京都の佐川印刷で発生した80億円不正流用事件の闇

デイリーニュースオンライン

写真は佐川印刷HPより
写真は佐川印刷HPより

 ゴールデンウイークの最中、久々に大きな経済事件が発覚した。

 総合印刷大手「佐川印刷」(京都府向日市)の元財務担当役員が、約80億円を知人の会社経営者などに、不正流用したというもの。取締役会の決議は経ておらず、会計処理を粉飾、虚偽会計を報告していたというから刑事事件化は間違いない。

 ただ、単なる不正流用事件というには巨額過ぎるし、登場人物は京都経済界の名士や海外在住のモータースポーツ業界の著名人など多彩。流出の経緯や資金の流れには不可解なことが多く、事件の奥は深い。

5年間も表面化しなかった謎

「京都で佐川」といえば、佐川急便の故佐川清会長が創業した会社と思われがちだが、会社を興したのは木下宗昭会長。証券会社を経て印刷業に飛び込み、日参した佐川急便で、佐川氏の「急な注文」を必死で間に合わせ、佐川氏に気に入られ、出資も得て「キノシタ印刷」を「佐川印刷」と社名変更したという逸話を持つ。

 今や連結売上高が1000億円を超える印刷大手となり、京都の有力企業として知られているが、年間の利益が吹っ飛ぶ不正流用事件には謎が多い。

 第一に、未上場とはいえこれだけの規模の会社で、財務や経理は社内外でチェックをしているはずなのに、発覚の今年1月まで、5年近くも表面化しなかったのはなぜか。

 第二に、問題の役員は既に不正流用の事実を認め、会社に報告書を提出しているのに、マスコミが報じた5月2日の時点でも、会社が刑事告訴をしていないのはなぜか。

 第三に、不正流用のうちの60億円以上は、2人の「京都の著名人向け」で、なんらかの“しがらみ”による融資と思われ、そこに関与した人物は誰なのか。

 要は、元財務担当役員が、私利私欲で犯した横領事件で片付けるには無理がある。

 例えば、京都府のゴルフ場買収資金で7億2000万円が供出されているが、流出先の投資会社代表は、呉服やホテルを経営していた京都の名門の御曹司である。

 また、54億円を拠出していた知人の会社は、シンガポールでサーキット場を建設中に頓挫し、投資資金は焦げ付いた。

元役員は海外脱出済み!?

 双方とも、32年前に佐川印刷に入社。財務・経理畑を、コツコツと歩んで出世した元役員が、単独で選ぶ事業、親密な人間関係先だとは思えない。

 内部調査に時間をかけ過ぎた結果、元役員は海外に脱出。54億円不正流出先の会社経営者と行動をともにしている可能性が高いという。

 刑事告訴による捜査着手はこれから。資金の出処と使い道、そこに絡んだ人脈の税務面の調べも併せ、徹底解明する必要がある。

伊藤博敏
ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある
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