【淡路島5人刺殺事件】「集団ストーカー」妄想に取りつかれた容疑者の異様ぶり

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激しい被害妄想の末の凶行だった
激しい被害妄想の末の凶行だった

 兵庫県の淡路島で男女5人が刺殺された事件。洲本市の無職・平野達彦容疑者(40)が、近所に住む平野毅さん(82)と平野浩之さん(62)の自宅に押し入り、刃物で両一家を殺害するに至った。この凶行は世間に衝撃を与えているが、ネット上では平野容疑者のTwitterとFacebookの異様な書き込みに注目が集まっている。

事件前日までネット上で荒唐無稽の中傷

 平野容疑者は10年ほど前に開設したブログで「集団ストーカー犯罪」「テクノロジー犯罪」の被害を受けていると主張。今年1月末ごろからは主張の場がTwitterに移り、プロフィール欄には「日本に来訪の外国人や日本国民全員をスパイとして使用する為に、日本政府は何十年も前から各地で電磁波犯罪とギャングストーキングを行っています。日本政府は米軍ユダヤと共謀しています」と記して、1日平均70件にも上る異常な書き込みをしていた。

 事件前日の3月8日のツイートでは「人類の敵」として平野毅さん一家を名指しし、その個人情報を記すとともに「インターネットドメインを奪われる」「電磁波兵器で他人の心をのぞき見と洗脳」といった被害を受けていると主張。さらに、毅さんらが某宗教団体の信者で暴力団員でもあるなどと記し、その自宅住所や地図まで公開していた。

 また、平野浩之さん一家についても「電磁波犯罪と集団ストーカー犯罪を行っている」とし、ほかにも近隣住民の個人名を上げて「工作活動をしている」などと書き込んでいた。被害者らは警察に「Twitterの書き込みは人権侵害に当たるのではないか」と相談し、事件化を求めていた矢先の凶行だった。

 もちろん、これらの書き込みは平野容疑者の被害妄想と推察される。平野容疑者は他にも「3.11は地震兵器による人工地震」などといったツイートもしているが、いずれも支離滅裂な主張で信憑性は皆無だ。

容疑者が陥った「集団ストーカー妄想」とは

 平野容疑者が主張していた「集団ストーカー被害」。「ストーカー」という概念の定着とネットの普及に伴って広まった言葉であり、2007年に発売された新書『集団ストーカー—盗聴発見業者が見た真実』(古牧和都・著/晋遊舎)ではタイトルに使われるほどになった。同書では「集団ストーカー被害の大半は心の病を持つ患者の妄想」と断言されているが、いまだ被害を主張する者は後を絶たない。

 ネット上には被害に遭っていると主張する書き込みが驚くほど数多く存在し、それらを見てみると「宗教団体」「ユダヤ」「CIA」といった巨大組織の構成員たちが特定の個人に嫌がらせを繰り返し、ときには電磁波兵器での攻撃や盗聴、監視のために住居上空をヘリで旋回するなどといった行為をしてくるという。

 これらは「皆が自分の悪口を言っている」「近所の人たちが結託して嫌がらせをしている」などといった典型的な被害妄想症例の発展型といえるだろう。そういった妄想でパンパンになった平野容疑者が、近所でトラブルを起こした末に被害者を「敵」と思い込み、凶行に及んでしまった可能性がある。

「病人の被害妄想」と切り捨てられぬ現実

 今回のような「集団ストーカー」妄想が事件に発展したことは過去にもある。2011年に発生した「マツダ本社工場連続殺傷事件」では、元従業員の男が工場敷地内で車を暴走させ12名を殺傷(死亡1名、重軽傷11名)。犯人の男は「同僚から集団ストーカーをされていたが、会社が嫌がらせを止めなかったので復讐しようと思った」と供述したが、警察の捜査では嫌がらせの事実が確認できず、被害妄想だったと判断された。

 かといって「集団ストーカー」の全てが妄想というわけではない。実際に重大な犯罪となったケースもあり、1999年に女子大生が元恋人らのグループから度重なる脅迫・中傷を受けた末に殺害された「桶川ストーカー殺人事件」は代表例。また、2011年には某宗教団体を脱会した女性に複数の信者が自宅付近で付きまとい行為などをしたとして刑事事件になっている。

 電磁波兵器などといった荒唐無稽の主張は論外だが「集団ストーカー=妄想」と切り捨てられないのが現実だ。この現実の事件の存在が「集団ストーカー妄想」を補強してしまっている側面もある。

 また、当然ながら「集団ストーカー」の妄想に取りつかれた人たちのほとんどは犯罪行為に及ぶことなく、通院治療などで必死に病と闘っている。その家族も懸命にサポートしようとしている場合が大半だ。だが、このような事件が今後も起きれば、いわれなき差別や偏見につながる恐れもある。これらの問題をどうやって解決していくべきか、誰もが頭を悩ませるところだ。

「被害妄想」が「ネット中毒」で増幅

「平野容疑者のTwitterのフォロー欄には『集団ストーカー被害』を訴えるアカウントが散見される。彼は引きこもり状態で一日中ネットをしている状況だったようですが、被害を肯定するような情報ばかり見ていた結果、妄想が凝り固まっていった可能性がある。被害妄想とネット中毒が合わさるのは危険です。平野容疑者は1年半前に明石市の精神科病院を退院して実家に戻ってきた経緯がありますが、退院時期の是非やネットの悪影響などは今後議論していくべき課題でしょう」(医療関係者)

 ネットは自分の求めている情報に触れやすい世界だが、それが被害妄想を悪化させてしまうことがあるようだ。そういった状況に陥らせず、適切な治療を受けさせることが重要。場合によっては警察の介入で事件を未然に防ぐことも必要だろう。

 だが、現実問題として難しい部分が多々あるからこそ事件が起きている。これは官民の区別なく、今後我々が考えていくべき問題の一つといえるだろう。

(取材・文/夢野京太郎)

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