【政治とカネ】自衛隊OBの再就職先は「議員秘書」の知られざる内幕

デイリーニュースオンライン

退官後、議員秘書になる隊員も(写真はイメージです)
退官後、議員秘書になる隊員も(写真はイメージです)

『週刊文春』(3月5日号)では、次世代の党副代表で元航空幕僚長・田母神俊雄氏の「政治資金の使い途」に関する記事が掲載された。この記事では田母神氏の秘書には田母神氏と同じく自衛隊出身者が就いていることが明らかとなった。

 実はこの“自衛隊出身の議員秘書”というのは自衛官の再就職先としてよく知られるものだという。自衛隊の各都道府県での連絡、募集業務を行なう地方協力本部勤務経験もある元2等海佐はその実態をこう話す。

「定年退職前の自衛官を議員事務所がリクルーティングするケースは少なくなかった。政党は私が知る限りでは自民党さん、民主党さん。自衛隊を通さず自力で再就職した例だと公明党さんもいる。潰しの効かない仕事といわれる自衛官だが、まさか議員秘書という再就職先があるとは思わなかった」

自衛官OBの秘書の仕事は宛名書き?

 実際、自衛官が議員秘書になるといっても、その後の仕事は採用される個々の議員事務所によって異なることが多いようだ。単なる事務職的な仕事に就く者、議員の政策スタッフ的な活躍をみせる者とその活躍の場は広いようだ。

 陸自を約20年前に定年退官し、与党に属するある参院議員の地元秘書となった元准尉は、「政治には何の関心もなかったが書道の有段者ということで秘書として雇用された。政策立案に携わったことなどない。書類整理と宛名書き。あくまでも書道の腕を買われたものだ」とその実情を明かす。

 自衛隊勤務で備わった安全保障に関する知識、自衛隊の人脈など関係なく、議員事務所側は「元公務員ということで身元がはっきりしているから」(自民党衆院議員秘書)という理由で定年した自衛官を秘書として雇用することも多いという。

 もちろん秘書ではなく議員になる者もいる。自衛隊OB政治家として、もっとも著名なのが市ヶ谷・防衛省前に事務所を構える“ヒゲの隊長”こと、佐藤正久参院議員だろう。

「佐藤参院議員は、防衛省・自衛隊という“組織から請われて国政に出て頂いた”方。なので自衛隊の唯一の政治窓口として、陸海空の3幕の声を正しく伝えて頂けるものと期待しています」(元海将補)

 この元海将補がいう、“組織から請われて国政に出て頂いた”というのは「自衛隊という組織が請うて国政に送り出し自衛隊のために働いてもらう人」という意味だ。だから自衛隊側も、佐藤参院議員については、「何か陳情に赴く際、自分たちの声を代弁してくれる」(元陸将)との安心感があるという。

投票日には演習や長期航海を組まない?

 しかし自衛隊OB議員は、元職も含めると結構大勢いるものだ。現職では中谷元・現防衛相、村井嘉浩宮城県知事、民主党の小原舞元代議士らである。彼、彼女らへの自衛隊側の見方は明確に佐藤参院議員とは異なるものがある。

「彼、彼女らの活躍は認めます。でも、極論すれば、皆、“勝手に国政に出られた方”です。その帰結するところは自らの政治への意欲に尽きます。自衛隊のために国政に打って出たのではない。そこが佐藤参院議員とは違う。だから自衛隊に関する何がしかを相談できるかといえば正直難しいところがある」(陸将)

“勝手に国政に出た”ということでは田母神元空幕長も同じだ。なので世間的に人気のある田母神氏といえども、自衛隊側は「公には付き合いにくい存在」(1等海佐)としての扱いだ。それでも人気があるので田母神氏の下へ集う自衛隊関係者は少なくない。

「自衛隊が認めた候補や当選して頂きたい候補なら、投票日に、陸自なら演習などのスケジュールを絶対に組ませない。海自なら長期間の航海には出させない。空自も陸自同様、投票日前後、外部との友好活動に注力させる体勢を取る」(陸将)

 このような“便宜ではない便宜”を図られるのは「自衛隊が請うて国政に出て頂いた」佐藤参院議員と、「是非とも当選して頂きたい」自民党所属の自衛隊OB政治家だけだと、現役陸将の1人は語る。

 しかし、これではかつての民主党政権時のように国政の場で自衛隊を応援してくれる政治家は誰もいなくなる。民主党や、政権与党だが現役自衛官とは折り合いの悪い公明党などに属する自衛隊OBをテコに食指を伸ばすことはないのか。

「国益、ひいては自衛隊のために無心で骨を折ってくれるのは佐藤参院議員だけ。その佐藤参院議員が属するのが自民党。だから自衛隊が応援するのは自民党まで。公明党は陸自は最大限の敬意を払っている。空自も同じだろう。でも海自は難しいのではないか」(前出の陸将)

 陸海空の統合運用化が進んだといわれるが政治との距離の取り方は3幕3様の動きをみせる。伝統的に政治巧者と呼ばれる陸だが、議席を持つ自衛隊OB政治家は不思議に陸自出身が多い。同じ自衛隊でも制服の色が違えば別世界だ。自衛隊OBといってもそこに海自、空自の入る余地はないのかもしれない。

(取材・文/秋山謙一郎 Photo by 100yen)

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