【イスラム国】拉致された日本人は自衛隊が救うべきだったのか|田母神俊雄コラム

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人質殺害事件では、国内外から我が国の“あり方”を問う声が上がったが…
人質殺害事件では、国内外から我が国の“あり方”を問う声が上がったが…

 ISILに後藤健二さん、湯川遥菜さんが殺害された件を受けて、ヨルダンでは「なぜ2人も殺された日本がともに戦わないのか」との声が高まっているそうだ。「後藤さんの仇をとれ」「日本人を救えない憲法などいらない」との意見がある一方、「自己責任ではないか」との反論も起こるなど、ネット上では我が国のあり方に対し賛否両論の意見が巻き起こっているが、現実的な問題として、今回の件を考えてみたい。

自衛隊投入にまつわる「膨大なリスク」

 日本人の不当な身体拘束という点では、北朝鮮の拉致問題が思い浮かぶ。拉致被害者は無理矢理北朝鮮に連れていかれたが、湯川さん、後藤さんは危険を覚悟でシリアに入国。後藤さんは「何があっても自己責任」と語っていた。この間、外務省は彼のシリア入国を3回も止めている。

 拉致被害者の救出すらできない我が国は情けない限りだが、それはさておき、拉致問題と今回の件は、同等に扱えないものである。北朝鮮による日本人拉致には自衛隊を投入してでも最大限の救出行動をすべきであるが、危険勧告にも従わず入国した今回の場合は、あくまでも外交交渉による解決を目指すということでよいかと思う。

 北朝鮮のような拉致問題が起こった際は、「日本人に一人でもそんなことをしたら、地の果てまで追いかけて殺すぞ」という国家の意志と覚悟が必要である。当然、自衛隊も積極的に投入すべきであり、そうした体制が、新たな拉致への抑止力となる。

 日本人が拉致されたときに、当該国の警察機関などが救出してくれる態勢にない地域では、自衛隊による救出行動が可能な態勢を整備しておくことが必要である。そのためには現地の地理的情報が必要であり、自衛隊が作戦行動を発起するにあたっては救出に向かう建物等の脆弱性情報が必要になる。「何発のミサイルで目標物を破壊できるのか」というような情報である。さらに、現地で手引きする駐在員も必要となる。

 しかし。これまでの我が国では、自衛隊がそのような情報収集に動き出すと国会で野党が「自衛隊が攻撃準備をしている」と言って追及し、そして防衛大臣が「けしからんことだから関係者を処分します」と答弁してきた。本来ならば、大臣が「それをやるのは当然でしょう」と答弁すべきなのだ。

 こうした流れもあり、現在の自衛隊にシリアやISILの情報はほとんどなく、現状では直ちに救出作戦ができる態勢にはなっていない。

 こんな状況で打って出た場合、自衛隊員がどうなるかは火を見るより明らかだ。ましてやヨルダン人パイロットのような人質を取られたら大変なことになる。加えて、自衛隊を動かすには圧倒的多数の世論の支えがなければならない。

 こうした状況を考えると、今回の一件で自衛隊を投入するなどナンセンスな話だ。

守るべきは“今後の”日本人の安全だ

 一部マスコミは、後藤さんを英雄視したかのような報道をしている。「彼は戦場の悲惨さを伝えたかったのだ」とする文言も見受けられるが、これには違和感を感じざるを得ない。

 マスコミに必要なのは「ごく普通の人の目」「国民目線」だ。事実を伝えることに徹し、一般的な感覚で報道をしてもらいたいが、現在のテレビや新聞の多くは「左傾化した人たち」の手によって成り立っている。メディアが喋らせるコメンテーターも、どちらかと言えば反体制派である。

 安倍総理は、アメリカやイギリスなど先進諸国のリーダーと比べても、非常に抑制されたトーンで喋っている。安倍総理の発言には日本の国民性が表れている。

「安倍総理がISILと戦う国々を支援したから殺された」などと言われるが、これは、テロと戦うな、何もするなと言っていることに等しい。

 安倍総理が語った「ISILと戦っている国々に、人的能力、インフラなどを創るのを助けるために約2億ドルを供与する」「中東の国々に連帯を示すのは当然で、日本は非軍事的支援を行ってきた」「脅しに屈すればテロの効果があったことになる」という言葉が悪いなら、なんと言えばいいのか。テロと戦う周辺諸国など支援しない、というのはテロと戦わないことである。テロと戦わなければ、次から次へとテロが起こるはずで、安倍総理の支援策はテロを防ぐ役割を果たしている。

 後藤さんと湯川さんを救うことが第一だったとして、そのためにテロと戦わない選択をしたり、テロリストの要求に屈したりすれば、また新たなテロを引き起こすだけである。

 まず考えなければならないのは、「“今後の”日本人の安全」なのである。

(撮影/内海裕之)

著者プロフィール

田母神俊雄

軍事評論家、政治活動家

田母神俊雄

1948年福島県生まれ。防衛大学卒業後、航空自衛隊に入隊。統合幕僚学校長・航空総隊司令官を経て航空自衛隊(約5万人)のトップである航空幕僚長に就任。2008年「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を発表、政府見解と異なる歴史認識として航空幕僚長の職を解かれる。2014年、東京都知事選出馬、61万票を獲得。同年12月の衆院選では東京12区から出馬した。おもな著書に『田母神塾』(双葉社)、『ナメられっぱなしのニッポン、もっと自信と誇りを持とう!』(実業之日本社)などがある。週刊誌アサヒ芸能にて「田母神政経塾」連載中。

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