女子レスラー「顔面崩壊」勃発から見る恐ろしい＜セメントプロレス＞史

2015.02.28 08:50 デイリーニュースオンライン

タグ：: プロレス; 事故

　連日にわたってYahoo！トップがプロレスの話題を取り上げるのは、いつ以来だろうか？　22日、東京・後楽園ホールで行われた女子プロレスのメーンイベントで勃発した＜セメントマッチ＞（注1）の波紋が、広がり続けている。

　女子プロレス団体・スターダム（注2）興行でぶつかったのは王者・世Ⅳ虎（よしこ）と挑戦者・安川惡斗。開始早々にパンチを仕掛けた安川に、世Ⅳ虎がブチ切れ。そこから延々と安川の顔面をナックルで殴打。タオル投入で試合は終わったが、安川は頬骨、鼻骨、左眼窩底を骨折し、両目の網膜震盪症と診断された。＜お岩さん＞のようになった安川の顔が公開されるとファン、関係者、ヤジ馬から新日本プロレスのエース・棚橋弘至（注3）までが入り乱れて、大論争を展開中だ。

　確かにプロレスの本質に関わる問題だけに、ナーバスになるのも分かる。しかし歴史を振り返れば、何度となく繰り返されてきたことも事実なのだ。プロレスの範疇を逸脱した、いわゆる＜セメントマッチ＞を構造的に分類してみたい。

通り魔型セメント

　普通のプロレスの試合中、もしくは開始から一方がセメントを仕掛け、対戦相手は戸惑っている間にボコボコにされるタイプ。一番多いケースである……力道山×木村政彦（1954年）、アントニオ猪木×パク・ソンナン（1976年）、アントニオ猪木×グレート・アントニオ（1977年）、神取忍×ジャッキー佐藤（1987年）、小川直也×橋本真也（1999年）など。ちなみにすべて、組み合わせ前者が後者をボコっている。

返り討ち型セメント

　前述の＜通り魔型＞で仕掛けられた方が、セメントに対応。反撃して相手をKO、もしくは戦闘不能状態までに追い込むタイプ。＜正当防衛型＞と言ってもいい……アントニオ猪木×アクラム・ペールワン（1976年）、前田日明×アンドレ・ザ・ジャイアント（1986年）など。前者が、仕掛けられてから反撃した側だ。

ぐだぐだ型セメント

　どちらかがセメントを仕掛けたものの実力差が無かったり、踏み込みが足りなかったり。ひたすら膠着状態が続くか、あまり組み合わずに口喧嘩に終始するようなストレスの溜まるタイプ……前田日明×佐山聡＝当時はスーパー・タイガー（1985年）、鈴木みのる×アポロ菅原（1991年）、北尾光司×ジョン・テンタ（1991年）など。

ひとり芝居型セメント

　セメントの実力が上回る方が一方的に攻め込み、さんざん痛めつけて恥をかかせたあげく、最後だけ負けてみせるタイプ。＜自己完結型＞と言ってもいい……藤原喜明×木村健吾（何回も）、藤原喜明×キラー・カーン（1983年）、スティーブン（ウィリアム）・リーガル×ゴールドバーグ（1998年）など。前者が後者をネチネチ攻めたあげく、あっさり負ける。

　こうして見ると、今回の世Ⅳ虎×安川は典型的な＜通り魔型セメント＞だ。いま新日本プロレスが業界を引っ張り、一般メディアにも肯定的に取り上げらえるようになった。プロレスに追い風が吹いている時だけに、「何してくれてんだよ！」と怒る人が多いのも当然だ。世Ⅳ虎もそれなりのペナルティを受けるだろう（注4）。相手に不要なケガをさせ、プロとして不細工極まりない試合を見せてしまったのだから。

　しかし前述のセメント試合の数々が、見る者の記憶に強烈に残ったのも真実。ショーと片づけられがちなプロレスだが、どこかに凄みを湛えて来られたのはセメント試合の存在も大きい。エンタメとバイオレンスの狭間を、揺れ動きながら進化するのがプロレスの宿命なのかもしれない。

（注1）セメントマッチ…シュート、ガチンコとも言われる。定義が難しいがプロレスの「暗黙の了解」を超えた展開となる試合。
（注2）スターダム…グラドルの愛川ゆず季をレスラーに仕立てたりと、いろいろ仕掛ける団体。社長はロッシー小川氏。
（注3）棚橋弘至…試合そのものより、顔面崩壊を表紙に持ってきた「週刊プロレス」に怒り狂っている。
（注4）ペナルティ…2月25日、所属団体が、世Ⅳ虎の「王座剥奪」と「無期限出場停止」を発表。