【北朝鮮】離婚の審査期間を10年に延長した理由

デイリーニュースオンライン

北朝鮮の夫婦生活は辛いよ!?
北朝鮮の夫婦生活は辛いよ!?

 北朝鮮の国家は、国民に対して海外旅行の自由を認めていない。ただ、あれこれコネを使ったり、社会的に地位のある人に保証してもらったりすれば、どうにか許可を得て出かけることはできる。

 しかし近年、こうしたプライベート旅行者も窮屈な祖国に帰るのを嫌い、帰国しようとしないケースが増えている。そんな問題に頭を悩ませてきた北朝鮮当局は、あるひとつの作戦に打って出た。帰国しない旅行者夫婦の離婚を認めないことにしたのである。

 どういうことか。順を追って説明しよう。

 北朝鮮では通常、一般住民が離婚を申し出た場合、3年の請求期間を経て、ようやく認められていた。北朝鮮はこれを、帰国しない旅行者については10年に延長したのだ。

 当局はプライベート旅行者に対し、法的に家族同伴を禁じている。帰国せず外国に亡命してしまうような事態を防止するため、北朝鮮に残った家族を“人質”にしているわけだ。また、旅行者が逃亡した場合、家族を監視することでその行方を追跡することもできる。

離婚を認めてもらうには高額な賄賂も必要

 プライベート旅行者が帰国しない場合、家族は連座制により朝鮮労働党への加入が禁止されるなどの不利益を受ける。ただ、夫婦が離婚すれば、子どもは父親の成分(社会的な身分)のみを受け継ぐため、将来において不利益を受ける要素は減少する。そのため、妻が海外旅行に出かけてそのまま帰らず、外国から北朝鮮の家族に仕送りをしながら、子どもの将来のために国内に残った夫と離婚する、などといったケースが増えているのだ。

 北朝鮮国内にいる「デイリーNK」の協力者が、次のように話す。

「プライベート旅行に出かけた母親のために息子が大学に行けなくなった家庭を知っている。離婚することに家族が合意し、裁判所に出向いたところ治安機関である国家安全保衛部の承認が必要だと言われた。保衛部に行ったところ承認してくれず、現在まで離婚できていない」

 別の家庭の場合、やはり妻が中国に行ったきりになっている。息子の未来を案じて妻と離婚を偽装しようとしたところ、やはり承認がなかなか下りない。保衛部に行き「祖国を裏切った妻と離婚させて欲しい。何故認めてくれないのか」と抗議して、ようやく離婚が認められたという。そんな抗議が実ればマシな方で、離婚を認める代わりに高額な賄賂を要求される例も少なくない。

 離婚を偽装して出稼ぎに行っても、当局者に賄賂をせびられ続けてはたまらない。離婚を偽装する人々はそれでも、故郷である北朝鮮に愛着を持っている人が多いはずだ。そんな人々まで窮地に追いやるものだから、北朝鮮から一家全員で逃れるような脱北者が後を絶たないのだ。

著者プロフィール

高 英起

デイリーNK東京支局長

高 英起

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNK」の東京支局長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』(新潮社)など。@dailynkjapanでも日々、情報を発信中

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