生活保護から臓器売買まで…韓国社会を蝕む2つの“外国人”勢力

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中朝国境を超えて脱北する北朝鮮の人民
中朝国境を超えて脱北する北朝鮮の人民

 韓国は今、二つの大きな“外国人”問題を抱えている。

 まず、一つは脱北者、すなわち北朝鮮から亡命してくる人たちの流入だ。北朝鮮の経済的困窮が要因となり、90年代後半から増加の一途を辿っている脱北者だが、その数は「2014年の段階でおよそ2万6000人になった」と、韓国当局は発表している。

 彼らは韓国でどのように生活を始めるのだろうか。脱北者問題を専門にする韓国紙の記者は言う。

「脱北者はまず、韓国に到着すると『北韓(北朝鮮)離脱住民の保護および定着支援に関する法律(1997年制定)』の定めにより、経済的自立のための支援を受けます。社会適応施設で教育を受け、資本主義社会での生活方法について学ぶのです」

 同記者によれば、脱北者は約1年にわたる教育カリキュラムを履修した後に、国から約70万円の助成金を受け取り、実際に生活をはじめることになるそうだ。また、韓国ではじめて入居した日から計算して5年間、別途に生活支援を受け取ることもできるようになっているという。例えば、月間の家計所得が約9万円を下回る場合、生活保護を受け取ることが可能だ。

 ちなみに、一般の韓国人が生活支援を受け取ることができる条件は家計収入が約6万円を下回った場合。5年間という時間的制限はあるものの、脱北者の方が条件的に厚遇されている側面もある。脱北者の多くが女性で、子育てをしながら韓国社会に適応しなければならないという状況が考慮されているそうだが、当然、韓国社会からは不満の声も聞こえてくる。外国人であり敵国出身者である脱北者を、自国の国民より優遇することについて、「不公平だ」と指摘する世論が後を絶たないのだ。

「脱北者は、韓国に亡命する際にブローカーにお金を渡す約束をしているケースが多い。国から出る支援金を、すべて渡すことを前提に亡命してくる人たちも少なくありません。また、脱北者を騙す韓国人も少なくない。『金儲けさせてやる』と生活費を騙し取るんです。必然的に、彼らは社会制度が違う異国で、ほとんど無一文からの生活することを余儀なくされる。そう考えると、支援は充分とは言えないのですが……。生活が困難な韓国国民も少なくないですし、一部の国民世論も決して間違った指摘ではない。いずれにせよ、脱北者が増え続けるのであれば、何か根本的な対策や、国民的合意が必要な時期にあると考えています」(前出の韓国紙記者)

 一方、脱北者を雇用したことのある韓国人経営者は別の角度からこの問題を見ている。

「社会主義社会で生きて来た脱北者には“働いて稼ぐ”という観点があまりない。職を与えても労働意欲がないのです。以前、休憩していいと言ったら2時間帰ってこなかった。そういうことは日常茶飯事。しかも与えた給料はその日のうちに使い切ってしまう。高い酒を飲んだり、風俗に行ったり、資本主義の誘惑に負けてしまうのです。それに、違法なことですが30万円くらい払えば、ブローカーに頼んで北に残した家族を連れてくることもできる。しかし、そういう目標も持てないほど無気力なんです。しかも、そういう彼らに浸け入って利用しようとする韓国人も多い。政府がどう支援するかも重要ですが、脱北者自身が韓国社会で生きて行くと強く決心しないと、解決しない問題もある」

 なかなか進まない、脱北者の韓国社会への適応だが、最近では逆に韓国から再度、北朝鮮に“亡命”する「入北」という現象もおきつつある。北朝鮮に戻った元脱北者たちは、「韓国社会は自分たちを受け入れなかった」「資本主義は堕落している」と非難。北朝鮮政府は、メディアを通してその告発を国民に伝え、自国のプロバカンダとして利用している。

猟奇事件多発で人肉流通、臓器売買の関与を疑われる朝鮮族

 韓国社会を取り巻くもうひとつの外国人問題は、朝鮮系中国人=朝鮮族の増加だ。現在、約60万人以上の朝鮮族が韓国に在留しているという統計があり、主に凶悪犯罪との絡みで報道されることが増え始めている。

 2012年には、オ・ウォンチュンという朝鮮族男性が女性を殺害。その死体を280片に切り刻み、14つのビニール袋に入れて保管するという残虐な事件が起きた。犯人は「レイプ目的で殺害してしまった」と証言したが、死体から体液が検出されず。また肉片は血抜きされていたという情報が出回り、巷では「人肉流通」「臓器売買」の目的で殺害したのではないかという噂がまことしやかにささやかれはじめた。また、昨年にはパク・チュンボンという朝鮮族男性が、同居人の女性を殺害。バラバラにして遺棄した事件が世間を震撼させたが、2年前と同様に「朝鮮族臓器売買関与説」が、韓国中で話題となった。

 臓器売買への関与はほとんど都市伝説に近いという捜査結果が明らかになっているものの、韓国に脱北してきた女性たちの多くは、朝鮮族の犯罪組織による人身売買の被害を受けたことがあると明かしており、韓国社会でも「臓器売買」や「人身売買」がひそかに行なわれているという疑惑は晴れていない。

 その他にも、インターネットチャットを利用した美人局で約3000万円を脅し取ったとして、2015年2月に朝鮮族の犯罪組織が摘発されるなどの事件が相次いでいる。韓国社会では朝鮮族は「お金のためなら凶悪犯罪を厭わない人々」というネガティブなイメージが定着しはじめており、韓国社会に適応し真っ当に暮らす朝鮮族の人々の生活にも、悪影響がおよびはじめている。2015年3月17日には、朝鮮族の排除を求める50代男性が凶器を持って暴れる事件が起きたが、同事件により朝鮮族1人を含む2人が死亡、1人が重傷を負った。

 脱北者と中国朝鮮族は、韓国人にとっていわば半同胞、半外国人となる存在。多文化共生をすすめる韓国にとって、ふたつの“外国人”問題は、身近にある悩みの種として今後も多くの議論にさらされそうである。

(取材・文/中川武司)

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