の例

 本来、無料低額宿泊所は、社会福祉法に基づく届け出制の施設なのだが、無届けでも処罰されることがないため、無届け業者はかなりの数に上る。厚生労働省の調査によると、2010年の時点で全国1802施設のうち、1314施設が無届けであった。

 家賃についても規定があいまいになっており、2003年に設けられたガイドラインでは単に「無料または低額」と規定されているに過ぎない。実際の家賃の設定は事業者の判断にゆだねられている。家賃は低めに設定しておきながら、それに「管理費」や「運営費」を上乗せすることで、実態としては相当に割高な家賃になっているケースもある。

 このように無料低額宿泊所が法的に「グレーゾーン」のままになっていることが、悪質業者の参入を招いている側面がある。

 では、「貧困ビジネス」に手を染める無料低額宿泊所の実態はどうなっているのか。2014年10月、さいたま市などで無料低額宿泊所を運営していた男が所得税法違反の容疑で逮捕された。この男は2009~2010年の2年間で約1億6996万円を荒稼ぎしたにもかかわらず、所得を316万円と申告し、所得税6183万円の支払いを免れていた。

 この男の運営していた施設の実態が明らかとなっており、これをみれば、入居していた人がいかに劣悪な居住環境に置かれていたがわかる。

 ある男性は、今回摘発された事業者が運営するさいたま市内の住宅街にある一戸建ての無料低額宿泊所に入居した。この男性はベニヤ板で3畳のスペースに仕切られた6畳一間の部屋に住まわされたという。出てくる食事はカップ麺やレトルトばかりであったと証言している。家賃が4万7000円、食費・光熱費が約6万円、入居者には生活費として毎日500円と月に1度5000円が渡されるだけだった。

 生活保護費の支給日になると、入居者は車で最寄りの福祉事務所に連れて行かれ、約12万円の生活保護費を受け取る。その後、コンビニエンスストアに連れていかれ、生活保護費が入った袋ごと事業者に回収されていた。

宿泊所の平均的な床面積はなんと9㎡!

 こうした状況下、政府は2015年度から生活保護費のうち家賃に相当する住宅扶助の上限額を引き下げることを決定した。「貧困ビジネス」のうまみをなくすことが狙いだ。

「貧困ビジネス」に手を染める無料低額宿泊所は、利益を最大にするため、ひとつの部屋に複数人を押し込むなど劣悪な居住環境にしたうえ、住宅扶助の上限額に近い高めの家賃を設定することが多い。

 実際、厚生労働省が2014年8月に実施した、生活保護受給世帯の居住環境についての調査結果によると、調査対象となった無料低額宿泊所の73%が住宅扶助の上限を超える家賃(家賃÷住宅扶助の上限≧1.0)を設定していた。しかも、無料低額宿泊所の平均的な床面積は9㎡と、平均的な民営借家(30㎡)に比べて極端に狭い間取りとなっていた。

 住宅扶助の上限額を引き下げれば、施設運営業者の採算が悪化することになり、最終的には無料低額宿泊所の事業から排除できるという理屈だ。

 ただし、住宅扶助の上限を引き下げると、(撤退する事業者が増えることで)無料低額宿泊所が不足気味となり、生活困窮者が住居を確保することがますます困難になるという本末転倒な結果を招く恐れもある。

 やはり、無料低額宿泊所による「貧困ビジネス」の横行に歯止めをかけるには、届け出を義務付けるなど無料低額宿泊所に対する法的な規制を整備・強化し、きちんと行政の管理下に置くことが先決なのではないか。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

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