【中国】話題の“大気汚染”告発ドキュメンタリー動画は共産党の陰謀だった!?

デイリーニュースオンライン

ドキュメンタリー映像『穹頂之下』より
ドキュメンタリー映像『穹頂之下』より

 こんにちは。中国人漫画家の孫向文です。

 中国の大気汚染は深刻です。中国で白シャツや白スニーカーを身につけた人を見ると、ほとんどが真っ白ではなく灰色にすすけてしまっています。たとえ一日中家に引きこもって仕事をしていても、ティッシュで鼻をふくと、それですら黒っぽくなったことがあって、恐怖を覚えたものでした。パンダですらも、黒と白ではなくて、黒と灰色になっているというのは、まるで冗談のような本当の話です。

 肺がんの発生率はこの30年間で465%も増えています。10~20代で、煙草も吸わない若者たちですら肺がんになっているのだから、この大気汚染の深刻さがお分かりいただけるでしょう。

 現在、中国では全人代が開催されていますが、その議題の中心になっているのが、まさにこの大気汚染。人民代表大会ではおおむね「石炭を排出する企業が大気汚染の原因」と結論付けられています。

 確かにそれは大きな要因なのでしょうが、国民の多くは「大気汚染の根本原因は、それを取り締まらない政府」だと考えています。そもそも、石炭を使用する企業と官僚が賄賂で結びついているため、そういう企業が野放しにされているのです。

2日間で1億回再生された「穹頂之下」

 この全人代の開催に先立つ2月下旬、PM2.5問題を告発するドキュメンタリー映像「穹頂之下」がネット上で公開されました。これを制作したのは、元機関メディアCCTVのジャーナリスト柴静氏。

 柴静氏は、自身のお腹の中にいる赤ん坊が癌だと診断されたことから、それを制作のモチベーションにしてこのドキュメンタリーを制作しました。なぜ、現在、中国ではこういう環境汚染が起きているのかといった解説から、今後どうすればいいのかという解決方法に至るまで、柴静氏は、多くの識者にインタビューして大気汚染の真実に迫っています。

 中国の主要メディアは、このドキュメンタリー映像を大々的に報道しました。そして、2日間で1億回もの再生回数を記録するに至り、国民の関心を集めました。

 ですが、この映像が話題になればなるほど陰謀論が渦巻きました。なぜ、柴静氏は、この映像を作ったのか。その背後では、政府が糸を引いていたのではないかということです。

 昨年から、習近平は汚職官僚や汚職企業を厳しく取り締まっています。それは「習近平の虎退治」として国民の支持を受けていますが、取り締まりの対象は、主に習近平と対立する政治家や、それと結びついている企業です。

 全人代を前にしてこのドキュメンタリーを流すことで、習近平は、自身のライバルの派閥、並びにその派閥と結びつく企業の一網打尽を狙ったのではないか。つまり、大気汚染を政治闘争の道具として利用することを思いついたのではないかと想像できるのです。更に、習がそれを実行すれば、国民の間でヒーローに祭り上げられる効果も狙っているようにも思えます。

 そんな陰謀論の根拠が、このドキュメンタリー映像の豪華さです。ベストセラー作家でもある柴静氏は、今回、2000万円もの製作費を自分で投じてこのドキュメンタリーを制作したとのことです。

 ですが、いくら金持ちとはいえ、この映像は映画館などで上映するわけでもありません。はたして、採算の取れる見込みのない映像だというのに、なぜそれだけのお金をかけて作ったのでしょうか? 

 柴静氏は元機関メディアのジャーナリストという経歴を持つだけに、政府の後押しを受けたとしても不思議ではありません。柴静氏はあくまでも自主制作を強調していますが、香港メディアの一部も政府出資説を唱えました。映像の中で用いられている資料が豊富で、政府が保有するデータも活用されていると思われたためです。とても個人で制作できるレベルではないのです。

 現在、政府は、このドキュメンタリー映像の影響力の強さを警戒しているのか、再生を規制しています。国民の非難の矛先が石炭企業ではなくて政府に向けられることを危惧しているのでしょう。

 実際、柴静氏の動画に感動した主婦たちが、3月8日の「国際婦人」の日に「大気汚染は政府の責任。国民全員被害者!」というプラカードを持ってデモを起こしました。ですが、すぐに拘束されました。政府としては、「悪いのは政府ではなく、石炭産業の汚職幹部」にしたいのでしょう。

 今後、はたして大気汚染の問題は解消されるのでしょうか? 僕は無理だと思います。「政府の責任だ」と指摘され、そのデモの人々を逮捕するような政府に、いったい何を期待すればいいのでしょう? 彼らは自分の身を正すつもりなんて全くありません。ただ単に対立する政治家を闇に葬りたいだけなのです。こうして中国人の肺がん率は更に高まっていくのです。

著者プロフィール

漫画家

孫向文

中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)

(構成/杉沢樹)

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