【資産フライト】出国税導入で浮き足立つ日本人富裕層の今
「出国税」をご存知だろうか。
海外に住所を移す際、「金融資産の含み益に対し、出国時に所得税を課す制度」で、7月1日から導入される。
といっても、金融資産が1億円以上の富裕層向けなので、ほとんどの国民には無縁。その分、報道は少なく、一般国民は意識もしないのだが、数十億、数百億円の資産を持つ富裕層の気持ちは乱れている。
彼らに接触する機会の多いプライベートバンカーが、気持ちを代弁する。
「資産家に対する税金が、年々、重くなっており、日本を脱出、海外移住を考えている人は少なくありません。それだけに、どうせ移住するなら出国税導入の前に、と頭を悩ましている人が多いんです」
非居住者スキームの終焉
現金でそれだけの資産を持っている人はおらず、大半は成功した起業家で、資産は持ち株である。上場に成功、その後、順調に事業を伸ばした経営者のなかには、数十億、数百億円の資産を持つ人がザラだ。
「出国税」は、そうした層を狙い撃ちする。創業者だから簿価は低く、含み益は膨大。半年以上、海外に移住し、日本の「非居住者」となる資産家の思惑は、日本の税体系から逃れる「節税」なので、「出国税」を課せられたら「節税」にならない。
「だから今のうちに」
というわけだ。
最近も、東証一部上場企業のオーナー経営者が、引退してシンガポールに移住。「出国税対策」をささやかれた。
「国外財産調書」未提出にはペナルティも
日本脱出も無理はない。
出国税の前には、海外に5000万円以上の資産を保有する資産家は、「国外財産調書」の提出を義務付けられた。既に、周知期間は終了。今年から未提出には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が適用されるようになった。
最高税率は、今年1月から所得税で45%、相続税で55%と、それぞれ引き上げられたが、今後とも「上げ基調」であるのは、1000兆円を超える「国の借金」を考えれば間違いなく、トマ・ピケティの『21世紀の資本』は、富裕層増税のための教科書だ。
さらに来年から導入されるマイナンバー制度は、資産と収入を把握されてもどうということのない一般国民にとっては、政府のいう「行政サービスの向上と公平性の確保」につながるものだが、富裕層にとっては、金資産課税を招来する危険な制度だ。
酷税国家日本を脱する人に課す出国税──。
それでも脱出する人間を留めおく法律はなく、最終的に国家が果たす役割は、高額納税者を納得させられる国づくりしかない。
- 伊藤博敏
- ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある