【北朝鮮】「突撃隊」でプチ暴動…プレゼントをもらえず上官がフルボッコにされた話

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土木工事に動員される労働者たち
土木工事に動員される労働者たち

 4月15日は故金日成氏の生誕記念日である「太陽節」の日。建国の父の誕生記念日ということもあり、かつては「特別配給」というプレゼントが国民にとってなによりの楽しみだった。

 プレゼントは現物だけではない。いわば“表彰”という形で「労働党員の入党」を推薦されることもある。近年では必ずしもそうではないが、労働党員になることは出世の道が開かれることから、やはりその“値打ち”は高い。

 今回は、このプレゼントをめぐってプチ暴動が起きた事件について取り上げてみよう。

 北朝鮮には「青年突撃隊」、通称「突撃隊」という志願制の組織がある。軍事訓練も行うが、正規軍ではなく、主に大規模な建設事業を行う。いわば、北朝鮮の公共事業の現場労働者たちだ。

 今から6年前の2009年の3月、北朝鮮北部の由緒ある建設現場で突撃隊が成果をあげたことから、存命中だった金正日氏は以下のような指示を出した。

「立派に成果を上げた突撃隊員には、褒美をあげなさい」

 北朝鮮で金正日の“お言葉”は「絶対服従」である。突撃隊の上官たちはカラーテレビ、冷蔵庫などのプレゼントに加えて、3年以上従事した突撃隊員全員に「労働党に入党」させるという大判振る舞いを提示した。

突撃隊員が酔った上官を急襲しフルボッコに

 プレゼントがもらえるとしたら4月15日の「太陽節」しかない。隊員達は心待ちにしていたが、13日になってもプレゼントが届いた様子が見られず、入党推薦の話も出て来ない。実は、上官たちはプレゼントも入党も用意できなかったのだ。北朝鮮では、こうしたプレゼントも現場でやりくりしなければならず、入党推薦も現場の指揮官のコネが物を言う。実は、彼らにそれほどの力がなく、面子を守るために、適当にごまかしていたのだ。

 事情がバレたことから、突撃隊員はブチ切れ、その日の夜に事件は起こった。

 入党推薦されなかった隊員を先頭に、プレゼントを貰えず不満が頂点に達した突撃隊員達は、上官たちが酒を飲んでいる司令部の食堂におしかけ激しく抗議。既に酒を飲んででき上がっていた上官たちは、適当に言いくるめて追い払おうとしたが、そのナメた態度が他の隊員達の怒りに火を付け、外で様子を見ていた隊員たちは司令部に向かって石を投げながら叫んだ!

「中隊長! 出て来やがれ!」

 怒号を合図に、突撃隊員たちは次々と食堂に突撃。上官たちに襲いかかり殴る蹴るの暴行を加え、フルボッコにするという北朝鮮ではあり得ない光景が繰り広げられた。

 騒動を聞きつけた地元の警察や軍隊が鎮圧に乗り出し、暴動はなんとか制圧。「首謀者を罰せよ」という声もあったが、ごまかした上官にも非があることから、内々で治められたという。

 突撃隊員たちは、貧しい家庭出身者が多い。彼らからすれば、辛い労働を一生懸命やれば「将来の道が開ける」という思いで健気に頑張ったわけだが、それすらも裏切られたことが事件のきっかけだった。同時に、独裁者・金正日氏の鶴の一声によって、割を食うのは現場の司令部や労働者という独裁国家ならではの弊害がよくわかるエピソードだ。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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