【若者の貧国】奨学金滞納を防ぐヒント…グラミン銀行とは?|門倉貴史コラム

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学費は上がるのに給料は上がらない……
学費は上がるのに給料は上がらない……

 2月10日、北九州市在住のフリーターの男性(40歳)が高校・大学時代に借りた奨学金(延滞金を含めて約283万円)を返還できず、自己破産するというニュースが流れた。奨学金返還のみで自己破産というのは衝撃的だが、若者の貧困が拡大する中、今後も同様のケースが相次ぐ可能性がある。今回は、奨学金の滞納の問題を取り上げてみたい。

 奨学金制度を活用する大学生が増加している。奨学金の貸し付けを行う日本学生支援機構によると、奨学金の貸与者数(無利子の第1種と利子が付く第2種の合計)は2004年度の約84万人から2013年度には約144万人へと1.7倍の規模に膨らんだ。大学生の2.6人に1人は日本学生支援機構の「奨学生」という計算だ。

米国ではクレカ負債や自動車ローン負債を上回る

 なぜ奨学金制度の利用者は増えているのか。背景には教育費のインフレがある。たとえば、現在の国立大学の授業料は年間53万5800円で、1990年度(33万9600円)に比べて1.6倍に上昇した。その一方、ビジネスパーソンの平均年収は1997年度をピークとしてその後はデフレ傾向で推移しており、一般家庭にとって大学の学費が大きな負担となっているのだ。

 大学の学費が捻出できない場合、親の名義で子供の学費を借りる教育ローンの制度もあるが、教育ローンは金利の負担が大きいため、学生本人が低金利もしくは無利子で借りることができる奨学金制度を活用するケースが増えている。

 ただ、奨学金制度の活用拡大に伴って問題も出てきている。それが奨学金の返済滞納の問題だ。日本学生支援機構によると、奨学金の延滞者数は2013年度末時点で33万4000人、延滞総額は957億円にも上る。奨学金を返済せずに訴訟となるケースも増えている。

 米国では、学生の教育ローンの延滞が深刻な社会問題となっている。学生が大学の授業料を払うために借りたローンの残高は、2014年9月末時点で1兆3000億ドルを超え、すでにクレジットカードの負債総額(8492億ドル)や自動車ローンの負債総額(9438億ドル)を上回った。米国で、卒業して社会人になる大学生の7割以上が教育ローンの負債を抱えており、その残高は平均で330万円程度になるとの試算もある。こうした学生の負債の増加は、将来、新築住宅を購入する際、住宅ローンの借入余力の低下を招く。また、負債を抱えた新社会人はクレジットカードの利用も制限される。学生ローンの拡大が、若い世代の住宅投資、個人消費の低迷という形で米国の経済成長の足を引っ張る可能性もある。

 日本では米国ほど学生ローンの延滞問題は深刻化していないが、奨学金制度の活用がさらに広がっていけば、先行き米国と同様の問題に直面する可能性がある。

 では、奨学金の延滞問題を解決するにはどうすればいいのか。米国の場合、奨学金の返還を延滞している人の割合を大学別に公表し、その数値が一定の割合を超えた大学は奨学金を利用できないという仕組みを導入した。日本学生支援機構も2016年度から同様の仕組みを導入する方針を打ち出している。

 米国ではそれなりに効果が出ているようだが副作用もある。この仕組みにすると、延滞率が大学の評価につながりやすくなるので、個別の大学が延滞率を下げるために、奨学金の必要性の高さに関わらず、機械的に(将来の年収が低くなると予想される)成績が悪い学生を奨学金の対象から外す恐れが出てきてしまう。

マイクロファイナンスのように連帯責任を負わせる?

 まずは、奨学金制度を利用する学生に「借りたお金をきちんと返す」という意識を高めてもらうことが先決だろう。実は、奨学金がローンの一種であることを知らない学生は結構な数に上る。日本学生支援機構のアンケートによると、延滞者のうち約3割が、奨学金に返済義務があることを知らなかった。

 奨学金制度は、バングラデシュのグラミン銀行(2006年にノーベル平和賞を受賞)に代表される「マイクロファイナンス(MF)」と似たビジネスモデルとなっている。マイクロファイナンスとは、1日2ドル未満での生活を余儀なくされ、一般の銀行からはお金を借りることができない低所得層の人たちに小口の無担保融資をして、貧困からの脱却や自立を支援する金融サービスのこと。

 マイクロファイナンスを運営する金融機関の多くは、貸倒率を数%と驚異的な低さに抑えている。なぜ貸倒率がこれほど低く抑えられているかといえば、顧客の返済意識が高まるようなビジネススキームを採用しているからだ。

 すなわち、「借りたお金はきちんと返す」という基本原則を徹底し、顧客を5人1組などとして返済に連帯責任を負わせるようにする。あえて連帯責任を負わせることで、自分がお金を返さないと周りの人にも迷惑がかかるという意識を高める効果がある。

 奨学金制度について言えば、学生に「奨学生が卒業後に返還するお金が、次の世代の奨学金として使われる」という基本的な原理をしっかり説明して、理解してもらうだけでも、安易な延滞を防ぐ効果が期待できる。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

公式サイト/門倉貴史のBRICs経済研究所

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