イスラム国が「核保有」…第三次世界大戦は起こるのか|田母神俊雄コラム

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ヨルダン軍がISILへ事実上「報復」の空爆。このまま戦火は広がるのか…
ヨルダン軍がISILへ事実上「報復」の空爆。このまま戦火は広がるのか…

 湯川遥菜さん、後藤健二さんに次いで、イスラム教スンニ派過激組織「ISIL」(イスラム国)はヨルダン人パイロットのムアーズ・カサスベ中尉も殺害した。

 中尉は昨年12月、シリア北部でISILの空爆作戦参加中に墜落、ISILに拘束されていた。2月3日に公開された殺害映像は、生きたまま、檻の中の中尉に火をつけ焼死させるという残虐な内容だった。

 この映像公開を受けたヨルダン政府は、ISILが釈放を求めていたサジダ・リシャウ氏ら2人の死刑囚の死刑を執行。その上で「殉職者の血を無為に流されたことにはしない。天地を揺るがすような対応を取る。復讐は、全国民に衝撃を与えたこの惨事の大きさに比例する内容になる」と宣言。日本時間の2月5日、ヨルダンは、中尉が拘束されて以降中止していた空爆を再開している。

 こうした状況を受けて、ネット上では「復讐が復讐を呼び、中近東が火の海に包まれる」「第三次世界大戦が勃発する」などと騒がれている。

核兵器の戦争抑止効果を熟知しているISIL

 ISILとヨルダンの間での紛争は続くだろうが、第三次世界大戦など起こるはずもない。

 世界大戦は、大国が衝突しない限り起こりようがない。さらに言えば、現状では、イスラム社会ばかりではなく、世界中を敵に回しているのがISILである。そんな集団を支援する大国が現れるだろうか。あまりに過激な行動が続き、国際世論が「ISILを倒せ」となった時、アメリカがイギリスやフランスと組んで掃討戦を展開し、ISILは終わりとなるだろう。今、ISILは、アメリカなどによる大規模ISIL攻撃をなんとしても避けたいと思っているに違いない。

 昨年12月に、ISILが「Dirty Bomb(汚い爆弾)」を入手したとのニュースが流れた。これはISIL系グループによりTwitter上で明らかにされたもので、イラクの大学の研究室から核物質を盗み出したという。

ISIS:「汚い爆弾」の保有宣言|BusinessNewsline

 汚い爆弾とは、通常の原爆や水爆のような膨大な破壊力こそないものの、爆発による衝撃で周囲が放射能で汚染される小型の核兵器であり「貧者の核」とも言われている。

 ネット上の情報なので事実や信憑性は不明だが、ISILは敢えてこのような情報を流し、「もしISILを大規模攻撃するならDirty Bombで反撃するぞ」という脅しを行っているのだろう。しかし、核兵器は放射性物質を保有しただけでは使うことはできない。運搬し投射する航空機やミサイルなどを同時に保有しなければ有効兵器にはなりえない。昨年成立したばかりのISILが、核兵器使用能力をこんな短時間で造成できるわけがない。

「テロ集団に核兵器が渡ったら大変」と言うが、そんな可能性はゼロに近い。核兵器は、ポケットに入れた手榴弾を使うような簡便な使い方をすることは不可能なのだ。

 核兵器を持つにはウラン濃縮の施設を造る必要があり、それには最短でも1年程度はかかる。さらに運搬・投射手段を準備するのにも数年はかかる。つまり、現状のISILに、通常の核兵器を製造する能力が備わっているとは考えにくい。ISILが短期間に核兵器を持つには核保有国から提供を受けるしかないが、イスラム社会をはじめ世界中を敵に回しているISILに協力をする国はない。

 ただし、核兵器とは、1発持つだけで十分に抑止が成り立つ。抑止力については、前回の記事で説明した通りだ。重大な被害をもたらすたった1発の核兵器があることで、1対10の戦力差を10対10にしてしまうのだ。ISILはそれを知っている。

後藤さん殺害…今こそテロ抑止に集団的自衛権の適切な行使を|田母神俊雄コラム

 ISILにより将来的に核が使われる可能性は限りなくゼロに近いが、北朝鮮をみてもわかる通り、核保有の有無は、外交交渉能力に天と地ほどの差をもたらす。小国の北朝鮮が、どんなわがままを言おうと攻撃されないのは、核保有国だからである。

 しかし、核を使ったが最後、核の報復により自国が終わることを自覚している。「使ったら終わり」の核は、攻撃用ではなく「究極の防御用兵器」なのである。

 核を使ったら何倍もの報復を受けることは目に見えており、核武装国同士の大規模戦争は起こりようがない。

「核軍縮」は核保有国が自国の立場を守るための方便だ

 現在、核を保有しているのはアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスの国連常任理事国と、インド、パキスタン、北朝鮮。イスラエルも核保有が濃厚だが、これら核保有国の国際的な存在力、発言力の大きさは言うまでもない。

 インドとパキスタンは年がら年中戦争をしていたのに、互いに核保有国となった途端、戦争は起こらなくなっている。ソ連と中国の戦争、インドと中国の戦争もなくなった。

「核兵器を放棄して平和を維持しよう」という核軍縮は建前である。核保有国は、核廃絶の意思など全くない。核保有国は、これ以上世界に核兵器が広まると、国際社会における発言力が相対的に低くなることを知っている。現在の核保有国で核を独占したいがための方便を言っているだけである。

 そう考えると、日本も核武装をすべきである。核武装を実現すれば、「自分の国を自分で守ることが出来て、他国から手出しをされない国家」となれる。もちろんアメリカを筆頭に核武装国は邪魔をするだろうから、周到な計画が必要であることは言うまでもない。

 中国、ロシア、北朝鮮など我が国に敵対的な周辺諸国が核武装国である現実を、日本人はしっかりと受け止めるべきだ。

(撮影/内海裕之)

著者プロフィール

田母神俊雄

軍事評論家、政治活動家

田母神俊雄

1948年福島県生まれ。防衛大学卒業後、航空自衛隊に入隊。統合幕僚学校長・航空総隊司令官を経て航空自衛隊(約5万人)のトップである航空幕僚長に就任。2008年「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を発表、政府見解と異なる歴史認識として航空幕僚長の職を解かれる。2014年、東京都知事選出馬、61万票を獲得。同年12月の衆院選では東京12区から出馬した。おもな著書に『田母神塾』(双葉社)、『ナメられっぱなしのニッポン、もっと自信と誇りを持とう!』(実業之日本社)などがある。週刊誌アサヒ芸能にて「田母神政経塾」連載中。

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