【官邸ドローン事件】山本容疑者を“反戦左翼”にした航空自衛隊という土壌

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警察はドローンの入手経路について調べを進めている
警察はドローンの入手経路について調べを進めている

 4月25日、総理官邸の屋上に小型無人飛行機(ドローン)が見つかった事件で、無職の山本泰雄容疑者(40)が福井県警に出頭し、威力業務妨害容疑の疑い逮捕された。容疑者の供述から、犯行は政府の原発政策に抗議しての行動だったとみられている。

 山本容疑者は県立工業高校電子機械科を卒業後、航空自衛隊に入隊。除隊後、本人のブログによると、派遣社員や電機メーカーに勤務し、意に沿わない転勤を命じられたことから依願退職したという。その後は特に職に就くことはなかったようだ。

 高校時代の山本容疑者は、「目立ちたがりな一面があった」(高校の同級生)が、原発反対など、何か政治的意見を持つタイプの人物ではなかったという。

“反戦左翼”を輩出するのは空自だけ?

 今回の事件を受けて、山本容疑者の「元航空自衛官」という経歴が表に出たことについて航空幕僚監部関係者はこう話す。

「自衛官時代は目立ったタイプの人物ではなかったと聞いています。今、空自として困惑しているのは、彼が“原発反対”を叫び、自衛隊の最高指揮官でもある総理が執務する総理官邸を狙ってドローンを落下させたこと、ここに尽きます。何でうちから退職した人間は“左”に走るのか。陸や海の他幕からも冷やかされており、正直、迷惑してます」

 この空幕関係者が語る「空自出身の左翼」とは、1969年に自衛隊の治安出動訓練を拒否し、自衛隊法違反で逮捕経験もあり、“反戦自衛官”として知られる出版社社長のK氏(66)のことを指す。

 現在、「自衛官人権ホットライン」事務局長として、自衛隊内のいじめ問題にも精力的に取り組むKさんは航空自衛隊のみならず、陸・海の他自衛隊をも含め、いわば“敵”として認知されている。

「ジャーナリストとして活動しているK氏の存在は自衛官の間でもよく知られています。特に階級の低い自衛官の間では、パワハラ、イジメ問題など、何かあれば『元航空自衛官、ジャーナリストのKさんのところに行けばいい』と。いわば“駆け込み寺”としての役割をはたしている。それが自衛隊としては脅威であり、怖い」(前出・空幕関係者)

 陸・海・空の3自衛隊を見渡すと、著名な“元自OB”のうち、左翼的な活動で知られるOBを輩出しているのは「空自だけだ」(防衛省事務官)といわれる。

空自は保守の重鎮・田母神閣下も輩出した

 なぜ空自は“左翼”を輩出するのか。その背景について前出の空幕関係者が語る。

「旧海軍の伝統を引き継いだ海自は、新隊員時の躾や教育が旧海軍そのまま。だから思想、精神教育も徹底している。除隊後、元海自で“反政府”“反海自”として知られる人はほとんど出ていない。陸も同じ。海自と違い、旧陸軍の伝統を継いだわけではないが、それでも陸自の用語、考え方は旧陸軍の考えが生きている。しかし空自は戦後発足した組織。典型的な現代の組織なのです。だからではないですか……」

 もっともこの空幕関係者によると、今回の事件を受けて「元空自の左翼」ばかりが注目されているが、対する“右”でも人材を輩出していると語る。

「元空幕長の田母神俊雄氏です。腹蔵ないところをお話しますと、空自は左右、極端な人間を何年かに一度輩出する傾向がある。多くは左右関係なく、非常に真面目に勤務している自衛官、退職後も特に過激思想を表に出さない温厚な人柄の人が多いですがね。それはご理解頂きたい」

 本来、自衛官は入隊時、「政治的活動に関与せず」と宣誓し、自らが持つ政治への思い、社会への思いを封印して勤務にあたる。退職後もそうした生き方を貫く者が多い。

 だが陸・海・空3自衛隊中、アメリカ空軍の組織をモデルにしたといわれる空自は陸・海に比して、自由闊達な雰囲気がある。思ったことを素直に口に出来る自由さがある。

「近年の田母神さん、“反戦自衛官”と呼ばれた頃のKさん、その立ち居地は違うが、どちらも今では自衛隊のみならず社会で意味ある仕事をされていると思います。そこは航空自衛隊現職として秘かに誇りに思っていますよ」(前出・空幕関係者)

 何か事を成す人は目立つところがある。陸・海のように伝統に縛られない空自ならではの組織風土が、その時々の時代性に即した発言を過激ながらも行なわせるといったところか。しかし今回のドローン事件は犯罪である。何かを伝えるならば言論で行なうべきだ。犯罪を通して社会にメッセージを伝えることはいかなる社会でも許されるものではない。

(取材・文/秋山謙一郎)

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